文房具ルメ

パール金属のシボレートングレトルトバサミ

このハサミは文房具か、文房具ではないか。それが問題だ。

「いやいや、ハサミは文房具でしょ」と思われた方もいるかもしれないが、「文房具」という言葉の由来を知ると、この迷いもご理解いただけるのではないだろうか。

「文房具」の「文房」とは、今でいうところの「書斎」である。「文房」に備える「道具」だから、「文房具」というわけだ。古代中国では、特に「筆」、「墨」、「紙」、「硯」の4つを指して「文房四宝」と呼んでいた。

そう考えると、今回のアイテムは厳密にいうと「文房具」ではなく「厨房具」、つまりはキッチン用品ではないか、と思うのだ。しかしながら、「文房具(グ)ルメ」という本連載のタイトルとしては、ある意味これ以上ないほどにベストマッチ、ともいえる。なので、文房具ではないかも、という可能性には目をつぶって、あえて取り上げてみたいと思う。

さて前置きが長くなったが、今回紹介するのはパール金属の「シボレー・トングレトルトバサミ」。その名の通り、レトルト食品を扱うのに特化したハサミである。

思えばコロナ禍で、外食の機会は減り、在宅ワークは増え、レトルト食品に頼ることが今まで以上に多くなった、という方もたくさんおられるのではないだろうか。かくいう私も、その一人である。

お湯で温めるだけですぐに食べられるレトルト食品は、在宅ワーク中のランチなど、手間と時間をかけられないシーンの強い味方だ。それに、最近のレトルト食品はとても美味しい。特にカレーはバリエーションも豊富で、選ぶ楽しみもあってまったく食べ飽きない。

しかし、食べる機会が増えたからこその不満もある。例えば、お湯から取り出すとき。手だと火傷をするので菜箸やトングを使うのだが、ツルツル滑ってなかなか取り出せなかったり。パウチを手で開けようとしてアチアチとなったり、スムーズに開かなくて切り口がガタガタになったり。中身がなかなか最後まで出せなくてイライラしたり。

ひとつひとつは小さなことだが、積もり積もるとまあまあのストレスになる。そんなときに便利なのが、この「シボレー・トングレトルトバサミ」なのだ。
文房具かはわからないがハサミは便利だしカレーはウマい
まず先端部分はトングになっており、グラグラと沸騰したお湯の中から確実にパウチをキャッチできる。次にギザギザとカーブのついた刃で、パウチの口も滑ることなくきれいにカット。そして極めつきは、なんといっても歯の横についた「絞り棒」だろう。刃と棒のスキマにパウチを差し込めば、中身をしっかりと絞り切ることができるのだ。また、分解してすみずみまで水洗いして清潔を保つことができるのも、食品を扱う道具としてはありがたい。

しかしこのハサミ、通常のキッチンバサミとしては、お世辞にも使いやすいとはいえない。今あるキッチンバサミをこれに置き換えられるかというと、難しいだろう。「あくまでもレトルト食品を扱うのに特化したハサミ」なのだ。

だが一芸特化は、道具にとって必ずしも悪いことではない。文房でも厨房でも、専用の道具はあると便利だ。万人が必ず持つべきものとはいえないかもしれないが、使う機会の多い人であれば持っていて損はないだろう。

ところで昔の中国では、現代の私たちが想像する「いわゆる文房具」以外にも、文房に置く琴や屏風、書、絵画、陶磁器などの美術品も「文房具」と呼んでいたらしい。近頃では、仕事に使うものという意味において、パソコンやマウス、キーボードも「文房具」に含めていいのでは、という考え方もある。在宅ワークに役立つものなら、やっぱりこのハサミも文房具と呼べるかも?……というのは、さすがにちょっと強引か。

パール金属 シボレー・トングレトルトバサミ
実勢1300円前後
https://amzn.to/3PPJmBm

※表示価格は税込み。

ヨシムラマリ

ヨシムラマリ

神奈川県出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手掛けている。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。

文房具グルメとは? 価格やブランド名だけでは価値が計り知れない、味わい深い文房具の数々。フランス料理店でシャンパングラスを傾ける記念日もあれば、無性にカップ麺が食べたくなる日もありますよね? そんな日常と重ねあわせて、文房具に造詣の深い気鋭のイラストレーターが気になるアイテムとの至福のひとときをご紹介!

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