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世は空前の自転車ブーム。これをお読みの方にも、週末ごとにピチピチのサイクルウェアに身を包み、ロードレーサーで疾走……なんて人がいるんじゃないでしょうか。でも体の線が露わになるサイクルウェアは、本人は良くても周りが目のやり場に困るもの。その点ご覧のサイクルジャージーはいかがでしょ? レトロなポロシャツ風で、これならサイクリングの途中でお洒落なカフェに入っても浮かないのでは? こちら、茨城県土浦市で自転車店を経営する中島義之さんが仲間と立ち上げたサイクルウェアブランド「N. CYCLE FACTORY」の一品。レトロなルックと裏腹、素材にあのコーデュラナイロンを用いるなど、すこぶる機能的な仕上がりなんです。

じつは中島さん、自転車店を開業する前はJAXA(宇宙航空研究開発機構)の関連企業でエンジニアとして働いていました。どうやら相当腕のいいエンジニアだったようで、会社を辞めてからも以前の得意先や仕事仲間からしょっちゅう相談を持ちかけられたそうです。ならばそっちのほうも商売にしてしまえと、自転店と並行して宇宙機器の開発実験を行う会社も起業。つまりまだ現役バリバリの宇宙開発エンジニアなのです。そんな人が生みだしたサイクルウェア、どんどん興味が湧いてきませんか?

今回のビギニン

ナカシマサイクルファクトリ店主・宇宙開発エンジニア
中島義之さん

1974年生まれ。外資系半導体メーカー勤務後、航空整備士を志して航空機体整備課に進学。卒業後、宇宙開発関連企業に入社し、23年間勤務。2019年に退社しハンドメイドスティールバイク専門店「ナカシマサイクルファクトリ」開業。2021年にはJAXAの宇宙機器開発実験をサポートする会社「Hue CRAFT」も立ち上げる

idea①
量産品に興味はない
エンジニア時代に育まれた
オリジナル至上主義

JAXA筑波宇宙センターの「スペースドーム」に展示されていた「きぼう」日本実験棟の実物大模型。「きぼう」は国際宇宙ステーション(ISS)の一部として今も運用されている。これにドッキングする補給機の誘導制御装置の開発も中島さんは行った。

取材当日、つくば駅で待ち合わせると、中島さんはまず我々をJAXA筑波宇宙センターの「スペースドーム」へと案内してくれました。ここには今までJAXAが開発してきたロケットや人工衛星のエンジニアリングモデル(試作品)や模型を展示。中島さんが開発に関わったものもいっぱいあります。「私が主に担当していたのは、人工衛星やロケットに搭載される、ジャイロやGPSといった姿勢制御決定系コンポーネントの地上開発実験。一旦宇宙に飛び立ってしまえば壊れたからと言って修理できるわけではありませんから、常に100%の成果が求められました。いやー、どれもしびれる仕事だったな(笑)」。もちろん人工衛星やロケットはすべての部品が完全オーダーメイドで、実験設備も世界にひとつだけ。中島さんが経営する自転車店では量産品を扱わず、ハンドメイドやオーダーメイドばかりにこだわっているのも、「ここで唯一無二のものを作る喜びを知ってしまったからかもしれない。」と笑います。

父親がリニアモーターカーの設計技師だったせいか、子供のころから乗り物やモノづくりに興味があったという中島さん。学校を風邪でお休みしたときは飛行機のプラモデルを作るのがお約束だったそうです。それでいてインドア派というわけでもなく、高校時代後半からは小さなオートバイチームに所属してサーキットを走り、自分が乗るバイクのキャブレターの調節からエンジンのオーバーホールまで行なっていたとか。

JAXA関連の企業に勤めているときには、筑波宇宙センターで子供たち向けの宇宙飛行士体験教室などのイベントも積極的にサポートしていたそう。

一旦は外資系の半導体メーカーに就職したものの、昔から好きだった飛行機の整備士を目指して専門学校に入学します。しかし当時の航空業界は不景気で整備士採用枠はほぼ皆無。そこで目を向けたのがJAXAの下請けを行う宇宙開発関連企業でした。「航空産業と宇宙産業が地続きだったことを知らなかったんです。実家は筑波宇宙センターの近くですし、人工衛星やロケットの開発に関わる仕事があるならチャレンジしてみようと思って入社。スケールの大きな仕事ですから、あっという間にのめり込んでいきました」。

idea②
モノ作りこそ自分の進む道。
趣味の自転車を稼業に

 

