アップグレードする服/【COVEROSS】と語るミライ服vol.3
OpenAIがChatGPTを公開して以降、急に身近な存在となったAI。ナノテクノロジー、コールドフュージョン、タイムトラベル……。先端技術が今、実際のところどこまで進んでいるのか、研究者でもない私たちが知る機会はなかなかない。
一方、私たちが毎日着ている「服」も、最近ずいぶん進化しているような気もするが、相変わらず夏は暑く、冬も外へ出たくない。洗濯も面倒だ。しかし、もう少しすると35℃の真夏でも快適にゴルフができて、氷点下でも外出がしたくなる、しかも洗濯不要! そんな服が当たり前になるかもしれない。
そんな“新しい当たり前”を作らんとするブランドが、機能服のテクノロジーを日々前に進め、ファッションだけでなく産業界や行政からも話題を集めている「COVEROSS®(カバロス)」。我々の「衣」がこの先どこに向かって、今はどこまで来ているのか? Beginは密着取材を通してカバロスに聞いてみることにした。
服のもつあらゆる可能性を引き出す
カバロスランドリーとは?
たとえばお気に入りのTシャツが、着古しすぎて薄くなってきたとき。普通に考えればサヨナラをしなければならないが、もしそのTシャツを“透けなく”できればどうだろうか?
2023年に始まった「カバロスランドリー」は、そんな手持ちの服へ新たに機能を付与することで、製品寿命を延ばし、末永い愛用をサポートするサービス。特許技術を駆使した「カバロス加工」によって、透け防止だけでなく、快適にまつわるさまざまな機能を付与することが可能だ。
写真左は、編集部員の私物Tシャツで、写真右はそのTシャツにカバロスランドリーの「ANTI-SHEER(アンチシアー)」加工を施したもの。ビフォーアフターで劇的に透けにくくなっているのがおわかりになるだろう。ちなみにアンチシアー加工のサービスには、ほかにも汗染み軽減や遮熱効果の付与も含まれている。詳しくは後述するが、サービスにはほかにも吸水拡散性や抗菌防臭などの機能を付与する「BREEZE PLUS(ブリーズプラス)」や、撥水・速乾・抗花粉機能を付与する「PROOF(プルーフ)」がある。
手持ちの服をアップデートして、できるだけ長く着る──。サスティナブルが求められる現在のファッションシーンにおける、最先端の姿がここにある。
そんなカバロスランドリーのカバロス加工は、どんな場所でどのようにして行われているのか。連載vol.3では、サービスの立役者や携わる人々への取材を通じてレポートしたい。
密着取材するのは……
hap 代表取締役社長 鈴木 素さん
繊維商社に7年間勤めた後、2006年に「hap(ハップ)」を設立。アパレル製品のOEM等を手掛けながら、世界初の快適多機能素材「COVEROSS®(カバロス)」シリーズを開発する。2023年1月には、さまざまな機能性をカスタマイズしながら付与・除去できる後加工技術を駆使した「カバロスのサーキュラーファッション」が第11回技術経営・イノベーション対象【内閣総理大臣賞】を受賞。座右の銘に「一日一生」。
服を長く着るための
「付加価値」を求めて
ミライ服 共犯者 No.4
ファッションクロスフルシマ 代表取締役社長 古島一男さん
繊維商品の検品や仕上げ、補修を手掛ける老舗企業の代表取締役社長。1995年に入社し、中国やASEAN諸国への進出を推し進める。2011年に現職へ就任。国内外事業を手掛けながら、サステナビリティなどの社会問題にも積極的に取り組む。座右の銘は奇しくも「一日一生」。
埼玉県羽生市──かつて藍染め業が盛んに行われていた地に「ファッションクロスフルシマ」の本社がある。ファッションクロスフルシマは、繊維製品の検品や補修、物流などを行っている老舗企業。その建物の一角で、「カバロスランドリー」のカバロス加工が行われている。しかしなぜ、検品のプロフェッショナルがこのサービスを手掛けているのか? 古島社長は、協業のきっかけについて次のように語る。
