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部活動に励んだ青春時代や、ここ数年のうち趣味で初めたトレッキングなど、いつも私たちの生活のそばで活躍してくれている魔法瓶。これまでは安全性の問題から、炭酸飲料を入れて持ち運ぶことを推奨してきませんでした。ですが、来年で創業100周年を迎える「タイガー魔法瓶」が、この度、それを可能にする真空断熱ボトルの開発に成功。

前半では基本的な魔法瓶の予備知識と開発に至ることになった経緯をご紹介しました。そして今回は、いよいよ開発秘話へ。実験中に起きてしまった恐怖体験!?とは。後半も大ボリュームでお届けます。

今回のビギニン

タイガー魔法瓶 真空断熱炭酸ボトル 開発チームのふたり

左:タイガー魔法瓶株式会社 商品開発グループ 開発第3チーム マネージャー 中井 啓司さん。
社歴30年以上の大ベテラン。商品開発業務や海外赴任など経験は多岐にわたる。魔法瓶について歴史を尋ねると、まるで辞書をひいたのかと錯覚を起こすほど正確な情報を教えてくれる。

右:タイガー魔法瓶株式会社 ソリューショングループ 商品企画第1チーム マネージャー 南村 紀史さん。
入社は2001年の春。品質管理チーム、商品開発チームでエンジニアとしてキャリアを積み、現在のポジションへ。当然のように持っているマイボトルは、いつの頃からか2本に。炭酸水用とコーヒー用で使い分ける。

struggle:
炭酸でびしょ濡れになりながら、安心・安全を確保


魔法瓶には炭酸飲料を入れてはいけない。タイガー魔法瓶は、ネクスト100年に向けて業界の常識を覆す開発に乗り出しました。しかし注意喚起されているのには、それなりの理由があります。プロジェクトチームの品質管理担当者からは、「本当に安心安全を担保できるのか?」と現実的な指摘も。「安全面に関しての議論に一番時間をかけました」と南村さんはボトルのキャップを見つめます。


ドリンクの吹きこぼれを防ぐために重要なのは、ガスを先に抜いてからキャップを開けられるようにすること。開発されたのが、「炭酸ガス抜き機構」を備えた炭酸飲料対応せん構造「BubbleLogic(バブルロジック)」です。真空断熱炭酸ボトルのキャップには、螺旋状の溝に対して縦方向に2本の溝が掘られています。キャップを閉めている際は炭酸ガスをボトルにしっかり閉じ込めていますが、キャップを緩めていくと最初の半回転くらいのところで炭酸ガスの通り道ができ、ガスが外気に放出されます。これにより、中身の噴き出しや飛び散りを防ぎ、軽い力で開けることができます。参考になったのは炭酸飲料用ペットボトルキャップの形状でした。

キャップの内側、下にある出っ張りが安全弁

少々過剰なくらい、安全であることに重きを置いた商品でないと納得のできるモノ作りとは言えない。「BubbleLogic」には、見逃せない要素がもうひとつあります。それはボトル内の圧力が異常に高まったとき、炭酸ガスが自動で抜けるよう「安全弁」を設置したこと。例えば炭酸飲料が入った状態のボトルを真夏の炎天下の車中に2~3日放置した状況など。通常の使用状態では作動をしませんが、万が一の内圧の高まりの影響で起こりうる、キャップが飛ぶ危険や、中身の噴き出しを未然に防ぎます。

安全面をクリアするための決め手となったこの安全弁のアイデア。実は、タイガー魔法瓶の看板商品、圧力I Hジャー炊飯器「炊きたて」に使用されている技術を応用したもの。「安全弁の開発担当者が『なにか効果的な安全機構はないものか』と頭を抱えたときに、炊飯器が目に飛び込んできたらしく」と中井さん。続けて、「とはいえ、炊飯器よりも遥かに高いレベルの圧力設定値で実験せねばなりません。これが予想以上に大変で(汗)」。

平常時に2本の溝が機能する炭酸ガス抜き機構と、万が一の緊急時に機能する安全弁。ふたつ合わせた「BubbleLogic」の構造を開発するまで、実験数はなんと500回以上! キャップが吹き飛ぶ最低ラインの圧力値など、安心・安全を保証するためのデータ集めに、とにかく時間がかかったんだとか。

「何度も何度も炭酸水が吹きこぼれ、身体はその度にびしょ濡れでした(笑)」

「しかも、実験期間中にドリンクメーカーから新作の強炭酸飲料が発売されてしまう。まさにイタチごっこの状態のなか、実験をしては不具合の可能性を潰していく作業を繰り返しました」と、中井さんは続けて笑います。

左がスーパークリーンPlus加工を施した後。輝き方がまるで違う。

真空断熱炭酸ボトルの特徴はほかにも。それは見た目の堅牢さに対して、重量が軽いということ。具体的には500ml容量の一番小さいサイズで290gほど。およそ小ぶりなりんご一個分の重さしかありません。

その軽量化のために一役買っているのが「スーパークリーンPlus(プラス)」加工。ステンレスの素材を0.1mm以下の薄さまで引き伸ばし、その上で電解研磨をかけ凹凸のない滑らかな表面に仕上げます。これは1980年代からタイガーのステンレス製魔法瓶に用いられてきた製造法で、約10年前、その技術をさらに向上させました。当時と今では約100gの軽量化に成功。加えて、“サビに強く、汚れもつきにくい。だから、お手入れもラク”というメリットもあります。中井さんにそのこだわりを伺いました。

