日常の道具で涼やかさを感じる。令和の“民藝”を楽しむための基礎知識

令和の民藝

日本には昔から、目で、手で、音で涼を取り入れる知恵がありました。どれも暮らしの中にすっと入り込み、夏を心地よくしてくれるものばかり。そうした日用品の中に美を見出してきたのが「民藝」です。職人が丹精込めて作った日常の道具たちは、暑い季節の食卓や部屋の景色を涼やかに整えてくれるんです。

1933年創業の民藝店 銀座たくみ・野﨑社長に訊く
令和の民藝とは?

野﨑 潤さん(株)たくみ 代表取締役社長
野﨑 潤さん

1964年東京都生まれ。大学在籍時、日本民藝館の学芸員実習生となり、柳 宗理館長らに指導を受ける。その後、東急ハンズを経て2011年に銀座たくみの母体である(株)たくみに入社。現在は民藝の配り手として全国の産地を飛び回る。公益財団法人日本民藝館監事、日本民藝協会常任理事なども務める。

基礎
「これ、いいな」の感覚こそが民藝の始まりです

「民藝をわかりやすくいえば、名もなき作り手たちが暮らしのために生み出してきた手仕事に、美を見出す考え方のこと。思想家の柳 宗悦たちが『民衆的工藝』を縮めて名づけた造語で、その考え方の中心には日々使われる道具や品には無垢な美しさが宿っている、という感覚があります」

令和の民藝

手前/ 河井寬次郎が京都五条坂で開いた鐘渓窯(しょうけいよう)の意匠と技法を受け継ぐ猿子田窯・河井一喜さんの六寸鎬鉢。筋状の鎬(しのぎ)が生み出す陰影と、青みを帯びた釉調が凛とした存在感を添える。6600円。左/島根県出雲市にある出西窯の平皿六寸。濱田庄司、河井寛次郎らの指導を受けた共同体の民窯の名物といえば、出西ブルーと呼ばれる深みのある青い皿。2640円。右/沖縄県の読谷山焼北窯・松田米司さんの弟子、登川 均さんが沖縄県うるま市で築いたからや窯。その七寸皿は、かの地の自然を思わせるおおらかな絵付けとやわらかな土味が魅力だ。5720円。カゴ/熊本県の竹籠屋きどの椀籠は、真竹を用いた六つ目編みと通気性に優れた上げ底が特徴。おにぎり型な点も使いやすさの一助に。1万8480円(以上、銀座たくみ)

そう語るのは、日本を代表する民藝店・銀座たくみの代表を務める野﨑 潤さんです。

「だから民藝の話になると、用即美や無銘性といった言葉がよく出てくるんですが、そういった知識を理解したからといって、わかるようになるわけではありません。むしろ民藝の面白さは、理屈より先に、ふと『これ、いいな』と手が伸びるところにあると思うんです。大事なのは、まず目の前のものをまっすぐ観ること。柳が大切にしていた『今見よ いつ見るも』『見て知りそ 知りてな見そ』という心偈(柳が作った短い句)があります。これは先入観や知識をいったん脇に置いて、今日初めて出会ったものとして向き合うということ。そこで『美しいな』『かわいいな』『連れて帰りたいな』と思えたなら、それで十分です」

野﨑さんが言うには、民藝とは、自分の感覚で選び、使い、愛でながら暮らしの中で育てていくもの。つまり、毎日の暮らしを自分らしく楽しみ、豊かにしていくための知恵なのです。

Q.銀座たくみが考える令和の民藝の条件とは?

A. 「民藝とは何かを語るとき、よく出てくる考え方があります。日々の暮らしで使われるものに美が宿るという『日用の美』。名を上げるためではなく、当たり前の仕事として作られる『無銘性』。人の手による『手仕事』、土地の素材を生かす『自然の材料』、風土の中で受け継がれてきた『伝統的な技法』。さらに素朴さや少しのゆがみさえも美しさと見る『健康美』、多くの人が手に取りやすい『安価性』、使うための形がそのまま美しさにつながる『用即美』、土地の暮らしがにじむ『地域の風土』。これらは柳 宗悦らの考えをわかりやすく整理したものですが、民藝を判定するためのチェックリストではありません。昔の言葉をかたくなに守ることよりも、その考え方を尊重しつつ今の暮らしの中でどう生かすか。そのほうが大切なことだと思います」

Q.民藝=器というイメージが強い理由は?