天職と思えた宇宙開発エンジニアの仕事でしたが、中島さんは会社を23年間勤めたのちに退職してしまいます。それはモノづくりの現場から離れ、本社で営業や人事の仕事を任されるようになったから。「その頃奥さんがよく言ってたんですが、ボクらしさがどんどんなくなってしまったそうなんです。自分自身も営業や人事の仕事はどうも肌に合わないと感じていた。だったら無理にしがみつかず、ボクの本質的な良さを活かせる仕事をしようと」。そこで長年趣味としていた自転車のお店を開くことに。1年半の準備期間を経て、ハンドメイドのスチールフレームにこだわった「ナカシマサイクルファクトリ」を、茨城県土浦市郊外の自宅の隣にオープンさせます。

今回訪れてみると、そこは森の中の小さなログハウスといった趣き。このお店、なんと中島さん自ら設計し、コツコツと建てたものです。中島さんのこだわりが詰まったお店は、近隣の趣味のいいサイクリストたちを徐々に引き寄せ、今では遠方からのオーダーも舞い込むほどに。中島さんの明るい人柄や、忙しい中でも走行会やBBQといったイベントなどを頻繁に行うバイタリティに惹かれ、どんどん新たな“仲間”が加わっているようです。

お店を併設する中島さん宅の敷地で、仲間やお客さんを集めて庭でBBQパーティをすることもしばしば。

そうしたなかで中島さんは、自分の作る“ちょい古”な自転車に似合うウェアがないことに気づきます。「お客さんや仲間といつもその話題になっていたんです。こういう自転車に最新のサイクルウェアは似合わない。そもそも股間がモッコリしてしまうサイクルウェアでスタバなんかに入るのは気が引けるよね、なんて。で、いろいろ調べてみたんですが、機能を備えながら街中でもフツーに着られるサイクルウェアって全然ないんですよね」。

idea③
行動力で手繰り寄せた
2人との出会いと運命の糸

TBプランニング 代表 鈴木宏志さん(左) 東光商事 営業26部部長 堀 正史さん(右)

左/1963年生まれ。アパレルメーカーの商品企画として10数年勤務後に独立。2002年に上海に貿易会社設立し、中国の素材メーカーや縫製工場と日本を繋ぐ役割を果たす。その後東京に拠点を移し、10年にTBプランニング設立。アパレル製品の企画開発に軸足を移し、小売、商社、アパレルメーカーと協業。趣味はクリスタルガラス収集。右/1980年生まれ。両親が繊維商社に勤めていた影響もあり、就職活動は繊維商社に絞って活動。2003年に大手繊維商社の東光商事に入社。長年メンズ服地を中心に担当し、同社が持つ海外各地の生産拠点からの信頼も厚い。世界初のコーデュラニットの生産にも携わる。趣味は旅行とスポーツ観戦。

エンジニア魂に火がついたのか、いつしか中島さんはオリジナルのサイクルウェアを開発したいと考えるように。しかしアパレルはズブの素人、誰か信頼できる仲間を見つける必要があります。そして知り合いを介してまず出会ったのがアパレルプロデュース会社「TBプランニング」の鈴木宏志さんでした。様々なブランドとの仕事を手がけてきた鈴木さんは素材にも詳しく、世界で初めてコーデュラナイロンの糸でセーターを生産した「東光商事」と組めば、中島さんの理想とするようなサイクルウェアが作れるんじゃないかと助言したそうです。

そこで中島さんは早速動き出します。「お門違いかなと思ったのですが、東光商事さんがブースを出しているファッション系の展示会に行ってみました。そこで展示されていたコーデュラナイロンのセーターを見て瞬殺。ちょい古な自転車に似合うウェアというとウール素材のものしか頭になかったのですが、この最新素材があれば機能とクラシックなルックスを兼ね備えたウェアが作れるぞと。初対面の東光商事の堀正史さんには挨拶3秒後に“ぜひ一緒に組みましょう”と頭を下げていました」。こうして企画監修を中島さん、デザインを鈴木さん率いるTBプランニング、素材開発を東光商事の堀さんが担当するアパレルブランド「N.CYCLE FACTORY」は始動したわけです。ところでまったくアパレル経験のない中島さんとチームを組むことに、他のお二方に不安はなかったのでしょうか? 「初対面のときから中島さんの発想の自由さとバイタリティに惹かれました。長くアパレルの世界にいる我々は、この業界の常識にとらわれ過ぎている面もあると思うんです。ときに中島さんは荒唐無稽なことをおっしゃることもありますが、堀さんと協力して可能な限りそれを具現化したら、絶対面白いものができるんじゃないかと考えました」(鈴木さん)。「リスクを恐れていたら何も新しいことはできません。コーデュラニットを開発したときもそうでしたが、他で手に入らないものを作り出す作業はとてもエキサイティング。エンジニア視点のある中島さんと組めば、それをまた味わえるんじゃないかと。期待のほうが大きいですね」(堀さん)。

