COOL Begin

CO2も創出賃金も見える服/【COVEROSS】と語るミライ服vol.8

OpenAIがChatGPTを公開して以降、急に身近な存在となったAI。ナノテクノロジー、コールドフュージョン、タイムトラベル……。先端技術が今、実際のところどこまで進んでいるのか、研究者でもない私たちが知る機会はなかなかない。

一方、私たちが毎日着ている「服」も、最近ずいぶん進化しているような気もするが、相変わらず夏は暑く、冬も外へ出たくない。洗濯も面倒だ。しかし、もう少しすると35℃の真夏でも快適にゴルフができて、氷点下でも外出がしたくなる、しかも洗濯不要! そんな服が当たり前になるかもしれない。

そんな“新しい当たり前”を作らんとするブランドが、機能服のテクノロジーを日々前に進め、ファッションだけでなく産業界や行政からも話題を集めている「COVEROSS®(カバロス)」。我々の「衣」がこの先どこに向かって、今はどこまで来ているのか? Beginは密着取材を通してカバロスに聞いてみることにした。

石油産業に次いで環境負荷が高い産業とされるアパレル産業。SDGsへの意識が高まった昨今は、オーガニックコットンやリサイクルポリエステルの使用を謳う商品も増えているが、一方で、その素材がどんな背景で作られ、どの程度環境へ配慮されたものなのかを知る術はなかったりする。

この問題を独自のAI技術を用いたESG評価によって解決するスタートアップ企業が「aiESG(アイエスジー)」だ。代表を務める馬奈木俊介さん、ハップ鈴木社長への取材を通じて、CO2の排出量から人権配慮、はたまた地域にもたらす創出賃金まで、あらゆる要素を“見える化”するミライの服作りの姿に迫りたい。

密着取材するのは……

hap 代表取締役社長 鈴木 素さん

繊維商社に7年間勤めた後、2006年に「hap(ハップ)」を設立。アパレル製品のOEM等を手掛けながら、世界初の快適多機能素材「COVEROSS®(カバロス)」シリーズを開発する。2023年1月には、さまざまな機能性をカスタマイズしながら付与・除去できる後加工技術を駆使した「カバロスのサーキュラーファッション」が第11回技術経営・イノベーション大賞【内閣総理大臣賞】を受賞。座右の銘に「一日一生」。

ミライ服共犯者 No.10

九州大学 主幹教授/九州大学都市研究センター長/aiESG代表 馬奈木俊介さん

九州大学大学院工学研究院都市システム学講座で教鞭を執る傍ら、国連のInclusive Wealth Report Director、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の代表執筆者を務める。2022年に独自のAI技術を用いたESG分析サービスを提供する「aiESG」社を設立。サスティナブルな社会の実現に向けて、多方面で活躍する。なお、持続可能性の分析分野での学術論文の引用数は世界一!(2025年)

サプライチェーン全体のESG評価が
モノづくりを変える

アイエスジーによるESG評価の一例。比較対象とする製品を基準(オレンジの円)として、当該製品の値はブルーの円グラフで示されている。外側に行くほど評価が高いことを示す。この例では主要18項目での比較だが、アイエスジーでは最多3200以上の項目での評価が可能だ。

サスティナブルへの意識の高まりと呼応し、「ESG」という考え方の重要度が増している。ESGとは、環境=Environment、社会=Social、ガバナンス=Governanceの頭文字を合わせた語であり、企業が長期的に成長するためには、その3つの観点が必要であるというもの。ESGに関わる評価は、CO2の排出量や水の使用量、児童労働やジェンダー平等など多岐にわたる。今回取材したアイエスジーは、九州大学 馬奈木研究室のデータサイエンスと最先端のAI技術を活用してESG評価を行うスタートアップ企業だ。

「我々の研究分野は、サスティナビリティの数値化。アイエスジーでは104の言語に対応するデータを用い、気候変動へのインパクトからウェルビーイングに至るまで、さまざまな価値の数値化を行える仕組みを築きました。使用するデータは世界中のニュースや、企業データ、学術論文など多岐に及びます」と馬奈木教授。アイエスジーは、個々の製品やサービスレベルでのESG評価を行う仕組みを、世界に先駆けて整えたことで注目を浴びた。