A. 「一般的に器のイメージが強い民藝ですが、それだけではありません。ほうきや、カゴ、布ものなど、暮らしの中で使われるたくさんの品々があります。その中でも器は、毎日手に取る道具であり、食卓を通して美しさを実感しやすいから、入り口としてわかりやすいんだと思うんです。ただ、夏の皿というと、青い釉薬の器を思い浮かべがちですが、『青い皿』=『夏』と決めつけるのはもったいない気も……。暖色系の皿でも、盛り付ける食材によっては涼を演出できますし、青い皿を冬に使ったっていいんです。大切なのは色や形で季節を決めつけることではなく、器を使って食卓の中にどんな景色をつくり出せるかを思い巡らせること。民藝の器は使い方ひとつで季節感や情景をつくり出せる優れた道具なんです」 

Q.民藝を楽しむために心がけるべきことは?

A. 「民藝を楽しむために大切なのは『民藝とはこういうものだ』と型にはめて考えすぎないこと。実際にご来店される、特に若いお客様は、まずは見たい、触れたいという気持ちでいらっしゃいます。お皿を選ぶにしても、由来や背景は後でいいんです。私たちも求められれば説明はしますが、できるだけお客様が器と対話する時間を大切にしたいと思っています。どれだけ希少価値や由緒のある皿も、買って終わり、ではありません。いかに使い、育てていくかが大切。服好きの方なら、この感覚はきっとわかるはず。お店で出会った一着を見て、『何を合わせようか』と想像する。民藝も同じ。器や道具との出会いをきっかけに暮らしの景色に彩りが生まれ、毎日の暮らしが楽しくなる。そのワクワクこそが民藝の醍醐味なんです」

押さえたい基礎ワード

柳 宗悦

柳 宗悦画像提供:日本民藝館

1889年東京都生まれ。思想家として白樺派に参加しつつ、朝鮮陶磁や日本各地の手仕事に触れる中で無名の職人が作る日用品に宿る美を見出した。1925年には濱田庄司らとともに「民藝」という言葉を生み出し、民藝運動を開始した。工業デザイナーの柳 宗理は長男。

河井寛次郎

1890年島根県生まれ。東京高等工業学校窯業科を卒業後、京都市立陶磁器試験場を経て、京都五条坂に鐘渓窯を築く。柳 宗悦や濱田庄司との交流を通じて民藝思想に共鳴。1925年には柳らとともに民藝運動の出発点に立ち、実用に根ざした器づくりに力を注いだ。

濱田庄司

濱田庄司

1894年神奈川県生まれ。栃木県益子を拠点に、日常使いの器の美を実践した陶芸家。柳 宗悦、河井寬次郎と並ぶ民藝運動の中心人物であり、柳が民藝の思想を言語化したのに対し、濱田はそれを器のかたちで体現した。民藝を“使う美”として社会に根づかせた立役者である。

日本民藝館

日本民藝館画像提供:日本民藝館

柳 宗悦らが1926年に構想し、1936年に東京駒場に開設した民藝運動の本拠地。1931年に静岡県浜松市に設立された日本民藝美術館を前身とする同館には、柳の審美眼で集められた陶磁器、染織品、木漆工品、金工品、石工品、絵画など、国内外から集められた工藝品約1万7000点を収蔵。蒐集・保管、調査研究、展覧会、民藝思想の普及を担ってきた。初代館長は柳 宗悦、二代目は濱田庄司、三代目は柳 宗理。現在の館長は深澤直人氏が務める。住所:東京都目黒区駒場4-3-33/営業時間:10:00〜17:00(最終入館16:30)/定休日:月/電話番号:03-3467-4527

銀座たくみ

 
民藝の「配り手」こと銀座たくみとは?
柳 宗悦が中心になって設立した民藝店。2階にはギャラリーも。
 
住所:東京都中央区銀座8-4-2
営業時間:11:00〜19:00
定休日:水・祝
電話番号:03-3571-2017

 
※掲載商品はすべて数に限りがあります
※表示価格は税込み


[ビギン2026年7月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。

Begin 2026年7月号の表紙

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これからの涼品名鑑

定価820円(税込)

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