Dec-14-2023

『N&N STORE』を作った西野大士さんと辿る、淡路の旅路


大学生のころ、大阪に大好きな古着店があった。初めて訪れたとき、強面の店主に1ミリも相手にされずZ-FLEXのスケートボードだけを急いで買って店を出た。それから根気強く通い続け、洋服のこと、西海岸のこと、音楽のことを教えてもらい、一日中入り浸るように……。
お目当ての服を寝る前にポチッと買える日常は最高だが、お店で服を買うという〝回り道〞は、一生消費されない。
スウェットに書かれた〝I BELIEVE IN SANTA〞の文字通り、ピュアな心で服と向き合う西野さんのお店なら、あのころの原体験が取り戻せるのでは?という淡い期待を抱きつつ、淡路島の東海岸に誕生した『N&N STORE』へ向かった。ちなみに、オーナーの西野さんも店長の森田さんも、めちゃくちゃ優しいのでご安心を(笑)。


西野大士さん/1983年生まれ、淡路島出身。小学校教師を経てブルックスブラザーズに転職し、その後独立。2015年にパンツブランド『NEAT』を立ち上げ、2017年にはPR業務などを請け負う『にしのや』を設立。そして今年、地元の淡路島に『N&N STORE』をオープンさせた。西野さんもイベント時など、月イチで店頭に立つ。中学1 年のエアマックス95全盛期から今日に至るまで、アメリカや古着文化を探求し続け、日本のみならず世界に影響を与える服飾業界の最重要人物! 森田幸生さん/1996年生まれ、京都府出身。モリンダの愛称で親しまれる、関西のファッショニスタ。前職である京都の名店『ロフトマンB.D.』で働いていた際、『NEAT』のイベントを担当したことを契機に西野さんと出会い、『にしのや』へ。中・高校生時代を喜界島で過ごした島経験や、地域密着のお店をやりたいという想いが重なり、『N&N STORE』の店長に抜擢。高校生のとき、8 種競技でインターハイにも出場した実力を持つ『にしのや』の武井壮としても、以後お見知りおきを。

幼少期にテレビCMで聞いた“ホテルニューア~ワ~ジ~♪”は今でも脳裏に焼き、関西出身なら訪れたことのある人も多いであろう淡路島。近年観光地として再開発され、賑わいをみせる西海岸を横目に、向かった先はクラシックな趣が残る東海岸。今回の旅の目的地は、『NEAT』のデザイナーであり、数々のブランドPRを担う西野大士さんがオープンさせたショップ『N&N STORE』だ。まずは西野さんに、経緯やコンセプトをお聞きした。

左上/『DRESS』で人気定番のタートルネックカットソー(9900円~)。右上/『N&N STORE』オリジナルの激カワ♡キッズキャップ(6600円)とビーチタオル(大/4950円、中/2750円、小/1650円)。下/〝I BELIVE IN SANTA〞がタイムリー&キャッチーな『N&N STORE』オリジナルのスウェット( 2 万2000円)。「古着のTシャツをサンプリングしつつ、オリジナルのスウェット生地で作りました。めちゃくちゃお気に入りです!」(西野さん)

「この通りは元々商店街で、昔おばあちゃんがここでお茶碗や傘やスコップ、正月には門松を売るといった荒物店を営んでいたんです。いつか僕もこの場所で洋服店をやりたいっていうのは、10年前くらいから思ってましたね。タイミングと縁が重なり、2023年の7月23日にやっとオープンできました。お店のイメージは、砂漠のなかにポツンと佇む『プラダ・マーファ』なんですが、淡路島出身の設計士と相談して、コンクリの白壁はカッコイイけど異空間すぎるから、もう少しこの土地に馴染むようにと、焼杉板にしました。後、リクエストしたのは、天高! 海外のお店がカッコイイのってそこやと思うんです」

上/西野さん一推しの古着。「コロンビアのちょい古のダウン( 1 万6500円)なんですが、 状態もキレイでダウンもパンパン! リバーシブルの配色もイイですよね」。下/豊富に 取り揃えられたウールリッチの古着や、西野さんが一番好きなパタゴニアの古着もたくさん。「フード付きのR 1 とか、結構珍しいものも用意していますよ」。

