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愛すべきスズメバチ&サメ〜「ニッチも フェチも いかない……対談」

愛すべきスズメバチ&サメ〜「ニッチも フェチも いかない……対談」

サメ愛
沼口 麻子

(写真:右)1980年、東京都出身。東海大学海洋学部を卒業後、同大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程を修了。大学在学中にサメ相調査と、サメの寄生虫の調査に没頭。世界唯一のシャークジャーナリストとして、「サメのいるところ沼口あり」と言わんばかりに活躍中。自身でも「サメ談話会」というサメファンクラブを主宰し、全国各地にサメ好きの輪を広げている。挨拶の基本は「よろシャークお願いします」。主な著作に『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)。

スズメバチ愛
中村 雅雄

(写真:左)1948年、東京都出身。大学卒業後、神奈川県で小学校教員として教職に就く。当時から都会に生息するスズメバチの生態について本格的な研究を行い、国内外で調査を実施。その間、刺されること100回あまり! それでもスズメバチをこよなく愛し、現在はスズメバチの駆除活動を行いながら、生物の多様性についての研究結果を発表している。主な著作に『スズメバチの真実』(八坂書房)、『おどろきのスズメバチ』(講談社)など。

100回以上スズメバチに刺されたって本当!?

沼口:中村さんのご著書を見ると、100回以上スズメバチに刺されているとありますが……本当なんですか?
中村:本当です。ヤラセ表現ではありませんよ(笑)。
沼口:それでよく生きているというか……命を落とされなかったのが驚きですね! この対談のスタッフが、子供の頃にスズメバチに刺されて失神したことがあったそうなんです。医者に運ばれたときに「次に刺されたら命が危なくなるかもしれないから、本当に気をつけてくれ」と言われたみたいで。アナフィラキシーショック(※注1)は問題なかったんですか?
中村:この通りです(笑)。

中村:振り返ってみれば、重篤な危篤状態になったことはあるんです。海外で刺されて「ああ、これは死ぬな」と思ったことも何度かありました。一度に何百匹という大群に刺されてしまうとひとたまりもないでしょうが、私の場合は、ちょっとずつ刺されていたからなのかな。医学的根拠はありませんが、抗体のでき方が違うのか……。
沼口:病院で応急処置をするときは、救心剤を投与したりしますよね。そういうことは?
中村:しませんでした。私は刺されても病院に行ったことがないんです。水で洗うとか、冷やすとかの応急処置はしますけどね(※注2)。死んだら死んだで仕方がないかなんて思うところもあって(笑)。アナフィラキシーショックは、ミツバチでもアシナガバチでも起こることはあるんです。もっともスズメバチの場合は、刺されたときの衝撃や痛さが比べものにならないほど強いですけどね。
沼口:そんな怖い話を聞きながらも、実は私、今すごくワクワクしていて。機会があればスズメバチの駆除とか調査に同行してみたいです。サメとスズメバチって、もしかして似たような立ち位置かもしれない。

スズメバチ男子のお宝③
スズメバチのアクリル標本

大きいほうの樹脂に入っているのが中国のオオスズメバチで、小さいほうはオウゴンスズメバチ。中村さん曰く「お腹のふくらみから両方とも女王バチだとわかります」というマニアックすぎる分析が。タイのバンコクや中国の上海などの空港で売っているという。オウゴンスズメバチは日本未上陸なので、かつてアクリルを壊して中を取り出してみようとしたらしいが、ハチの身体もボロボロになって壊れてしまったという。

中村:サメにも狂暴なイメージはありますよね。映画『ジョーズ』などの影響で、「人食いザメ」なんて言葉も出てきたほどだし。でも、沼口さんのご著書では「人食いザメは存在しない」と声を大にして訴えられている。実際はどうなんですか?
沼口:「サメ」は一般的に種名と間違われるんですけど、綱の階級のグループ名だと思ってください(※注3)。魚の仲間の中には、軟骨魚綱、硬骨魚綱というグループがあります。魚類の大半、つまり何万種類の魚たちは硬骨魚綱に分類されるんです。で、一部の魚類、約1000種類くらいが、マイナーな軟骨魚綱になります。軟骨魚綱の中でも500種類くらいを総称して「サメ」と呼んでいるんです。つまり、ライオンみたいな大きな体躯のサメもいれば、ハツカネズミみたいなチビッコザメもいることになるんです。

サメ女子のお宝③
“ほぼ命がけ”サメブレスレット&ネイル

白色のブレスレットは、シノノメサカタザメの上顎100%で作られている天然もの。偶然インドネシアで見つけ「これを買わないと日本に帰れない!」と沼口さんを駆り立てた。現地ではカードもドルも使えない状況で、分厚く束になったインドネシアルピアを片手にマーケットへ爆進。タクシー運転手から「お前、バッグからはみ出るほどの大金を持ち歩いてたら殺されるぞ!」と言われてもくじけずゲットした。ネイルは、沼口さん御用達のアーティスト(ネイルサロンアンフルール)がデザインしたオリジナル。両薬指にはエドアブラザメの本物の歯を貼り付けている。沼口さん曰く、「でも、歯だとなかなか気づかれないんですよね」とのことなので、気づいた人はぜひ大きなリアクションを!