「うちは検品会社なのですが、アパレル製品が海外で検品できるようになるにつれて国内事業が空洞化した時代がありました。その中で新たに、“返品された商品をもう一度検品や補修をして売っていこう”という、廃棄を減らすための再販加工の取り組みを進めたんですね。大量生産、大量廃棄が社会的な問題になっていたこともあり、サステナブルにはすごく力を入れていました。そんななか、検品の仕事で以前からお付き合いのあったハップの鈴木さんからいろいろなお話を聞いて。学者みたいな面白いことをしているなぁと思い、何か一緒にやりましょう!と意気投合したのが最初だったかと思います」
カバロスランドリーの加工業務を行っている工場の一角には、現在、蓋へ特殊なノズルが装着された3台のドラム式のランドリーが並んでいる。聞けば、うち1台はサービスの提供以前から稼働していたものを改造したものだという。検品を主な業務とするファッションクロスフルシマだが、レンタル商品なども扱っているため、以前よりクリーニングの設備やノウハウがあったのだ。
手持ちの衣服にさまざまな機能を複合的に付与する後加工サービス。カバロスランドリーを短く表すとこういうことになるが、そもそもなぜこのサービスを始めたのか。もちろんビジネスが目的であることに違いないが、背景にはサーキュラーファッションを実現させたいというハップの思いがある。鈴木社長は語る。
「ハップは2024年までフィンランドにも拠点を置いていたのですが、海外の動向を見るにつれ、これからのアパレルはリユースやレンタルといった業態が重要になるだろう、というより必須になるというものを感じたんです。地球環境を考えれば、同様にできるだけ製品寿命を伸ばす、というのも必要不可欠です。そこで、多機能という“付加価値”を付与することで衣服をより長く使ってもらえるようなサービスはできないだろうか?と生まれたのがカバロスランドリーでした」
クリーニング店にも、撥水や防シワなどの機能を付与するサービスは存在する。だが、既存のそれとカバロスランドリーのそれで決定的に異なるのは「快適性です」と鈴木社長は熱を込める。
「一般的なサービスでは、撥水といえば撥水だけで。でも、カバロスランドリーの『プルーフ』では撥水に加え、速乾や抗花粉機能も複合的に付与する。夏服に撥水をかけると、ともすると不衛生であったり蒸れやすくなったりするのですが、多機能を付与することで、より快適に着られるように工夫しているんです。目指す先が、ずっと着ていたい!と思って貰えることなので」

カバロスランドリーの加工には基本的に連載vol.1(10の機能を持つ服)で取材したユケンケミカルの薬剤を用いているとのことだが、薬剤をナノレベルの極小の泡で噴出できる特殊なノズルを通じて噴霧することで、洋服などへの機能付与時の水使用量を最大95%、薬剤使用量を最大50%程度に抑えられるという。
結果として付与される機能はもちろんだが、サーキュラーファッションの実現には、課程が誠実であることも大切。ハップが、SDGsが言葉として浸透する以前から環境問題へ取り組んできたファッションクロスフルシマとタッグを組んで異色の新サービスを開始したのは、


プロの叡智と最先端が詰まった
「後加工」技術
ファッションクロスフルシマ本社の一角に、カバロスランドリーの後加工を行うドラムが3台、並んでいる。さまざまな機能は、いかなる工程を経て付与されるのか? 試行錯誤の末にノウハウを確立したという加工の工程を、いちから見せていただいた。
加工する衣服をドラムに入れ、まず20〜30分ほど湯洗いする。
一斗缶に入ったユケンケミカルの薬剤。撥水、抗菌、透け防止などさまざまな機能を付与するためのもので、現在は約10種類を備えているという。
薬剤を一度に混ぜて置いておくと、時間経過により分離してしまうため、薬剤および水の調合は作業に合わせて都度、行う。付与したい機能によって、当然、レシピは異なる。
調合した薬剤を専用容器に移し、ブルーの蓋と一体化した高圧をかけるコンプレッサーをセット。
