極地アウター手引き座談会[後編]
“高いフィルパワー=絶対暖かい”は盲信!? 極地アウターで重要なのはトータルバランスです
これで世界の果てまで行けちゃう……かも!
旅好きなら一度は憧れる極地への冒険。もし訪れるなら、どんなアウターがいい? 北極から冬の高尾山レベルまでアウター選びの極意をプロが直伝! 極地初心者もぜひこの冬の冒険の参考にしてみて。
▶︎前編はこちらから
教えてくれたのはこの方々
左/鹿野巧真さん 中/荻田泰永さん 右/ビギン風間

自称スタイリスト1雪山に行く男
スタイリスト
鹿野 巧真さん
冬はバックカントリースノーボードに明け暮れる。その腕前からアウトドアブランドの雪山撮影なども担当する。

実は出不精の冒険家
北極冒険家
荻田 泰永さん
数多の北・南極行を経験し、2018年には日本人初の南極点無補給単独徒歩到達に成功。平地では意外にもインドア派。

夢はミステリーハンター(だった)
ビギン
風間
学生時代からバックパッカーとして世界を旅してきたが、極地は初心者。冬はスキーを嗜む程度、寒さの耐性は低め。
高FP=絶対暖かいは盲信! 重要なのはトータルバランス
荻田 寒い場所で体を動かす場合は体温調整が大切だと言いましたが、その点フォックスファイヤーのオーロラジャケットは優秀です
鹿野 ダウンのライナーが取り外しできる3wayだから、気候や体の状況に合わせて温度調整できますね。
荻田 鹿野さんのように車移動の多い厳冬期の旭川(*1)トリップにはちょうどいいんじゃないですか?
鹿野 たしかに。あと3wayというのもお得感があって嬉しいですね。
贅沢な素材・機能で3way、コスパいいですね(鹿野)
フォックスファイヤーのオーロラジャケット
荻田 同じようにギアとしての工夫が見られるアウターが、ノインとハンティング・ワールド。そもそも極地では背中を冷やすのは御法度。なぜなら体全体が冷えてしまうから。ただダウンアウターのステッチ部分はダウン量が少なくコールドスポットが発生しがち。そのため背中を十分に温められない可能性があります。一方ノインの独自構造は、背面のダウンチューブが垂れ下がり、ブラインドのように重なり合うことでコールドスポットを解消。暖かさをキープしてくれます。
背中が暖かいのは大切。ボリュームもばっちり!(荻田)
ノインのP-MG1
風間 ハンティング・ワールドのオルタネイトリー ウェーブ ダウンも斬新じゃないですか?
荻田 アウターとベストを着ると、それぞれのダウンパックの凹凸が埋まるように設計されていて、よく考えられているな〜と思います。
表地が丈夫そうで安心。暖も調節できるとは!(風間)
ハンティング・ワールド クラフテッド バイ デサント.ラボのオルタネイトリー ウェーブ ダウン
風間 じつは私、この年末年始は山に登って初日の出を見たいと思っていて。
荻田 高尾山とかどうです? 真冬は0℃を下回るので、都心からアクセスしやすい入門極地になるかと。
風間 行ってみようかな。でも極地初心者としては、街と兼用できるファッション性のあるアウターが欲しいです。
鹿野 だったらテック系ブランドがよさそう。たとえばミーンズワイルのパディングジャケットはエクワックスのレベル7のような趣でかっこいい。プリマロフトゴールドは手入れもラクだし、袖下から裾まで伸びる長いベンチレーション付きで快適そう。
ベンチレーションやフロントループ、デザインと機能が融合してる(荻田)
ミーンズワイルのパディングジャケット
荻田 ダブルジップで開放するエリアを調整できるのも便利。しいていうなら、北極では3ジップ欲しい(笑)。
鹿野 あと全身テアトラのテアトラ好きとしては、このアウターも気になる。
荻田 使用するダウンは、日本の老舗ダウンメーカー・ザンター社製(*2)ですね。
鹿野 高品質なダウンに加えて、ミニマルデザインがゆえにめちゃ軽い!
めちゃくちゃ軽い!けど、ザンター社の羽毛でぽかぽか(風間)
テアトラのMUTE SCOPE EVA
風間 デサントオルテラインのヴァーテックス2のレトロスポーティなキルトデザインもタイプ♡
荻田 独自の発熱保温素材を背面にプリーツ状に配することで、保温効果をいっそう高めていますね。
雪山滑ったあと、観光用にもいいね(鹿野)
デサントオルテラインのヴァーテックス2
風間 ところで極地アウターを選ぶ際、荻田さんはどのくらいのフィルパワー(FP)を目安にしていますか?
荻田 じつはあまり気にしたことがありません。それが絶対値というわけではなく、適材適所だと思っていて。1000FPでなければ、あるいは数グラムを軽量化しなければ困る環境なのかを見極める方が重要です。
風間 なるほど。
