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サメ愛
沼口麻子

(写真:左)1980年、東京都出身。東海大学海洋学部を卒業後、同大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程を修了。大学在学中にサメ相調査と、サメの寄生虫の調査に没頭。世界唯一のシャークジャーナリストとして、「サメのいるところ沼口あり」と言わんばかりに活躍中。自身でも「サメ談話会」というサメファンクラブを主宰し、全国各地にサメ好きの輪を広げている。挨拶の基本は「よろシャークお願いします」。主な著作に『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)。

カラス愛
松原 始

(写真:右)1969年、奈良県出身。京都大学理学部卒業。同大学院理学研究科博士課程にて理学博士号を取得後、東京大学研究博物館に勤務。カラスの生態、行動と進化を主な研究テーマとしている。カラスのためなら森の中で蚊の大群に襲われようとも、街で職務質問を受けようともおかまいなし。「来るなら来やがれ」の精神で森へ街へと突撃を繰り返している。主な著作に『カラスの教科書』(講談社文庫)、『カラスの補習授業』(雷鳥社)。

 

「陸に揚げられても、ゾンビのように噛みついてくるサメがいます」

松原:サメの研究で命が危ないと感じたのはどんなときですか?
沼口:サメに襲われたとき……と言えば『ジョーズ』っぽくなってしまいますね(笑)。もちろんそんなことはありません。一番危なかったのは、ダイビングの最中、低体温症になったことです。
松原:取材時にですか?
沼口:そう。「このまま体温戻らなかったら、私、死ぬんだな」とおぼろげながら覚悟をしたほどでしたから。やはり海の中は人間の日常的な生活環境ではないので、常に何かしらのリスクがあります。ダイビングをするにも、地上とは違ってエアの残量を見極めながらやらないといけないし。日頃の体力作りはもちろんちゃんと考えていますが、ボンベのエアをいかに節約しながら全力疾走するか、とかも(笑)。
松原:かなり高度な技術が要求されそうだ(笑)。
沼口:実際に解剖するためには海に出てサメを獲らないといけませんから、学生時代からフィールドワークでずいぶん鍛えられてきましたね。
松原:今があるのもそのおかげですね。
沼口:サメって体重が300キロくらいあるものも平気で水揚げされてくるので、ちょっと倒れてきただけで足骨折とか、漁港でも気をつけないと、いつケガをするかわかりません。もしサメがトラックから落ちてきたら、ちょっと触れるだけで人間のほうがぺちゃんこになりますから。重い肉の塊をいかに安全に触るか、です。

松原:『ほぼ命がけサメ図鑑』に出てくるオオセのように、水揚げされてだいぶ経っているのに条件反射で噛みついてくるのもいたりするんでしょう?
沼口:あれはびっくりしますよ! 漁港に水揚げされて、そのあたりにぽんと置かれていたので「死んでるんだろうな」と思ってちょっと触ったら、ガバーッて噛みついてきたり。ゾンビみたいですよ(笑)。
松原:オオセの咬傷ってけっこうひどくなるようですね。
沼口:日本だとサイズがそれほど大きくないので、噛まれても数針くらいで済むんですけど、海外だとそうはいかないんです。オーストラリアあたりで獲れる大きいものだと、ちょっとしたテーブルくらいの大きさがあったりしますから、小さな子供とかだったら致命傷になりかねないんです。見た目が平べったくて、のんびりした顔つきをしているので、そんなに凶暴には見えないんですけどね。でも、ひとたび噛んだら、歯を肉深くに差し込んで、あごの筋肉が強いものだからなかなか離さない。私は体ではなく、スニーカーを噛まれたんですけど、口から靴をはがし取るまで30分以上かかりました。
松原:そんな環境だと、ケガは日常茶飯事ですね。
沼口:サメ肌というくらいですから皮膚はざらざらですしね。先日、子供向けの解剖イベントをやったんですが、腕のあたりに見覚えのない擦り傷がまだらについてて。お風呂に入るとめちゃくちゃ沁みて苦労しました(笑)。 