西野さん全開の製品ラインナップも最高だ。「嘘偽りのないありのままの好きを表現し、そこには絶対的な自信と覚悟をもって答えを出し続けていきます。古着のセレクトに関しては、淡路島の雰囲気に馴染むようアウトドアブランドやスポーツブランドを多めに。かっちりし過ぎた格好はここでは逆にダサいんちゃうかなって(笑)。また、一応セレクトショップなんですけど、『ヘリル』や『ヨーク』など本当にいいと思うブランド以外は、今後も増やす予定はありません」。もちろん、西野さんが手掛けるブランド『DRESS』や『NEAT』、ここでしか買えないオリジナルのキッズキャップやビーチタオルも店頭に並ぶ。

天高のスペースに並ぶヴィンテージのコートと『ヘリル』のゴールデンキャッシュ リバーシブルコート(一番右/55万円)。

「中学生のときはまだ明石海峡大橋もなく、船で神戸まで買い物に行ってたんです。店員さんに“どこから来たの?”ってよく聞かれたんですが、それが当時コンプレックスで。だから、淡路島にスーパーカッコイイお店があったら、対等もしくはそれ以上になるだろうし、そうなりたい。ファッションの文化が根付いていない淡路島に、居場所を作りたかったんです。オンラインショップもやる予定はないので、お客様とは直接この場所でゆっくりお話をしながら、太くて長い関係を築いていきたいですね。そして、いつかここが淡路旅の目的地になればと願っています」。
『N&N STORE』に入り浸るようになった青年がいつか島を出たとき。“あの店に通ってたんですね!”なんて驚かれる逆転現象が起こる日も、そう遠くない気がした。

西野さん/「シャカパンなどで抜け感を醸しつつ『ヘリル』のゴールデンキャッシュを使っ たコートや足元を『ジョンロブ』で締める、みたいな着こなしが丁度イイかなと。このコート、マジでほしい!」(西野さん)。ヘリルのコート55万円。ザ・ノース・フェイスの古着ブルゾン1 万4300円。ドレスのタートルネックカットソー1万2100円。アディダスの古着パンツ7700円。ピセアの別注グローブ2 万900円。森田さん/「淡路島で冬を過ごすなら、アウターはレザージャケットで中綿ベストとニットをレイヤードするくらいが個人的にBESTです」(森田さん)。ヨークのジャケット8 万3600円。ウールリッチの古着ベスト1万3200円。バーバリーの古着ニット2 万2000円。ニートのパンツ4 万1800円。ピセアの別注グローブ2 万900円。



『N&N STORE』のハイライトは、『NEAT』の世界観をフルMAXで体感できるところだろう。改めて説明するまでもない!?かもしれないが、『NEAT』を100字で説明するとこんな感じ。〈西野さんが2015年に立ち上げたパンツブランド。トップスやシューズがカジュアルでも、パンツが“きちんと”していれば全体が引き締まるという意味を込めて『NEAT』に。今や日本のパンツブランドの代名詞だ。〉

8年経った今も根強いファンがいる理由は、現状に甘んじないストイックなモノ作りにある。「毎シーズン、20素材のうち定番は3つくらいなので、それ以外はすべて変えています。もう、はい……必死に生地を探し回っています(苦笑)。また、『NEAT』の大半のパンツを縫製してくれている国内のドレスパンツ工場の存在もめちゃくちゃ大きい。表からは見えない裏地の縫製まで完璧で、糸と針とミシンを持ち合わせていないにもかかわらず、針を折りながらデニムを縫ってくれるような心意気も大好き。良い信頼関係を築けているからこそ、今があると思っています」(西野さん)。渾身のコレクションのほか、ここには『NEAT』のアーカイブも置かれており、価格も当時のままに設定されているので掘り出し物を見つける楽しみもあり!

そして、忘れてはいけないのがオンリーワンの『NEAT』をオーダーできるサロン『NEAT HOUSE』だ。店内で一際存在感を放つ英国製のワークベンチが設けられたスペースで、国内外問わずヴィンテージも含めて100種類以上の生地から選べるだけでなく、シルエットや細かな仕様まで自分好みに対応してくれる(詳細は後ほど!)。
さらに、パンツだけではなくセットアップで着用できるジャケットもオーダーできるようになり、『NEAT』は新たなフェーズへ向かっているそう。「若いお客様が、友達の結婚式や成人式のタイミングにセットアップで仕立てに来てくれるようになりました。その後はプライベートでも着用できるので、使い勝手がいいって。仕事で着用していただけるお客様も増えてきていますし、『NEAT』も“ファッション”から“TPO”へ移行していけたらと思っています」(西野さん)

