Dec-11-2024

極地アウター手引き座談会[前編]

世界の果てでも使える!? 冒険家&服のプロが選んだ代表的な極地アウター3選

極地アウター3選

これで世界の果てまで行けちゃう……かも!
旅好きなら一度は憧れる極地への冒険。もし訪れるなら、どんなアウターがいい? 北極から冬の高尾山レベルまでアウター選びの極意をプロが直伝! 極地初心者もぜひこの冬の冒険の参考にしてみて。

教えてくれたのはこの方々

鹿野巧真さん 荻田泰永さん ビギン風間
左/鹿野巧真さん 中/荻田泰永さん 右/ビギン風間

Profile
鹿野 巧真さん

自称スタイリスト1雪山に行く男
スタイリスト

鹿野 巧真さん

冬はバックカントリースノーボードに明け暮れる。その腕前からアウトドアブランドの雪山撮影なども担当する。

Profile
荻田 泰永さん

実は出不精の冒険家
北極冒険家

荻田 泰永さん

数多の北・南極行を経験し、2018年には日本人初の南極点無補給単独徒歩到達に成功。平地では意外にもインドア派。

Profile
ビギン風間

夢はミステリーハンター(だった)
ビギン

風間

学生時代からバックパッカーとして世界を旅してきたが、極地は初心者。冬はスキーを嗜む程度、寒さの耐性は低め。

北極とて必ずしも寒くない!? 状況に応じた温度調節がカギ

風間 ミステリーハンターに憧れ、今までいろいろ旅してきましたが、極地にはまだ行ったことがなく……。みなさんはどんな場所に行かれますか?

鹿野 僕はスノーボードを20年やっていて、長野や東北、北海道を中心に1シーズン60回ほど雪山に行きます。

荻田 私は北極が主ですが、南極も行きます。もう通い始めてから20年以上、合計20回ほど行ってるかな。

鹿野 スケールが違いますね(笑)。

風間 荻田さんは北極南極ではどんなアウターを着るんですか?

荻田 日本最古のダウンウェアブランド「ポールワーズ」で特注したアウターを使っています。アウターは自分の身を守るシェルター。命に関わるので、細かい部分までこだわっています。

風間 北極はマイナス20℃、南極はマイナス50℃になる日もありますよね。特にどの部分にこだわりましたか?

荻田 私は極地へ行くと1〜2ヶ月で1000〜2000km歩くんですよ。荷物を自力で引っ張りながら。南極点まで無補給単独徒歩を達成したときは、100kgの荷物をソリで引きながら1130km歩きました。

鹿野 それだけ運動量があると行動中は暑そうですね。

荻田 そうなんです。温度は相対的なものなので、マイナス30℃だろうと50℃だろうと動けば暑いし汗もかく。つまり温度調整がとても大事なんです。だから停滞中はダウン、行動中はコットンジャケットと私は2つのアウターを使い分けています。

風間 このダウン、すごく暖かい。布団を羽織っているみたい!

荻田 通常の2倍のダウンを充填しています。保温力もですが、動きを止めると途端に極寒なので、ぱっと着脱しやすいことが大切。そのためアームホールや身幅は広めに作っています

鹿野 行動中はコットンジャケットというのは意外でした。

荻田 若い頃、ゴアテックスのシェルを着て行動していたら、衣服内が結露でバリバリに凍ったことがあるんです。

鹿野 ま、まじですか……。

荻田 マイナス20℃にもなると物理的に透湿しなくなるんです。でもコットンは布地なので、内側の水蒸気を吸い上げてくれるので重宝しています。

風間 コットンジャケットのフード、被るとE.T.みたいですね(笑)。

荻田 フードは顔全体が隠れる筒状であることが重要で、最低限の視界を確保しつつ凍てつく風から顔を守ります。ファーも同じ理由で、顔より前に付いているのが正しい姿。イヌイット(*1)はこの状態でタバコを咥えて、スノーモービルで爆走してましたよ。

風間 へ〜! 勉強になります!

荻田 あと無駄な機能がないことも重要。代えなんて持って行けないので、壊れるリスクは排除したい。ただどうしても壊れる場合もあります。たとえばジッパーは寒さで固まって開かなくなることもしばしば。そこでジッパーの両側には必ずフープを備えています。そうすれば紐を通して前を閉じることができるので。

風間 そんな荻田さんが北極・南極に連れていくとしたら、どのアウターがいいですか?