イキモノ紹介⑤オオセ

オオセ

テンジクザメ目オオセ科に属する。平べったい特徴的なフォルムのサメで、日本近海の本種は大きくても1m程度。ちなみに、最大のサメであるジンベイザメも同じくテンジクザメ目に属する。

サメ道三種の神器②白衣

白衣

『ほぼ命がけサメ図鑑』のロゴ入りオリジナル白衣。研究室所属以来、解剖の際など白衣は着慣れたもの。基本的に解剖時はロゴなしの白衣だが、このロゴ入り白衣は、メディア出演するときのユニフォームとして愛用している。

カラスの愛の波状攻撃。そして私、敗北

松原:私の場合、カラスのヒナに触ったりしてカラスが突っ込んできたりすると、それはビビりますけど、ケガまではないかなあ……。山の中を半袖で歩くと虫に刺されたり、ちょっとした切り傷ができたりはしますけどね。
沼口:例えばヒナが目の前にいて、助けようとして拾うだけでも突っ込んでくるってことですか?
松原カラスのヒナに近づいただけでもものすごく威嚇されます。あるとき、よく行く観察スポットで、ハシボソガラスがずっと鳴いていることに気づいたんです。「この巣はそろそろ巣立ってるはずなんだけど、おかしいな?」と思ってのぞき見ると、親ガラスが2羽、かなり低いところまで降りてきてガアガアわめいている。「こんな低いところに何かあるのか?」と回り込んで見てみたら、木の幹のところに、ヒナがぺたんと座っているじゃありませんか。
沼口:アァ、落ちちゃったんだ。
松原:巣立ったばかりのカラスのヒナは意外と飛ぶのが下手なので、飛び立ったところより高いところに行けないんですよ。必死に羽ばたいても、やっぱりまた落ちる。で、地上から「クワーックワーッ」とSOSを出すわけです。そのとき近くに猫もいたので、これはかわいそうかなと思って近づいたんですね。もちろん拾っても枝にのっけておくくらいしかできないんですけど。
沼口:親ガラスは子供を拾い上げないんですか?
松原:鳥の親は子供を運べないんです。子供をガードするしエサも与えるけど、移動させるという行動パターンがない。ヒナが自力で上がってくるのをひたすら待つだけです。
沼口:じゃ、松原さんはそのカラス一家にとって救世主じゃないですか。
松原:せめて枝の上くらいにのせておくかな、と思ったら、案の定親が怒りまくるわけです(笑) 私が危害を加えようとしていると思っていたんでしょう。ヒナもヒナで、輪をかけて悲鳴をとどろかせる。そこからが修羅場です。子供の悲鳴が親ガラスのスイッチを入れて、親、ブチ切れ(笑)。ハシボソガラスって、本来あまり怒らないんですけど、子供の悲鳴を聞くと狂気のごとく感情が炸裂するんです。「グワアーーーーーー」と威嚇したかと思った瞬間、頭の上から突っ込んできて、「危ない!」と思って頭を下げたら羽で顔をはたかれました。
沼口:怖いですね……本気で攻撃されたら、かなりのダメージを受けたりするんじゃ……?
松原:といっても、脚で頭をはたかれるくらいですけどね(笑)。頭の上から攻撃するというと硬いクチバシを突き刺してくるイメージがあるかもしれませんが、それは絶対にやりません。あの速度で頭からいくと、頸椎やられちゃうんです。頭から突っ込んだら死ぬってことをカラスたちもわかっているので、脚を下ろして飛びながらぶつけるような攻撃になる。人の頭を飛び越えながら脚を下ろして蹴るか、頭を踏み台にしてジャンプするかのどちら
沼口:頭をつかまれるということはないんですか?
松原:頭をつかまれたという人もたまにいますが、正しくはないんです。踏み台にされたときに爪がかかっちゃったことで、つかまれたと錯覚してるだけ。カラスの脚には後ろ向きの指が1本ありますから、あれが髪の毛に絡むことがあるんです。私がやられたときはまず1羽の翼が頭をかすめていって。それが上昇しているのを身構えて待っていたら、別角度からもう1羽くるんですよ。「しまった、ペアだったか!」と(笑)。 なので、別角度からくるほうを警戒していたら、さっき上昇していたのが再び旋回して戻ってくる。
沼口:すごい勢いとコンビネーションで波状攻撃を受けたわけだ(笑)。
松原:これはヒナどころではなく逃げないと手に負えないと思い、ヒナを枝に置いてダッシュでその場を去ったという、せちがらい敗北経験です(笑)。

