Nov-28-2023

好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]VOL.30

上質さよりも上品さを。実用性より耽美性を感じさせる形

まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。

シンプルだけど、どこの誰のものとも違う

昔からガラスが好きで、子供の頃は瓶を集めたりしていました。僕がクロード・モランの作品に出会ったのは、数年前にふと"そう言えば、フランスってあんまりガラス製品のイメージがないな"と思い調べたときのこと。

60〜70年代のフランスには、個人でアトリエを構えて活動している作家がほぼ存在しなかったらしいんですが、モランはその点においてパイオニア的な人で、70年代に自分の工房をつくって手吹きのガラス作品を制作してきたそう。

ガラスの中に気泡や残留物が残っているのを巻き取って吹いていくから、表情もひとつひとつ違うし、厚さも均一じゃなくて底に向かってグラデーションみたいに色が濃くなっていたりするのが特徴で、もちろん型吹きみたいにまったく同じ形にもなりません。

装飾もほとんどないし、言ってしまえばすごくシンプルなんだけど、それでもひと目見てこの人の作品だな、とわかるのがモランのすごいとこ。線が柔らかくて、でも意外と分厚くて力強くもある。有機的でモダンなんだけど、バタ臭くて懐かしいような感じもします。

多分、この人の作品は偽物をつくるのがすごく難しいんじゃないかな、と思います。もし仮に似たものがあったとしても、きっとやっぱり違うんですよね。どこの誰とも違う。ミニマルな中にも個性が表れているのはさすがアーティストだな、と。

最近は特定の人の作品を追うことはめっきり減ったけど、この人のものだけはいまだに探してしまいます。(南 貴之)

「ひかり射し まだらな影が 描くいろ」

BRAND:CLAUDE MORIN
ITEM:VASE
AGE:1970s

まるで飴細工のように細長くのびる首と低重心の設計はモランのガラス作品の顕著な傾向のひとつ。花を挿すのに都合がよいとは言い難いが、花を挿さずとも見映えが完成する美しさがある。底には砂打ちでシグネチャーが。

DETAIL

すべてが均一な量産品との違いがもっとも際立っているのがこの口の形状。厚みも高さも揃っていない、歪みだらけのこの表情が手吹きガラスならではの味わいと言える。

Profile
南 貴之

好事家

南 貴之

1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中を巡り、良品を探している。

※表示価格は税込み


[ビギン2022年9月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘

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