時代とともに移ろうトレンドに流されず、きっと10年経っても『NEAT』はきちんと『NEAT』のままで在り続けるだろう。






オープンして約5か月が過ぎた感触を、森田さんに伺ってみた。「有難いことに、想像していた以上の賑わいがあります。お客様の構成比は、男性と女性が7対3くらいで『NEAT』を知らなかった女性の方のご購入も増えています。また、お店の裏の海や近くの商業施設でお子様も遊べるので、ファミリーやペットを連れて来店される方も多い印象ですね」。
一方、西野さんも確かな手応えを感じている様子。「リピート率が増えて来ているのがいいなって。正直1回目は、行ってみよかってなると思うんです。ただ、2回目以降は遠い分、確固たる目的がないと行かない。だから、どんな格好したらええんかなって思ったときに、ここが頭に浮かぶようになってくれつつあるのが嬉しいですね」。

今後は淡路島に根付いたイベントも開催したいと西野さんは語る。「淡路島ってバス釣りのメッカで、野池が2万個もあるんです! 森田も釣りをやってるので、お客さまと一緒にバス釣りのイベント『N&N STORE杯』とかやりたいですね! ディズニーランドに行ったら、みんなミッキーの耳をつけるみたいに『バス プロ ショップス』の古着とか着てね(笑)。ただ服を売るだけでなく、体験を共有できるお店作りを目指していきます」。
東海岸の新たなランドマークをベースに、淡路の味わいはより一層深みを増していく。

神戸からだと明石海峡大橋を渡って車で約50分、徳島からは鳴門海峡大橋を渡って車で約1 時間。お店から徒歩30秒で海に辿り着くのもここならでは! 駐車場も完備しているので、ご安心ください~。※駐車場は、お店の並びではなく道を挟んで向かい側にあるのでお間違いのなきよう。
住:兵庫県淡路市佐野1555-8
Tel:090-3357-2408
営:11:00-18:00(平日)、11:00~19:00(土日祝)
不定休
インスタグラム:@nandn_store_


『N&N STORE』の近くには、西野さんの同級生が営む激ウマ店が! 淡~い思い出話に華を咲かせつつ、濃イイ~グルメを堪能。淡路旅のリストにマストです!!!

『N&N STORE』と同じ通りにあり、徒歩4 分で辿り着く『味心 晶』。西野さんとは幼稚園~中学校の同級生である仲野晶太さんが営むお店だ。「元々はおじいちゃんが中華食堂を、その後は叔母が喫茶店を営んでいました。有馬温泉の料亭などで修業を積んだ後、12年前にオープンしました。おじいちゃんの代からだともう45年くらいになりますね」(仲野さん)。圧巻なのは、ランチメニューの豊富さで、上写真のにぎり寿司膳や淡路牛ステーキ膳だけでなく中華から洋食まで用意! 「遠方から来てくださるお客様や地元の常連さん、年配の方から子供まで楽しめるよう心がけています。正直大変ですが(苦笑)、メニューを減らしたらうちじゃなくなるので」(仲野さん)。子供のころの西野さんの印象を聞くと「リーダー的な存在で、バスケでも野球でもとにかく運動神経抜群でしたね。まさか地元にお店を出すと思ってなかったんで、僕ももっと頑張らあかんなって、いい刺激をもらってます」。一通り昔話で盛り上がった後、年末の同窓会の打ち合わせが始まったのでした。


メニューバリエーションがめちゃくちゃ豊富ゆえ、みんなでいろんな料理を注文してシェアするのがオススメ。もともと郵便局があった名残りから、お店の前にある赤い郵便ポストを目印にしてみて。
住兵庫県淡路市佐野1951
Tel:0799-65-0740
営:11:30~14:30(昼の部)、17:30~22:00(夜の部)
休:月曜の夜の部、水曜
インスタグラム:@ajigokoro.sho

西野さんとは中学校~高校の同級生である多田健造さんが営むアイスキャンディーショップ『アイスアップ』へは、『N&N STORE』から車で約7 分。「淡路島の街づくりや地方創生に貢献できたらと思い、3 年前に島に戻ってきました。淡路島牛乳や地元の食材、体に優しいきび砂糖を使っているのが特徴です。小さいころ、友達と100円を握り締めて駄菓子店でアイスを買ってたような、そんな場所になりたいですね」(多田さん)。お店の裏
で一から作られる愛情たっぷりのアイスキャンディーは、素材の味が口にジワ~っと広がり後味スッキリ。マジで何本でもイケちゃう~! 多田さんにも西野さんの学生時代の印象を聞くと「バスケを一緒にやってたんですけど、淡路No.1シューターでしたね!」とここでも運動神経抜群話が。「淡路島でNo.1とか、何の自慢にもならんからやめて(笑)」と恥ずかしがった矢先「高3 の二学期、ケガで一度も体育の授業に参加できなかったのに通知
表が10やった!」と自慢しだす西野さん(笑)。すでに二人同窓会が始まっていたのでした。