「ステンレスは食品業界や医療業界でも使われている素材です。ですから、当社ではフッ素コーティングの手段を使わず、ステンレスの持ち味を活かして使い勝手を高める選択をとっています。そして、そのために技術を伸ばしてきました。こだわりであり、私たちの誇りでもあります」。

タイガー魔法瓶の長年培ってきた技術を注ぎ込んだ「スーパークリーンPlus」。多くのメリットがあるなかで、真空断熱炭酸ボトルに採用された一番のきっかけはほかにありました。

「炭酸ボトルを売り出すためには、もう一押しほしい。炭酸を長持ちさせる方法についてネットでいろいろと調べていたところ、ふと、“氷の表面に炭酸水をかけると泡立つ”という実験を思い出したんです。氷ってツルツルに見えますが、実際は凸凹に荒れているんですよね」。

南村さんの頭にアイデアが降ってきたのは、金曜の夜。いてもたってもいられず、自宅で「スーパークリーンPlus」が施されているマイボトルと、そうでないボトルに炭酸水を入れて泡立ち方を早速実験。言わずもがな、泡立ちが少なければ少ないほど炭酸が長持ちすることになります。

「仮説通り、スーパークリーンPlus加工がされたボトルに入れた方の炭酸水の泡立ちが少なかったんです。嘘みたいや、めっちゃいいの見つけた!と思って、すぐスマホで動画を撮ってチームのメンバーに共有しました」。

炭酸ガスを保持するためには水温を冷たくキープするのが一番効果的ですが、ピカピカになるまで磨き上げる「スーパークリーンPlus」を取り入れ、極力ガスの気化をおさえることにも成功した南村さん。従来技術もうまく利用し、いよいよ製品はローンチへ。

reach:
約1世紀の時を超え、堂々と炭酸解禁

“プシュー”と音を立てて、炭酸水をゴクリ。これからの季節、キャンプやフェスなど野外でアルコールを摂取する機会も増えるでしょう。そんなときペットボトルや使い捨てカップに入れてドリンク持ち歩くと、なにかと不都合です。

ヌルくなってしまって炭酸は抜けるし、せっかくの爽快感も台無しに。こと、ビールに関しては氷を入れてキンキンに冷やすわけにもいきません。炭酸水専用のグロウラーはありますが重たくて嵩張るものが多い。楽しみなアウトドアライフに向けて、優れたアイテムはないものか……。

「タイガー魔法瓶」が開発に成功した、「真空断熱炭酸ボトル」はそんなニーズに応えてくれる製品です。その有能さが発表直後から話題となり、サイズによっては一時期完売。まだ発売から3ヶ月も経っていませんが、既にユーザーから多くの声が寄せられています。

「一番うれしかったのは、『生活が変わった』という感想をいただいたときです。そのユーザーさんは、炭酸の爽快感が失われると知っていながら、それでも炭酸飲料を水筒に入れて持ち歩いていたそうで。このボトルのおかげで、諦めていたはずだった快適な炭酸ライフを過ごせるようになったらしいのです。『新たなライフスタイルを生み出せたらな』という気持ちで開発した商品だったので達成感はひとしおでした」。

南村さんは、「BubbleLogic」構造が完成し初めてキャップを開けたときに聞いた“プシュ”という音が、いまも忘れられないと言います。

「カラーにもこだわりがあって、例えばブロンズっぽい色合いのカッパーはビールの醸造タンクをイメージしています。持ちやすく注ぎやすいよう絶妙にカーブさせた、せん部分のシルエットもポイントです。こだわり始めると本当にキリがなくって、開発チームやデザインチームにはリクエストしまくりました(笑)」。

また、この業界でのキャリアが長い中井さんにとっても、「真空断熱炭酸ボトル」の開発は思い出深い経験となったそう。

「コロナウイルス感染症の影響もあり、やっぱり開発もこれまで通りにはいきませんでした。工場で働く現場のスタッフともオンラインや書面のみのやり取り。直接会って話すことができず、現場にも立ち会えない。それゆえのタイムロスもありました。そんな状況のなか、新しいことに挑戦し一丸となって皆で達成できた。完成したときは充実した気持ちでいっぱいでした」。

ボトルが完成し、社内には炭酸水の出るウォーターサーバーも設置されました。これまで炭酸水を飲む機会があまりなかった中井さんも、今となってはすっかり炭酸ライフを満喫中です。

世の中に新しい常識を作ったタイガー魔法瓶の「真空断熱炭酸ボトル」。ぜひ、あなたの手持ち品の仲間に加えてみて欲しいと筆者は思います。機能的に優れている点も理由ですが、もしかすると「真空断熱炭酸ボトル」は、やりたいと思っていたけど諦めていたことに“虎イ”できる未来を運んできてくれるかもしれない。なぜなら、この製品もまた固定観念を覆して開発された意欲作なのですから。

タイガー 真空断熱炭酸ボトル MTA-T050/T080/T120/T150
独自開発の「BubbleLogic(バブルロジック)」構造により、安心安全に炭酸水を入れて持ち運べるステンレス製の真空断熱ボトル。真夏にうれしいキンキンの冷たさと炭酸の弾ける爽やかさをキープできる。内側が極限まで滑らかに仕上げられているためお手入れも簡単だ。見た目の堅牢さに対して、驚くほど軽量なのもうれしい。スチール、エメラルド、カッパーの3色展開。左から1500ml / 7500円。1200ml / 7000円。800ml / 6500円。500ml / 6000円。全て税込価格。

(問)タイガー


写真/中島真美 文/妹尾龍都

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