アイエスジーの有する世界中のデータと技術を用いれば、たとえばこのデニム一本を生産するのに、綿花の栽培時点でどれほどの水を使い、工場での染色にはどれくらいの水を使い……といったすべてのサプライチェーンのデータを、当該の農地や工場のデータ、なければ地域の平均等のデータから算出し評価をくだすことができるのだ。しかも評価できる指標は水やCO2の排出量のみならず、3200以上の多岐に及ぶ。カバロスを手掛けるハップ鈴木社長は、この技術がモノづくりにゲームチェンジをもたらすと予想する。

「CO2を減らすためにはどの産地のオーガニックコットンを使えばいいのか、それともペットボトル原料のポリエステルを使ったほうがいいのか、といった判断をAIがくだしてくれるわけです。かつ評価指標が多岐に及ぶため、CO2排出量はこちらのほうが少ないけれど、それだと水の使用量が多いよね、強制労働の可能性があるね、といったこともわかる。AIだから忖度もなく、人権配慮やコストも含めた“総合的な評価”を知ることができるんですね。RFID(製品にタグを搭載し、非接触で情報を記録できる仕組み。在庫管理など既に広く活用されている)やブロックチェーンと紐づければサプライチェーン全体で、嘘が効かなくなる。自ずと服作りの在り方も変わってくるでしょう」

馬奈木教授の研究分野は多岐にわたり、なかには「温泉入浴が腸内細菌に与える影響」を分析したユニークな研究も。「温泉は成分によって、身体への圧迫(浸透圧)の度合いが変わる。その圧迫によって腸内細菌が元気になることが証明されました」というから驚きだ。

評価する指標は、任意で選択することが可能。やろうと思えば生産にかかるCO2だけでなく、たとえば“生産に関わる人々が暮らしの中で排出するCO2”まで含めたESG評価をくだせるというから驚きである。

“見える化”が買い手に
ベストな選択を教えてくれる

もしオーガニック素材を謳う同じデザインの洋服が2つあるとして、1つは何の情報もない服、もう1つは人権や環境にどのような手段でどの程度配慮したかが明示された服だったら、アナタはどちらの服を買うだろうか? ESG評価によるモノづくりの“見える化”が、ひいてはビジネスにも好影響をもたらす理由がここにある。

図1

図2

ただ、モノゴトはそんなに単純ではない。“見える化”はプラス面だけでなくマイナス面も見える化することに他ならないからだ。上の図1と図2は、「COVEROSS W(カバロス ダブル)」の「HEAT SHIELD DENIM(ヒートシールドデニム)」を生産するにあたって排出されるCO2排出量と淡水使用量を、中国産のオーガニックコットンを使った一般的なデニムのそれと国別に比較したもの。主素材にアゼルバイジャン産のオーガニックコットンを用いたヒートシールドデニムの数値はブルーの円で、後者の数値はオレンジの円で表される。円の大小=数値の大小である。

アイエスジーによるこのESG評価を見ると、アゼルバイジャン産のオーガニックコットンを用いたヒートシールドデニムは、CO2の排出量は抑えることができる一方で、淡水使用量は中国産のオーガニックコットンを用いたデニムよりも多いことがわかる。一口にオーガニックコットンといっても、産地が変われば環境へのインパクトも異なる──この事実が、数値化によって初めて可視化されるのだ。

主素材としてアゼルバイジャン産のオーガニックコットンを用いた「COVEROSS W(カバロス ダブル)」の「HEAT SHIELD DENIM(ヒートシールドデニム)」

ちなみに水の使用量が多い理由は、アゼルバイジャンの多くの地域は半乾燥〜乾燥気候に属し、天然降水量(グリーンウォーター)が少ないため灌漑への依存度が高いことに由来する。対して、長江流域などの中国のコットン栽培地域は比較的降水が多く、雨水だけでもある程度の栽培が可能なのだ。