淡路島牛乳ときび砂糖を3 時間混ぜ続けながら炊いたミルクジャムに、さらにもう一度淡路島牛乳を混ぜ合わせて作られるフレッシュでまろやかなアイスキャンディー。通販でも購入可なので、ぜひ!
住:兵庫県淡路市志筑3423
(店舗前に駐車場あり)
営:10:00or13:00~17:00(詳細はインスタをチェック)
休:火・水・木曜+不定休(詳細はインスタをチェック)
インスタグラム:@iceup.awajishima



西野さんは両親が教師ということもあり、ファッション業界に身を置く前、自身も小学校教師だった経験が。子の活躍の影にオカンありってことで、旅の終わりに西野さんの実家を直撃(笑)。ルミちゃんこと西野さんのオカンと当時のことを語っていただきました。

西野さんのオカン・ルミちゃん/おばあちゃんと呼ばれたくない!と、孫からもルミちゃん の愛称で親しまれている西野さんのオカン。『N&N STORE』へスタッフさんの昼飯を届けるのが日課で、誰よりも早く新製品をチェックしているという、『N&N STORE』一番のファンでもある。

西野さん:ファッションの専門学校に行きたい!てゆうた高3のとき、泣きながら大反対したこと覚えてる?(笑)。俺にとっては人生の分岐点やってんけど。
ルミちゃん:えっ、泣いてた?(笑)。反対やなくてまず4年制大学に行ってほしいって言ったんちゃうかな~。島暮らしやと公務員が安心やし、考える時間も必要やと思って。
西野さん:うろ覚えやん(苦笑)。でも、大学行って教師になったからこそ、やっぱりファッション業界に進みたいって腹括れたんかもな~。オトンが“自分の夢を探せ”的な熱
血教師やって、自分も生徒にそう言いながら“いやいや、俺、夢追ってへんやん”って。
ルミちゃん:教師になって2年目には、教師と専門学校生のダブルワーク始めてたやんな。
西野さん:日中は教師で、終わったらジャージからお洒落な服に着替えて大阪行って、夜は生徒(笑)。帰宅したら1時過ぎてたもんな。
ルミちゃん:バス間に合わんとき、明石からタコフェリーで帰ってきてたしな(笑)。
西野さん:その甲斐もあって、ブルックスブラザーズに契約社員で転職してな。でもそのときも、3年の間に上京して正社員としてプレスになられへんかったら、もう一回教員試験受けるっていう条件やったのは覚えてる?

ルミちゃん:それは、覚えてる(笑)。そういえば、梅田のお店によう買いに行ったなぁ。持ってるスーツ、ほぼブルックスやで(笑)。
西野さん:家族総出で来てくれたこともあった! みんなの支えもあって、2年でプレスとして東京行けることになってんな。
ルミちゃん:もうそのときには、心配やったけど応援しようと思ってたんちゃうかな。
西野さん:高校卒業してそのままファッションの専門学校に行ってたら、今の自分はなかったって思うわ。一回諦めたけど、そこからもう一回やりたいって思えた“パワーとハングリー精神”はめちゃくちゃ強かったから。
ルミちゃん:そういや、小学生のときからファッションの才覚あったもんなぁ。『淡路スポーツ』で白い靴買うとき、安いのんとブランドもんやったら絶対エエ方選んでた(笑)。
西野さん:小6のときに着てたアディダスのダウン見た保健室の先生に“それどこで買ったん?”て聞かれたこともあったし(笑)。
ルミちゃん:まぁ、好きなことを貫いて生きていくのは簡単なことやないけど、今ではおばあちゃんのところにお店も出せて、良かったって思ってるよ……ほんまに、ほんまに。

 

取材のはじめ「ここにお店を作ろうって思ったころは、宝くじ当たったら何買おう(笑)くらい雲の上の目標やったんです」と、呟いた西野さん。地元や家族に支えられながら、
地に足をつけて、しっかりと夢を叶えた。
「今後は『N&N STORE』だけでなく、この通り沿いにゲストハウスや飲食店なども作れたら」と語る西野さんが見つめる先には、かつて賑わいをみせた商店街を歩く、小学生の西野さんが映し出されているように感じた。

 


写真/松島星太 文・編集/増井友則

Begin Recommend

facebook facebook WEAR_ロゴ