荻田 あとFPが高いと、それだけダウン量が少なく済むということ。裏を返せば、結露するとたちまちダウンがダマになり、空間だらけになる。それって極地では完全に命取りですよね。
鹿野 常にドライだからこそ意味があるんですね。水濡れの可能性があるなら防水性の高い生地、またはダウン自体が撥水処理されたものがいいし、そもそも化繊中綿という選択肢もある。
荻田 その通り。どのような場所に身を置くか、どう過ごしたいかに合わせてトータルバランスでアウターを選ぶのが大切。そうすれば北極や南極でもきっとサバイブできますよ。
厳冬期の北海道・旭川に行くなら
工夫のあるギアライクアウター
Foxfire[フォックスファイヤー]
オーロラジャケット
高品質ダウン235gを纏う独自素材ピステルファイバーは軽さとしなやかさ、通気性を備えつつ羽毛抜けも防ぐ。「旭川トリップでは車内ならゴアテックスシェルのみ、外に出る際はフーデッドダウンとセットで使い分けたい。9つのポケットを備える豊富な収納も、手ぶら派としては高ポイント」(鹿野)。13万2000円(ティムコ)
アクティビティ中はシェルの単体使いも◎
インナーの有無でかなり変わるなぁ
NEUN[ノイン]
P-MG1
縫い目のダウンが薄い部分をなくすため独自のレイヤードチューブ構造を採用。保温性と弾性に優れるマザーグースを封入したダウンチューブを一つずつ垂れ下げて配し、縫い目をカバー。背中に満遍なくダウンがあたる仕組みだ。「コンパクトなサイズゆえ、スーツケースに入れて持ち運びやすい」(荻田)。14万3000円(ノイン)
背中に設置する部分にダウンが隙間なくまとわりつく!
色がいいね。気分上がりそう!
HUNTING WORLD CRAFTED BY DESCENTE.LAB[ハンティング・ワールド クラフテッド バイ デサント.ラボ]
オルタネイトリーウェーブ ダウン
1000FPのダウンを特殊な熱圧着で封入することでダウン量を抑え、高い保温性を保持。またベストとレイヤードすることで、保温力を変えられる仕様もありがたい。「ゆったりしたシルエット、ペーパーライクでソリッドな素材感もかっこいい」(鹿野)。16万5000円、ベスト6万6000円(デサントジャパンお客様相談室)
別売りのベストと合わせるとダウンの凹凸がハマり防寒度UP
裾を絞って着れば今っぽくてタウンユースにも!
今年こそ! 高尾山頂の初日の出を拝むなら
デザイン性もある極地入門
DESCENTE ALLTERRAIN[デサント オルテライン]
ダウンジャケット VERTEX-2 1000FP
「水沢ダウン最上位モデルの機能はもちろん、ミニマルでスポーティなデザインも抜群。短丈ゆえ街でも着やすい」(鹿野)。中綿にはホワイトマザーグースダウンを1000FP使用し、従来より10%の軽量化を実現。光を熱に変換するヒートナビ素材の使用面積も増やし、保温力もUPした。19万8000円(デサントジャパンお客様相談室)
ミニマルシルエットでメリハリがつく!
1000FPだとこんなに軽いのか
TEATORA[テアトラ]
MUTE SCOPE EVA
南極観測隊に採用されるザンター社のダウンを使いつつ、パーツを最小限に抑えたシンプルな設計で、テアトラのダウンジャケット史上最軽量の仕上がりに。「無駄のないミニマルさ、さりげないシールポケットなどテアトラらしさ満載。腰丈で保温性は申し分なく、着心地の軽さはこの中で一番かも」(鹿野)。16万5000円(テアトラ)
ポケットの中に隠しポケット! 無機質に見えて機能面も抜かりなし
ザンター社の羽毛信頼できるなぁ♡
meanswhile[ミーンズワイル]
プリマロフト パディングジャケット
「ベンチレーションは裾から開けられて、リュックのウエストベルトの装着やシルエット調整もしやすい」(風間)。「ジッパー両サイドのギミックは別アイテムとの連結用らしいけど、緊急用フープの名残みたいでツウ感ありますね」(荻田)。中綿には自宅洗い可能なプリマロフトゴールドを使用。8万8000円(ミーンズワイル)
ツウっぽいディテールは別アイテムとの連携で活躍
大きいベンチレーションでたくさん歩く日に便利そう
*1 厳冬期の旭川:1902年に日本の最低気温となる「マイナス41℃」を記録したことから、寒さ日本一の異名を持つ。1月の平均最低気温はマイナス13℃。
*2 ザンダー社:日本で初めて羽毛シュラフを開発。1956年には南極観測隊への羽毛装備を担当、現在もなお極地の観測活動を支援し続けている。
※表示価格は税込み
[ビギン2025年1月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。