ほかにも、灌漑インフラの老朽化による水の損失率の高さや、そもそもの技術の差も挙げられる。開放型の灌漑路では蒸発や漏水が多く、水の使用効率が低い。耐乾燥に優れた品種の開発が遅れている可能性もある。一方で、そうした発展途上にあるオーガニックコットン栽培農家への投資は、将来的によりよい栽培を可能にすることにもつながる。

すべての指標においてパーフェクトな産地は、おそらく存在しない。だからこそまずは現実を知り、何を優先しどう行動するべきかを考えるのが大切であり、ESG評価によるモノづくりの“見える化”は、その第一歩なのだ。

馬奈木教授は大阪・関西万博のインドネシアパビリオンにて5月13日に開催されたビジネスフォーラムに登壇。インドネシアで生産される「COVEROSS WIZZARD(カバロスウィザード)」TシャツのESG分析シミュレーションを紹介しながら「サスティナビリティ:AIを活用した投資分析の未来」と題したプレゼンテーションを行なった。余談だが、ノベルティとして「COVEROSS W(カバロス ダブル)」のTシャツやスカーフ、キャップ、トートバッグが参加者へ配布された。

モノを大切に。“見える化”によって
再定義される、あるべき消費の姿

ESG評価によってモノづくりを“見える化”する──その先にあるのは、モノを大切にする文化の再定義だとハップ鈴木社長はいう。

「サスティナビリティって大抵、感覚的じゃないですか。だからもう少し踏み込んで、客観的な数値を示したいんですよね。サプライチェーン全体の環境負荷を数値で示すことで、自分たちの生活が、環境にどのくらいの負荷を掛けているのかっていうのを知ってほしいのがあって。洋服を作るのにものすごいエネルギーを使っているのがわかれば、簡単に使い捨てにはできないはず。そういうことに対する責任は、着る本人にあるというような発信も、アパレルがやっていかないといけないと思うんです。だから、作る側も使う側も、報道する側の人々も、みんなでその辺を変えていこうよと。ESG評価で“見える化”した服が、モノを大切にしようというメッセージになって、文化の再定義につながればいいと思っています」

そして“見える化”した服を着ることは、ウェルビーイングにもつながると馬奈木教授は続ける。

「利他的な行動は、ウェルビーイングを高めるというデータがあります。環境意識の高い人が環境に配慮した行動を取れば、満足度が高まりますから、短期的にもまずそこでプラスがあるんですよね。自己満足って大事ですよ。さらに自己満足を満たすことが社会にとってもプラスなら、ウィンウィンじゃないですか。ちょっぴり値段は張るけれど気持ちよく着られて、社会にもいい服をつくることは理に適ったものだと思います。そして、それを普及させるにはやっぱり、学術的な数値で語ることが必要なんです」。

「ウェルビーイングは、仕事の生産性を高めるという研究データもある」とのことで、カバロスはアイエスジーとともに、ウェルビーイングを客観的に可視化して提供できる服の開発も目指しているという。

快適さは、機能や着心地だけでは測れない。“見える化”によって得られる納得、納得によって生まれる満足もまた、ミライ服には欠かせない快適要素というわけだ。

COVEROSS W HEAT SHIELD DENIM

カバロスとビギンがコラボする「COVEROSS W(カバロス ダブル)」より、デニムの再構築を掲げ完成したデニム。ウエストは体型が変わっても着られるゴム&ウェビング留め。腰回りや太腿にゆとりを設けたテーパードシルエットとすることで、体型や性別を問わずに穿けるリラックス感と、シーンを問わずに穿けるクリーンな印象を両得した。経糸には本文でも触れたアゼルバイジャン産のオーガニックコットンを、肌にあたる面の緯糸には、翡翠を練り込んだ異形断面のポリエステル糸を使用。接触冷感性をはじめ遮熱機能、UVカット、抗菌防臭性を付与することで、季節も問わずに穿ける一本に。1万6500円。Begin Marketにて好評発売中。詳しくはこちら

問い合わせ先/カバロス
https://coveross.jp/
info@hap-h.jp

※表示価格は税込みです


写真/椿原大樹 中島真美 文/秦 大輔

Begin Recommend

facebook facebook WEAR_ロゴ