カラス道三種の神器③迷彩服

迷彩服

松原さん愛用の迷彩ジャケット。森の中で迷彩柄をまとい完全偽装していても、身動きしているところをカラスに目視されたら、人だと見破られ、やるせない思いをするという。森や山の中へ入るときは、足元にはコンバットブーツを同時着用。時計は電池切れで仕事にならなかったときの反省を込めて、ソーラーパネル式のアナログ時計を使っている。アナログ時計だと、針の指す時間を見間違えてしまうことがあるが、直感的に時間を計るには便利。

カラス男子のお宝③ハシブトガラスの巣(2枚)

ハシブトガラスの巣

松原さんが初めて山の中で見つけたハシブトガラスの巣。ハシブトガラスは木立の中で営巣し、都市部だけではなく山間部にも分布しているが、実際巣を見つけられた研究者は数えるほどしかいない、かも。松原さんも群馬の山の中でこの巣を見つけるまでに3年かかったという。全身迷彩色で繁みと同化してカラスが見ていない隙に移動を繰り返し、あとはひたすら巣に戻るのを待ち続けるという、戦場のスナイパーのような観察手法だったそうだ。もう1枚はドローンで空中撮影をした、使用済みで無人(無烏)の巣。地上からは発見しにくい巣も、空中からだと見やすい。ただし、カラスをはじめ多くの鳥が哨戒飛行をしてくるので、鳥を脅かさないよう注意が必要。

 

サメvsカラス対談 全4回!
1回目はコチラ!
2回目はコチラ!
4回目はさらにヒートアップする体験談&衝撃のフィナーレ! 12月14日(金)配信予定

 

著書紹介

 

『ほぼ命がけサメ図鑑』

(講談社)
人類よりも先、地球に4億年前からすみつづけるサメは世界中に500種類以上存在する。全長17メートル(これまで確認された最大サイズ)の「最大の魚類」ジンベエザメから、手のひらサイズのツラナガコビトザメまで、分布や生息域、繁殖方法も多様性に富む、まさに”百鮫百様”の生き物。そんなサメを愛してやまないシャークジャーナリストが、サメの本当の姿を世の中に伝えるべく奮闘を繰り返した体当たり図鑑。本体1800円。

『カラスの教科書』

(講談社文庫)
ゴミを漁り、不吉なことを連想させるため、人々から疎まれやすいカラス。でも生態をつぶさに観察すると、走る車にくるみの殻を割らせたり、マヨネーズを好んで食べたりと、意外な表情を見せてくれる。日々、カラスを追いかけて東へ西へ奔走する気鋭の動物行動学者が、ユーモアたっぷりにカラスの魅力に迫る、カラス初心者向けの一冊。カラスと仲よくなることができる(かもしれない)初級カラス語会話付き。本体720円。

※表示価格は税抜き


写真/植野 淳 構成・文/新田哲嗣 イラスト/鈴木海太(トップ画像) 折笠りょこ(サメ) 松原 始(カラス)

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サメジャーナリストとカラス研究家の「ニッチも フェチも いかない……対談」 vol.1-3

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