中村:十把一からげにサメとくくれないんですね。
沼口:ですから、「サメが怖い」というのは、人間を見て「哺乳類怖い」と言われているようなものなんです。哺乳類には人間だけじゃなくて、クマもパンダもウマもネズミもいますからね。

中村:小さなサメだと人間を噛んでも「人食い」にはなりませんね。でも大きな種類のサメだと、やはり人が命を落とす事故もあるんですよね?
沼口:確かに、全世界で年間を通して5~10名程度は、サメのアタックによってお亡くなりになることもあります。
中村:それでも落雷にあったり、ウイルスを媒介する蚊に刺されて亡くなる数より全然少ないですね。
沼口:そもそもサメが生息している海の中には、常に人間がいるわけじゃないですよね。大半のサメからすると、人間は初めて見る生き物であることが多く、「これは何だ?」と餌かどうかもわからない。なので、試しに噛んでみた……というのが事故の真相なんじゃないかと考えています。人間が泳ぐときのバシャバシャという音も、魚が弱ったときの音に酷似していますから、勘違いしても仕方がないんです。
中村:サメは弱った魚を狙いやすいんですか?
沼口:やはりエネルギーを使わずに餌を獲りたいので、弱った魚とか死んだクジラとかは好んで食べますよ。人間がサーフボードの上でパドリングをしている姿は、海面下から見上げるとウミガメによく似ています。カメも捕食対象ですから、サメは興味を持って近づいていく。
中村:サメのアタックには特徴はあるんですか? サバンナで捕食者が狩りをするときのような。

沼口:サメによる死亡事故の例を見ると、甘噛みが多いように見受けられます。ただ、何メートルもある巨大生物なので、甘噛みと言っても腕一本はなくなってしまうでしょう。怪我の手当が間に合わず、そんなファーストアタックによる出血多量で亡くなるケースが残念ながら多いように見受けられます。ということは、頭から足先まで、全部食べられてしまったというケースは稀だということなのです。ファーストアタックだけの事例が多いのなら、「人食い」と呼ばれるように人間だけを選別して、目の敵にして襲ってくるわけでは決してないんだと思います。ただ、サメをはじめとした大型の野生生物に対しては、必要最小限の恐怖心を持ち、然るべき対応をとる必要があるとは思いますが。

(※注1)アレルゲンなどの影響で全身性アレルギー反応が起き、血圧異常や意識混濁などが引き起こされた状態のこと。

(※注2)編集部注。あくまで個人の見解となります。スズメバチに刺されたときは、すぐに最寄りの病院へ行き、適切な処置を受けてください。

(※注3)生物の分類階級。界・門・綱・目・科という順で階級を下るほど、細かく分類されるようになっていく。図鑑などでよく見るのは目・科あたり。

とにかく逃げることが一番大事!

中村:あくまでサメの生活圏内に人間がいたがために、事故が起きてしまうのだということですね。スズメバチもその図式と同じなんですよね。「人食いザメ」ならぬ「殺人バチ」だなんて不名誉な呼ばれ方をすることがあるんです。でも、もともと山野にいたハチですから、人間と接触する機会がやたらめったらあるわけじゃなかった。社会状況や自然環境が変わって、ハチが人間の生活に近づくことになってきた。なかには人間の人工物が大好きな亜種も出てきて、人間の生活圏にすっぽり収まることも起きてきた。スズメバチと人間の距離感が、悲劇的に縮まってしまったんです。
沼口:そこで、きちんとした対応ができなくて襲撃され、事故につながる……。
中村:2017年、ひとりの老婦人を乗せた車椅子が、不運にもスズメバチの巣に気づかず近づいてしまい、約50分間、全身約150か所を刺されてお亡くなりになるという大変痛ましい事故がありました。そのとき車椅子を押していた人は、ひとりでは助けられないと判断して、車椅子から離れて助けを呼びに行ったんです。すぐに救急隊員も駆け付けましたが、老婦人の周囲には大量のスズメバチが飛び交っていて、助けることはおろか、近づくことさえできなかったといいます。

