グラフィックデザイナー 永井ミキジさんをめぐる、これからのシン・スタンダードとは #046
「民藝好きの琴線を揺さぶる絶妙なヘタうま感」
グラフィックデザイナー 永井ミキジさん
民藝品や古物が好きで収集しているのですが、特に動物がモチーフのものには目がありません。最近はもっぱら木彫り熊に夢中。北海道・八雲町発祥の土産品をルーツとする木彫り熊は鮭をくわえたイメージが強いですが、座ったり木に寄りかかったり、口を開けていたり閉じていたり、ポーズも表情もじつは色々あります。
彫り方も写実的に彫る毛彫りと、面を大雑把に彫る面彫りの主に2種類に分かれます。作り手の技量が問われますが、面彫りのほうが姿や表情に個性が出るから面白い。
この面彫りの熊は「路清作」とだけ刻まれた無名の作家の物で、ユニークなポーズに惹かれました。ロダンの『考える人』に似ているから、名付けて“考える熊”(笑)。
生意気かと思えば控えめだったり、見る角度によってコロコロ変わる表情は愛嬌があるし、ぽってりしたフォルムも可愛い。この絶妙なヘタうま感は、唯一無二ですね。
最近、昭和レトロなインテリアとして再注目されている木彫り熊。バラエティに富んだ姿形、ニュアンスの異なる表情など、数ある中から自分の感性に刺さる熊に出会うまではまさに宝探しで、コレクターの探究心をくすぐられます。
これまで数百体もの熊を集めては人に譲ってきましたが、この考える熊だけは手放したくないですね。
路清作
木彫り熊
北海道観光ブームが起こった1960年代に、北海道の無名の作家によって作られた木彫り熊。数年前に2万円で購入。木彫り熊は数千円から買える手頃なものも多く、古道具店やネットフリマで探すのがおすすめ。(本人私物)
グラフィックデザイナー
永井ミキジ(ながいみきじ)
1974年生まれ。グラフィックデザイナーとして活躍する一方、民藝品の偏愛者としても著名。この10年で購入した木彫り熊は数百以上。集めてはイベント「個物」を開催、大事にしてくれる人に譲っている。
[ビギン2022年3月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。