wook vol.7

靴ずれを起こさないラゴンマのサンダル。木型を使ったオリジナルのフットベッドをはじめ、ディテールの至るところにこだわりが詰まっており、履いた瞬間に誰もが「オッ」と唸る履き心地を体現しています。しかし誕生の元を辿ると、実はブランドの発起人である水谷さんが自分用に開発したもの。果たして、どのような経緯で商品化に繋がっていくのか。そのストーリーをお届けします。

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今回のビギニン


アレッツォ 水谷義臣

1973年、兵庫県神戸市長田出身。東京とイタリアで靴作りのノウハウを学んだ後、家業を継ぐかたちでアレッツォを立ち上げる。ソフトで履きやすい神戸靴の特徴を生かした婦人靴のOEM事業を進める傍ら、オリジナルブランド「ラゴンマ」を始動。休日は釣りや映画鑑賞を楽しむなど、んびりした時間を過ごす。

struggle:
サンダルの歩行音が耳障りだった

ラゴンマの開発ベースとなったのは、水谷さんが自分用に作ったサンダル。モデルとなったのは、リボン状のアッパー部分とレザー製のペタンコなアウトソールでできたローマ靴でした。

「イタリアには買い付けのため、帰国後も頻繁に通っていました。ローマ靴を見つけたのも、イタリアでのとある展示会。日本では珍しい足先にターバンを巻いているような見た目に惹かれて、『自分で作るサンダルはこんなデザインにしよう!』と思ったんです」

参考にするため早速ローマ靴を持ち帰った水谷さん。まずアッパー部分の製作に取り掛かりますが、その再現は一筋縄では行きませんでした。

「ローマ靴の仕様と同じにするため、ラゴンマの全ラインナップには抜群の伸縮性を誇るナイロン生地をアッパーに採用しています。通常はスポーツウェアなどに用いられる生地で、靴に使用するのは珍しいんです。魅力の伸縮性ながら、それが仇となって普通のミシンでは縫製できませんでした」

「縫製」という壁に直面した水谷さんは、ストレッチ素材専用のミシンを新調し縫製場へ。しかし、現場に相談せずミシンを増やしたため、当初は工員のみんなになかなか受け入れてもらえませんでした。

「特に縫製部門の長を務める私の叔母には『なんでこんなん買ったんや!』って怒られましたね。いざ縫い始めてもらっても、『こんなん縫われへん!』って(笑)。とはいえサンダル作りをどうしても進めたく、『仕事になるから!』と説得しながら、ちょっとずつ縫製技術を上げてもらいました」

「新しいことをはじめるときって、困難はつきものです」と苦笑いする水谷さん。

そんな紆余曲折を経て出来上がったのが上の写真左側のサンダル。アッパー素材は現行品と変わりませんが、ソールはペタンコ。初期サンプルを忠実に再現し、いざ出来上がったサンダルを履いてみると、ある音が気になりました。

「パタン、パタン、と音がするんです。『うるさいな』と思って立ち止まって周囲を見渡すとやむ。動き出すとまた鳴りはじめる。そのとき『あぁ僕のサンダルが足の裏に当たって出ている音やわ』って気づきました。気づくと途端に履いているのが恥ずかしくなって、履き心地を追求するようになったんです。情熱を傾けて作ったサンダルってこともあり、どうせ作るんやったらと『自分のための靴作り』から『商品開発をしている』という感覚に変わっていったのだと思います」

第1弾サンプルから写真右側の第2形態になるまで約3年。それから2年後に現在のトングサンダルの形に落ち着きました。つまり、開発にかけた期間は約5年。改善した大きなポイントは、「アッパーの伸縮性」と「フットベッドのフィット感」、「アウトソールのクッション性」の3点、どのポイントもこだわりにこだわりを重ねて仕上げられています。

①アッパーの伸縮性

トングサンダルのアッパーは2本のベルトだけ。初期モデルは伸縮性が高すぎて、歩行の度にかかとがソールから離れてしまい歩きづらいものでした。そこで横帯に婦人靴のアッパーに使用される薄いコットン製の芯を入れ込み伸縮性を調整。あえて伸ばさない部分を作り、貼り付け角度を調整することで、足がサンダルに程よい力で固定され、歩きやすさが格段にアップしました。

アッパーは4つのパーツからできている!

左:縦帯、右上左:鼻緒の部分の補強パーツ、横帯の中に仕込む芯、右下:横帯(生地の隣にあるのは、切り抜き作業のときに使用する型)

芯を生地にあてがっている様子

②フットベッドのフィット感

ラゴンマのサンダルの面白いところは、サンダルなのに木型を使ってフットベッドを作ることです。木型は同じ神戸市内で活動する木型職人と密にやり取りをしながら作製。フィット感を高めるため、出来上がっては試し履きをして修正する、それを何度も繰り返し行いました。素材にもこだわり、サンプルで採用されていたコルク素材からウレタン樹脂へチェンジ。柔らかすぎず硬すぎずの微妙な硬度にするべく、何度も何度も履き比べる必要がありました。

