モノ好きならば欲しすぎる“進化系トラッド靴”は日本にこそある
モダトラ -Modern TRAD-
0から1を生み出すより、1を100にするアレンジ力に優れると言われる、日本のモノ作り。トラッドに見えてモダンな感性が落とし込まれた靴は、ある意味その結晶。定番から脱却できない保守派の次なる一手としてもぜひ。
新しい感性と伝統技術が揃う日本特有の進化
常識破りの二刀流でアメリカ生まれの野球を進化させ続けるオオタニさん(大谷翔平選手)。多岐に亘るメイドインジャパンにあって、実はこれとまったく同じ構図に当てはめられるのが紳士靴。既成概念を取っ払ったデザインワークと、それを形にする職人技の二刀流で、欧米生まれのトラッド靴を進化させる日の丸ブランドが、昨今世の靴好きに衝撃を与えているんです。
なかでもこの二者はその筆頭。
まずカルマンソロジーは、微細すぎる意匠の積み重ねで、トラッドの枠内に留めながら、新しさと美しさを落とし込む術に長けた、日本靴界の新旗手。詳細は上に譲りますが、こうしたモダンなのに普段のベーシックにも合わせやすい靴を作るのは至難の業。経験豊富なデザイナー・金子 真氏が持つ、靴作りに対する深い知見と、トラッドの守りどころと変えどころを嗅ぎ分けるセンス、それを共有できる工場との三位一体があって、初めて形にできるものなんです。
-CALMANTHOLOGY-
「微で美を操る」カルマンソロジー
ミニマルな黒スト
BALMORAL CAP TOE
最小限のカットワークで構成しつつ、ナローラストやシングルレザーソールを採用することでミニマルを徹底。合わせて通常はシューステイのラインに合わせて裾広がりなっている内羽根を、あえて真っ直ぐにするなど、美を求めて微を重ねる姿勢が随所に。履き口は柔らかく足を包むように“袋縫い”に、紐の通る羽根内は硬さを出すため“折り込み”にと、フィット感を上げるため部位ごとに異なる縫製にするこだわりも敬礼もの。13万7500円(カルマンソロジー)
極浅ローファー
SABRINA LOAFER
50年代に公開された名画『麗しのサブリナ』で、かのオードリー・ヘップバーンが履いていたパンプスに着想を得たのが名の由来。女性のパンプスのように浅くしても違和感なく履けるよう、サドル部分に強いアールをかけつつ、中に高反発スポンジを挟むことで、男性の足にも馴染む立体感を演出している。仏の名タンナー、デュプイ社のサドルカーフは硬さと柔らかさのバランスに優れ、美しい履きジワが現れる最高級レザー。11万5500円(カルマンソロジー)
【カルマンソロジー】とは?
国内ブランドで長年デザイナーを務めた金子 真氏が18年に創設。伝統と進化というコンセプトのもと、国内の腕利き工場と連携を取り、モダトラ靴の模範的製品を多数輩出。左はともにドレス靴作りに長けるオカモト株式会社の生産背景を存分に生かした力作。
一方異なるアプローチでトラッドをモダナイズするのがオリエンタル。ここは古式ゆかしいグッドイヤーウェルト製法を駆使する自社工場で仕立てたトラッド靴に、色使いの妙で令和の息吹を吹き込むのが真骨頂。あくまで紳士靴の定番型をベースに据えているからこそ、色を変えてもモダンなのに奇抜には見えない、最大公約数的な顔に仕立てられてるってわけ。
モダンとトラッドを分離させずに撹拌した、日本が誇る紳士靴の進化系。ゾクッとするでしょ?
-ORIENTAL-
「配色の魔術師」オリエンタル
パンダUチップ
ARAN II(ARAN 2)
57年公開の名画『パリの恋人』で、フレッド・アステアが着用したアイコニックなパンダカラーのUチップをオマージュ。ただ今作はドレッシーに履きこなしたこの名優とは反対に、カジュアルにもハマるようモダナイズ。コマンドソールを採用しつつ、インソールとの間にもう一層ソールをレイヤーすることで、太パンにも馴染むボリューミーなシルエットに。ワールド フットウェア ギャラリーの別注色。6万2700円(ワールド フットウェア ギャラリー 銀座店)
底だけブラウン
807 DERBY MOCCASIN
通勤時はスーツにネクタイってのがデフォルトじゃなくなった今、真の週7靴を目指して作られた外羽根モカ。上っ面だけ見ればごくトラッドですが、ライトブラウンのシングルレザーソールをドッキングすることで、グッと軽快な雰囲気に。ソフトなボックスカーフをアッパーに使いつつ、返りをつきやすくするため柔軟性に富む底材をセレクトするなど、全方位に趣向を凝らして優し〜い着用感を実現。6万6000円(ワールド フットウェア ギャラリー 銀座店)
【オリエンタル】とは?
1947年創業の老舗メーカー、オリエンタルシューズが、2016年に自社の名を冠して立ち上げたオリジナルブランド。奈良県大和郡山市の自社工場では、グッドイヤーウェルトやステッチダウン等、多様な製法を駆使して、今の装いに落とし込みやすいトラッド靴を製作。
※表示価格は税込み
[ビギン2024年5月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。