沼口:本当にショッキングな事件でしたね。あの場合、どういう対処が考えられるんですか?
中村:まずはその場からふたりとも離れることでした。とにかく逃げて、襲撃地点から距離をとる。襲撃されるのは、その近くにスズメバチの巣があるからです。10メートルでも20メートルでも遠ざけていれば、もしかしたら結果は違ってきていたかもしれません。
沼口:スズメバチの生態に詳しくない人からすると、一度狙われたらどこまでも狙われ続けるというイメージがありますよね。走って逃げると、むしろ追いかけてくるようなイメージも。
中村:私の体験談からすると、日本のスズメバチの場合は20~30メートル離れると、相当数が減ります。防護服を持っていない場合ならば、雨合羽などでも多少刺されはするかもしれませんが、壊滅的な打撃は防げます。とにかく逃げる。それが大事なんです。
沼口:巣に近づいて襲われるならば、例えば森林にいる、人間以外の生き物も刺されたりするんですか?
中村:場合によっては獣類も刺されます。私が駆除を依頼されたある民家は、床下に巣ができていたので、近くにいた犬が刺されて亡くなっていました。
沼口:スズメバチは何度でも標的を刺せるんですか?

スズメバチに刺されると、一目でわかるほど腫れあがってしまう

中村:一度刺しても、毒液の量が戻ればまた刺せます。刺しても針が抜けないんです。
沼口:襲われやすい服装などはあるんですか?
中村: スズメバチは一度襲い始めると、動くものや黒いものに刺激されてどんどん攻撃してきます。それが人間の髪であろうと、動物の毛であろうと、巣を襲う対象にしか見えていませんから。

スズメバチ男子のお宝④
オオスズメバチの女王標本

子供たちに教えるイベントの際に使用しているもの。アルコールに漬けており、うまく保存管理すれば半永久的に観察できる。スズメバチ自体は、4年ほど前に横浜で捕まえた個体。

沼口:どうして黒い色のものに反応するんでしょうか?
中村:一説には、天敵であるクマの毛色だからという説があります。クマは、ハチの巣の中にいる幼虫を食べてタンパク質を摂取することがあるんです。大きい巣にいる幼虫すべてのタンパク量は、子犬一頭分の量に相当しますから、クマだって隙あらば巣を狙おうとするんですね。台湾あたりだと、サルがスズメバチの巣を襲い、幼虫のタンパク質を狙っていたという目撃例もあります。
沼口:どんな味なんでしょうね? 幼虫は。食べたことありますか?
中村:あります。何とも言えない、独特の味わいですね。でも食べられないような味ではないです。食べ方は炒ったり、生だったりさまざまですね。私は酒の肴にぴったりだという感想を受けました。
沼口:へえ、意外ですね!
中村:中国あたりだと何十種類のハチの幼虫が、巣ごと食料として販売されていますよ。しかも牛肉より高い価格で(笑)。巣を養殖場に移動させて、幼虫を養殖するようなこともやっているみたいです。オオスズメバチの幼虫は珍味で、高い値段で取引されているんです。

中国の昆明市場で売られているスズメバチの巣
養殖環境下で営巣しているオオスズメバチ

まあ、サメでいえば高級フカヒレのようなものですね。
沼口:アジアでは至高の珍味が詰まった宝箱ともいえるスズメバチの巣。いったいどんな謎が隠されているのか、詳しくはvol.3で!

サメvsカラス対談 全3回!
次回は、知られざるサメとスズメバチの本音に迫ります。
vol.3は5月2日(木)配信予定

著書紹介

 

『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)

『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)

人類よりも先、地球に4億年前からすみつづけるサメは世界中に500種類以上存在する。全長17メートル(これまで確認された最大サイズ)の「最大の魚類」ジンベエザメから、手のひらサイズのツラナガコビトザメまで、分布や生息域、繁殖方法も多様性に富む、まさに”百鮫百様”の生き物。そんなサメを愛してやまないシャークジャーナリストが、サメの本当の姿を世の中に伝えるべく奮闘を繰り返した体当たり図鑑。本体1800円。

 

『スズメバチの真実』(八坂書房)

『スズメバチの真実』(八坂書房)

昆虫界において、食物連鎖の頂点に立つ帝王・スズメバチ。毎年報道されるスズメバチをめぐる事故はどう防げばいいのか? スズメバチは本当に駆除すべき忌避の対象なのか? 研究・調査中にスズメバチに刺されること100回余! 何度も命拾いをしながら危険を顧みず、50年以上にわたって愛するスズメバチを追い続けてきた気鋭の研究者が、豪快な体験談をもとにスズメバチの”真実の姿”に迫る。本体2000円。


写真/植野 淳 構成・文/新田哲嗣

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