衣服をドラム内に入れ、蓋をして回しつつ4つのノズルから薬剤を高圧噴射。ナノレベルの泡となった薬剤を吹きつけ繊維に浸透させる。なおノズルは形状や角度、配置にいたるまで最適化されており、ハップが特許も取得している。
1分ほど軽くすすいでから乾燥室へ。天気のよい日は自然乾燥をすることもあるとか。
撥水を掛けたものは、「トンネルBOX仕上げ機」という機械へ投入し、ベーキングと呼ばれる加熱工程にかける。熱を加えることで撥水の耐久性が増すのだ。
カバロスランドリーの加工を担うプロフェッショナルは現在、3人。田口さんもその1人だ。「パーカーなどの大きめの衣類ですと、噴霧の途中に中で絡まってしまい、均等に吹き付けができない場合があります。なので、様子を見ながら途中で開けて整えたりもします。機械的な作業と思われるかもしれませんが、一点一点、丁寧に対応しています」と田口さん。
3コースから選べるカバロス加工
カバロスランドリーでは現在、複合的な機能を付与するカバロス加工を、3つのコースから選択することができる。編集部員の私物で実際に加工を体験したので、結果をリポートしたい。
「BREEZE PLUS(ブリーズプラス)」
年間を通して日常生活を快適に送れるよう、吸水拡散性、抗菌・防臭、消臭、UVカット、弱冷感性の機能を付与するコース。汗をかく季節を快適に、清潔に過ごしたい向きにも、うってつけのコースである。
今回は、汗でベタつきがちなスウェットやデニムへこの加工を施した。加工前後に10mlずつスポイトで水を掛ける実験をしたところ、加工前はアイテムによってシミがなくなるまでに2時間以上掛かるものもあったが、加工後は平均30分程度でシミがなくなった。
また、加工済みのデニムと未加工のデニムに少量のアンモニア水を垂らしたところ、消臭力にも違いが。放置して5分ほど経過すると、加工済みのデニムは顔をぐっと近づけないとわからないほどのレベルまで匂いがなくなった。
「PROOF(プルーフ)」
花粉が飛散する春先や秋、そして雨の多い季節に役立つのがこちらのカバロス加工。撥水、抗花粉に加えて速乾機能を付与できる。
雨のシーン想定し、加工を施したカーゴパンツを霧吹きで濡らす実験をしたが、加工前後では歴然の差。加工後はこの手のディテールカットを数百枚は撮ってきたというカ
なお、撥水加工には体に有害なフッ素を用いない方法を採用(C-0撥水)。家庭洗濯10回程度の耐洗濯性があり、アイロンをかけることで撥水性が回復する。
「ANTI-SHEER(アンチシアー)」
透け防止、汗染み軽減、遮熱機能を付与するコース。冒頭で紹介したTシャツも、こちらのカバロス加工を施したものだ。今回はアウター用Tシャツに加え、薄手のインナー用TシャツでもBefore Afterを比較。
アウター用Tシャツ Before / After
インナー用Tシャツ Before / After
アウター用Tシャツはもちろん、夏向けの薄手インナーTシャツでも加工前後ではこのとおり! ぐっと透けにくくなった。
ちなみに透けにくくなるヒミツは、ダイヤモンドよりも光を反射するとされる酸化チタンにあり。光の乱反射によって透過を抑えるというわけだ。加工後は風合いがやや固くなるが、透け防止の濃度との兼ね合いで調整できるそうだ。
なお、それぞれの加工についての価格の目安はTシャツ2,970円、ジーンズ5,280円、スウェット4,950円。他にもYシャツ、靴下、ベッドシーツなど付与できるアイテムは多岐にわたる。ただし、全ての素材や製品に機能性を完全に付与できる訳ではないため、製品は担当者が検品したのち、付与の可否が判断される。納期は約1ヶ月ほど。
Begin Marketでも
カバロスランドリーの受付を開始!
カバロスランドリーの3つのコースを紹介してきたが、ここでお知らせ。この度、Begin Marketではカバロスランドリーの受付を開始。下記リンクに申し込みから発送、検品・費用の確定、加工、お届けまでの流れや、価格表なども記載されているので、参考にしてほしい。そしてお気に入りの服を末永く、快適に着るために、ぜひお試しあれ!
Begin Marketでの加工お申込みはこちらから!