③アウトソールのクッション性


ペタンコだったソールも、クッション性を高めるためシャークソールへ。ギザギザの先部分にあえて少し丸みをもたせているのがミソで、衝撃緩和に一役買っています。また屈強性を高めるためソールの厚みと柔らかさも調整。薄ければ薄いほど軽くてよいのですが、耐久性の部分で懸念が出てきてしまうため、絶妙な厚さに設定されています。

「製作自体に時間がかかったというよりは、作ったものを周りのみんなに試してもらい意見を聞くほうに時間を取られました。実際履いてみてどう思ったか。これが一番重要で、フットベッドの幅を広くしたり、ソールに厚みを出したり、さまざまな要望を取り入れながら今の形にたどり着きましたね」

reach:
履き心地は日本、デザインはイタリア

細かい調整を重ねた末、ようやく納得のいく仕上がりになったラゴンマのトングサンダル。生産工程は10以上、それぞれのポジションには専任の担当者が1人ずつ配置され、商品によって品質にばらつきが出ないよう工夫されています。

「うちの工場にいる技術者のみんなは、この道に長く携わる人が多いんです。真面目で努力家。彼らがいるからこそ、一風変わったラゴンマのサンダルも、品質を保ちながらお客様にお届けできているのだと思います」

トングサンダルの生産工程

ラゴンマの生産に必要な器具や素材の多くは長田産。工場員さんもこの地に住んで長い人ばかりで、機械の修繕に関しても近くの業者にお願いしています。サンダルは、正真正銘のメイド・イン・長田製品と言えましょう。

「やや大袈裟な表現ですが、靴作りに必要なパーツは長田でほとんど揃います。こんな街、世界中を見渡しても、かなり少ないと思いますよ。地域総出で靴作りに力を入れているため、コミュニケーションも取りやすいし無理な要望にも都合をつけてもらいやすい。そうした昔ながらのお付き合いも、高品質な靴作りには必要だと、ラゴンマを作っていると改めて実感します。」

夏に相応しいターコイズカラー!を別注

ちなみに今回、ラゴンマのトングサンダルにビギン別注カラーをオーダー。ビギンの企画担当者が水谷さんのお尻を叩きまくった結果(急かしてしまって、本当にすみませんでした汗)、なんと企画から生産まで3週間ほどで出来上がり。「この生産性の速さも長田で靴作りをしているからこそ」と、水谷さんは笑って街の魅力を語ってくれました。

デザインに関してはこれまでにお伝えしてきた通り、イタリアのローマ靴が出自。人とのカブりを避けられる個性的なアッパーで、周りから頭ひとつ抜けたお洒落を楽しめます。見慣れないため履き方がやや難しそうに見えますが、そんなことはありません。構造自体は至極シンプルなこちら。縦に付いたアッパーの輪に足を通し、横に付いたアッパーの下に足をくぐらせるだけと、簡単に着用可能です。

水谷さんに伺ったところ、綺麗にすっと履けるポイントは2つ。「縦に付いたアッパーの縫い目を下にして足を入れること」と、「鼻緒部分の可動式のパーツを指の付け根あたりに調整すること」です。この2つのポイントさえておけば、スッと美しく履けていい感じ。アッパーの幅を細くしたり広げたり、気分に合わせて履きこなし方のアレンジも可能です。

インタビューも終盤、水谷さんに今後のラゴンマの展望を伺うと、なんとも興味深い情報が。

「ラゴンマの魅力は何と言っても、サンダルなのに疲れにくく靴ずれも起きないってところです。したがって今後は『ユニフォーム用サンダルとしても活躍するサンダル』をラインナップに加えていきたいと思っています。例えば医療従事者のみなさんのサンダルがラゴンマだったら、立ち仕事の疲れを少しは癒やせるのではないか、と考えるのです。実際に知り合いの医者や看護師の方からも要望があり、現在サボを開発中。履き心地にこだわるあまり2年以上も製作に時間を費やしてしまいましたが、そろそろお披露目できると思います」

トングサンダルが完成したときも、達成感を感じる前にお客様の喜ぶ顔を一番に想像したという水谷さん。取材中も工員さん1人ひとりに「めっちゃ、エエ感じに塗れてるやん!」、「ゆっくりでエエからね」などと、優しい声をかけていらしたのも印象的でした。これから発表が楽しみな新作ラゴンマも、そんな水谷さんだからこそ行き着いた物作りへ1つの答えのように感じます。これからもラゴンマから目が離せませんね!

ラ ゴンマ/ ストレッチトングサンダル

イタリアのローマ靴をモチーフにデザインされたサンダル。アッパー、フットヘッド、ソールなと、ディテール1つひとつにこだわることで、足と一体化する驚きのフィット感を実現。アッパーと肌の擦れによる靴ずれも起こらず、はじめて履いた瞬間からリラックス気分を味わえる。S(25-25.5)、M(26-26.5)L(27-27.5)3サイズ展開。写真のターコイズブルーはビギン別注色。8,690(税込み)

>>>詳しくはこちら

(問)アレッツォ

https://www.arezzo-kobe.jp/


写真/森下洋介 文/妹尾龍都

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