荻田 カナダグースのエクスペディションパーカかな。実際、イヌイットがカナダグースを着ていたし、オーバーサイズのフィットはすぐに着脱しやすい。肝心のフードも筒状ですしね。着心地はやや重たいのが難ですが、マクマード基地(*2)のアメリカ調査員はそんなこと気にしないでしょう(笑)。

鹿野 M-65を彷彿させるミリタリーライクなデザインも、男心をくすぐられます。

カナダグースのエクスペディションパーカ
カナダグースのエクスペディションパーカ

荻田 あともう一つ、モンベルのポーラーダウン パーカなら南極の昭和基地に行けそうですね。

風間 あのタロとジロが生き残ったことで知られる日本の基地ですね! 実際このアウターは、南極観測隊や極地冒険家の意見を取り入れて企画されたらしいですよ。

荻田 たしかに作業中に動きやすい肘の立体裁断や豊富な大型ポケットなど、極地に適したワークウェアという感じがします。

鹿野 表地のシェルはタフなだけでなく、90年代のクラシックアウトドアな趣もあっていいですね。

モンベルのポーラーダウン パーカ
モンベルのポーラーダウン パーカ

風間 私はいつか北欧でオーロラを見たいのですが、どのアウターを着ていくのがいいでしょう。

荻田 ザ・ノース・フェイスのアンタークティカパーカがよさそう。私には少しフィットが細く感じたけど、防水・防風仕様かつ遠赤外線効果のある光電子ダウンで保温性は抜群なので、オーロラの出現を待っている間も心強いんじゃないですか。

風間 超寒がりの私にはピッタリ!

ザ・ノース・フェイスのアンタークティカパーカ
ザ・ノース・フェイスのアンタークティカパーカ

まずはプロに聞く
命を守るアウター選びのキモ

①アームホールも羽毛もたっぷたぷに

布団だ~

荻田さんの遠征用アウター1
荻田さんの遠征用アウター1

腕周りかなりゆとりあるッス

荻田さんの遠征用アウター1

僕です(荻田)

荻田さんの遠征用アウター1

②フードは筒状&ファーは顔の前まで

ファーは風よけに必須!

荻田さんの遠征用アウター2
荻田さんの遠征用アウター2

③最小限の機能と最大限のリスクヘッジ

2本のフープはジッパーがダメになったときの応急処置用(荻田)

荻田さんの遠征用アウター2

荻田さんの遠征用アウター2

野外作業を支える機能が充実!リアルな作業服のよう(荻田)

mont-bell モンベル ポーラーダウン パーカ

mont-bell[モンベル]
ポーラーダウン パーカ

極地のプロの意見をベースに開発。水鳥から採取した800FPのEXダウンを使用し、極地に必要な保温性と軽さを両立する。「エマージェンシーカラーや前後に配したリフレクターは作業中の事故を防ぐため。袖口もフリースのサムホール仕様と気が利いている」(荻田)。5万7200円(モンベル・カスタマー・サービス)

mont-bell モンベル ポーラーダウン パーカ
背面や細部には薄暗い極地でも認識できるリフレクターも完備

mont-bell モンベル ポーラーダウン パーカ
調査隊員がペンとノートをすぐ出せる細かなポケットテクニック

映画さながらの北南極に挑戦するなら
プロも納得のサバイバルアウター

北極でも現地の人達が着てるのを見ました(荻田)

CANADA GOOSE カナダグース エクスペディションパーカ

CANADA GOOSE[カナダグース]
エクスペディションパーカ

マイナス30℃を下回る極寒地の試験をクリア、南極のマクマード基地で採用されている一着。「ゆったりしたフィットで着脱しやすい。筒状のフードはワイヤーが内蔵され、顔に合わせて自在に調整できる。さらにフリースのチンガードやリブニット袖、スノースカートなど極地でも快適な機能が充実」(荻田)。26万4000円(カナダグースジャパン)

CANADA GOOSE カナダグース エクスペディションパーカ
「フードもばっちり筒ですねー!」

CANADA GOOSE カナダグース エクスペディションパーカ
調査隊員がペンとノートをすぐ出せる細かなポケットテクニック

憧れのオーロラ鑑賞なら
“耐える”に耐えうる重量系アウター

THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス アンタークティカパーカ

THE NORTH FACE[ザ・ノース・フェイス]
アンタークティカパーカ

「光電子ダウンが首回りのダウンチューブにも入っていて暖かい。オーロラ観測はもちろん、待機時間の長いロケ現場でも重宝しそう」(鹿野)。2層のゴアテックスプロダクトによる防水透湿性、200デニールのリサイクルナイロンによる耐久性も抜群だ。9万1300円(ゴールドウイン カスタマーサービスセンター)

真冬のロケ撮影でも活躍しそう(笑)(鹿野)

THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス アンタークティカパーカ

[平地でも使える豆知識]
 
*1 イヌイット:カナダやグリーンランドの北極圏に住む先住民族。保温性を高めるために彼らが作ったアノラックは今日のパーカのルーツでもある。
 
*2 マクマード基地:1956年に米国が設立した南極最大の観測地。夏季は1,200名を収容し、基地周辺には住居やオフィス、クラブなど約100の建物が並ぶ。

 
※表示価格は税込み


[ビギン2025年1月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。

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