次世代のために、「捨てない服」への追求は続く
2023年の9月にテスト稼働が始まったカバロスランドリーだが、皆さんは存在をご存じだったろうか? 知らなかった? それもそのはず。これまではあえて宣伝に力を入れてこなかったというのだ。理由は、オペレーションの確立や技術の習得に時間をかけたかったからだとハップ鈴木社長。
「これまでにないサービスなので、パンクするのを恐れていました。カバロスランドリーのサービスには、加工だけでなく、送っていただいたものをまず検品して、『このような懸念がありますが加工してもよろしいですか?』と確認する作業がどうしても必要な場合があるんですね。すると、量が増えすぎたら追いつかない。現在は主要スタッフも経験を積み、フローもちゃんとしてきたので、もう少し受注を増やせる状況になっています」
B to Bのまとまった後加工受注は増えてきた一方、前述の事情もあってB to Cのカバロスランドリーはまだ、安定的な受注にいたっていないという。その点についてファッションクロスフルシマの古島社長は、「これからですよ」と笑いながら野望を口にする。
「ビジネスとしてはまだまだ。ですが我々が出発点となって、こうしたサーキュラーファッション事業が全国区に広がっていけばいいなと思っているんです。行政も巻き込んで。そこがいま日本のアパレル業界が世界に遅れているところなので、逆転できるくらいのムーブメントを起こしたい。なにせ日本には、親から子へ代々受け継ぐ着物文化があるんですから。ビジネスは後から付いてくるものだと思っています」
一方のハップ鈴木社長は、どこかの時点で転換点が訪れる機運も感じているとも語る。
「僕は信州大学の特任教授として授業を受け持っているのですが、若い世代はSDGsについての教育を受けているので、社会人よりもずっと環境意識が高いんです。だからいまはまだ認知されていなくても、急にブレイクするときが来るんじゃないかと思って」
現在、カバロスランドリーでオーダーできるのは「アンチシアー」、「ブリーズプラス」、「プルーフ」の3コースのみだが、今後はプラスαの機能を付与するオプションに対応したり、たとえばウイルスもカビも花粉もニオイも速やかに分解する機能を付与するコースを設けるなど、サービスをもっと充実、発展させていく予定だという。
「ゆくゆくは睡眠の質向上や、熱中症対策など、メンタル、フィジカル含めた健康寿命に寄与するような加工も展開したいと開発を進めています。化学の力で洋服をどこまで進化させられるか?という挑戦ですね」
カバロスランドリーと並行して、両社で衣類のレンタルサービスも準備しているとハップ鈴木社長。これがまた、すこぶる面白い。
「光る服だったり、温まるスマートウェアだったり、付加価値を付けた服のレンタルサービスを考えています。イメージはレンタカー。たとえば海外から冬の北海道に降り立った温かい地域の観光客の方が、寒い!となるじゃないですか。彼らはニセコにスキーをしに行きたい。そこで、さまざまな機能の付いた防寒用スマートウェアと、クリスマスシーズンのスキー場で目立てる光る服を貸し出す。気に入ったら買い取ってくださってもOKと。そこにワクワクする何かや、日本の技術を感じてもらえれば、きっとビジネスチャンスはあると思うんです」
衣服に特別な付加価値を付けることで正統な対価を得ながら、なおかつ循環させることで環境改善に寄与する──。ハップとファッションクロスフルシマの両社が追求する、ミライ服のビジネスのカタチである。ちなみに、今年2025年中にはサーキュラーファッション事業でレンタルサービスを含むプラ
取材に訪れたのは……
ファッションクロスフルシマ
名だたる商社やアパレルメーカーをクライアントにもつ、検品メーカー大手。歴史は古く、1906年、綿や絹の手染めを行うメーカーとして創業した。現在、中国やASEAN諸国を中心に18箇所の海外拠点を擁する。廃棄をできるだけ減らすべく補修やリメイクに注力するなど、サステナビリティにも積極的に取り組んでいる。 https://furushima.co.jp/


おまけ。本社工場には、検針器では検知しきれない異物も見つけられるAI搭載のX線機器も。けなげに走り回る自動仕分けロボットがまた、ミライを匂わせるのだった。
問い合わせ先/カバロス
https://coveross.jp/
info@hap-h.jp
カバロスランドリー
https://coveross.jp/shop/pages/laundry
Begin Marketでのお申込みはこちらから!
※表示価格は税込みです
写真/田邨隼人 伏見早織 文/秦 大輔