今回ビギニン取材班は、「N.CYCLE FACTORY」のできあがったばかりのファーストコレクションのサンプルを拝見することができました。これが揃いも揃ってイ〜イ出来! こういうレトロで機能的なサイクルウェア、たしかに待ち望んていた人は多そうです。後編ではそこに込めたこだわりと、今後のブランドの展望についてさらに深掘りしてご紹介します。

PRODUCTS買い説

N.CYCLEFACTORY
パネルボーダー サイクルニットポロ

摩耗に強いコットンコーデュラの糸を表に、給水速乾性のあるポリエステルが裏の肌に当たる面に出るように特殊な製法で編み上げた生地を使用したニット。パネルボーダー柄に加えてサイクルウェアには珍しい襟付きのデザインが、レトロな雰囲気を盛り上げています。もちろん快適な乗車姿勢を取れるようパターンやサイジングには徹底的にこだわっています。各1万6500円。
N.CYCLEFACTORY
ベースボールカラー サイクルニットポロ

こちらはコットンコーデュラ糸を使用したホールガーメント(無縫製編み立て)ニットポロ。シームレスなので肌触りが心地よく、部位ごと編み地を切り替えているためフィット感も格別です。クラシックなベースボールシャツからインスパイアされた襟型も特徴で、スタンドカラーともヘンリーネックとも一味異なる新鮮な雰囲気で着られます。各1万6500円。
N.CYCLEFACTORY
バックライン サイクルニットポロ

「パネルボーダー サイクルニットポロ」と同じく、表にコットンコーデュラ、裏にポリエステルが出るよう編み上げた生地を使用。こちらもレトロなポロシャツ風デザインですが、背面と右袖に入れた大胆なラインがアクセントになり、モダンに着こなせます。背中には鍵などをしまうのに適した止水ファスナー付きのバックポケツトを備えていますが、この中は蛍光色のメッシュの袋地となっており、後方からの視認性とベンチレーション効果を高めることができます。各1万6500円。
N.CYCLEFACTORY
2WAYストレッチ ニットトリミング サイクルパンツ

タテヨコ2方向にストレッチするコーデュラリップストップ生地をメイン素材用い、ヨークと膝裏をコットンコーデュラニット(裏面は吸水速乾ポリエステル)で切り替えたサイクルパンツです。カーゴポケット、裾を締めるベルクロ(車道側となる右側には反射材でブランドロゴをプリント)のほか、深い後股上、極薄パッドでクッション性を持たせたガゼットクロッチ、タックで立体的に仕立てた膝など、サイクリストのための機能的ディテールが随所に。ゴムを仕込んだウエストは細かなサイズ調節ができるようアジャスターを装備しますが、それをフロントではなくサイドに配するなど、前傾時のストレス軽減に徹底的に配慮しているのもさすが。右ポケットには、ファスナー付きのコインポケットも。各1万6500円。

SHOP INFOMATION

昔ながらのスチールフレームにこだわり、センスのいいカスタム車両を組みあげている「ナカシマサイクルファクトリ」。ビンテージな雰囲気をたたえつつ、走りも楽しめる自転車に乗りたいならぜひ訪れてみてほしい。オーダーメイドも可能だ。もちろん今回ご紹介した「N.CYCLE FACTORY」ブランドのサイクルウェアも販売している。
住:茨城県土浦市乙戸854-4
☎︎:090-1795-3464
営:15:00〜22:00 休:火曜
email:nakashima_yoshiyuki01@yahoo.co.jp

問い合わせ先/N.CYCLEFACTORYオンラインストア

写真/松島星太 文/吉田 巌(十万馬力) 編集/増井友則(e-begin)

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