宮崎県・ワゴンで発見! ‟ショーツが好きすぎるお店″の秋ショーツ&カーディガン【ナニコレ珍名品#5】
ビギンが日本全国津々浦々を行脚し、地方ショップの「オリジナル商品」を掘り起こす本企画。僭越ながら今年で創刊36年目を迎えるビギン、もはやどこにでも置いてありそうなセレクトアイテムに興味はございません。各ショップがウンウン悩んで考えた末に生まれる「ナニコレ⁉」なオリジナル商品にこそ、唯一無二の魅力が、ひいてはそのお店の「スピリット」が宿っているのです!
第5回は宮崎県にお店を構えるワゴン。サーフィンが盛んな宮崎で、アウトドアブランドがメインのセレクトで人気のお店。なんと品ぞろえの半分以上(⁉)がショートパンツなんです! そんな「ショーツが好きすぎるお店」に、果たして店内にどんな珍名品が待っているのか⁉ そしてそんな珍名品から紐解く、お店の「スピリット」とは? 直撃取材で聞いてきました!
今回お邪魔したのはココ!
全国屈指のサーフポイントとして知られている宮崎。なかでも、太平洋沿いの南東部に位置する青島エリアには、ここにしかない波を求めて、世界からサーファーが集まってきます。プロ野球やラグビーチームの合宿地としても有名で、海だけではなく、ゴルフやキャンプを楽しめるスポットも充実しています。
今回訪れた「WAGON(ワゴン)」は、宮崎駅から700mほど西に向かった先にある若草通り商店街の一角に構えるセレクトショップ。商店街は宮崎のお洒落スポットとして知られる場所で、半径1キロもない距離にアメカジ系の古着屋からドメスティック系のセレクトショップまで、アパレル店が軒を連ねます。
ファッション激戦区でワゴンが個性を光らせるのは、アウトドア系アイテムの取り揃え。「ザ ノース フェイス パープルレーベル」、「パタゴニア」など王道のブランドに加え、自社ブランド「Short pants every day (ショートパンツエブリデイ)」の羽織りやショーツを展開します。地元のアーティストとコラボレーションしたり郷土玩具を販売したり、“宮崎”を身近に感じる商品構成も特徴です。
白いシャツがお似合いの代表、錦田さん(左)。山登りやサーフィンを趣味にするアクティブ派で、ショップの立ち上げを機に地元のファッション業界を常にリードしてきた存在。現在は新設した自社工場のインフラを整えるために奔走中。そんなワゴンの新境地をサポートするのが店長の堀之内さん(右)。東京出張の際、銀座のショッピングビルにもTシャツ×短パンスタイルで直行するほど、短パンがライフスタイルに溶け込んでおり、プライベートでは地元の仲間たちとゴルフやサーフィンに夢中。 今のワゴンを知るには、まずは工場から。と、2人からのススメで、まずは青島へ直行!
まずは青島の工場に潜入!
ワゴンが開業した1993年当時は、質実剛健なアメリカンブランドで知られる「スクーカム」のスタジャンを販売するようなゴリゴリのアメカジショップでした。ビギン世代ならなじみのある(!?)いわゆる“渋カジ系”を代表するような店で、「ビッグマック」や「ムーンストーン」などアウトドアブランドのウェアをコーディネートに取り入れるスタイルを提案していました。
2010年頃になると、オリジナルブランドの企画にも着手するように。ショップ名を冠した「ワゴン」や短パンをメインとする「ショートパンツエブリデイ」を立ち上げました。すると、“伝え手”だけでなく“作り手”にも興味が及び、今年の6月に新境地を開拓! 読売ジャイアンツやラグビーチームが合宿に利用する「ANAホリデイ・イン リゾート 宮崎」の1階の空きスペースを縫製工場に改装し、そこでオリジナル製品を生産します。向かいにはサーフショップがあり、ガラス張りの工場内は広々とした開放的な空間。宮崎随一の青島海水浴場を望む好立地に取材班一同テンション爆上がり!
ショートパンツの生産に力を入れ出したのは、オリジナル製品を作り始めて数年後のこと。初めは万人受けを狙ったチノパンなどを作っていましたが、それだと“らしさ”を表現できず売れ行きは鳴かず飛ばず。その解決策として、錦田さんが目をつけたのが自分の大好きな短パンでした。2014年にオリジナルブランド「ショートパンツエブリデイ」をスタートし、2023年6月には縫製工場まで開設!
「短パンがとにかく好きなんです。4月から10月までずっと短パン。夏は絶対にジーンズを履けない(笑)。丈は膝上がベストですね。心が開放されて自由を実感できるんです」とショートパンツへの思いを熱く語る錦田さん。数ある手持ちの中から思い入れの強い二本を紹介してくれました。
まず、クライミングパンツ界の雄「グラミチ」のG-ショーツ。’80年代のアイコン“ダンシングマン”が刺しゅうされたお宝品。もう一本は、90年代のアウトドアスタイルを語る上では欠かせない「ラストチャンス」のクライミングショーツ。有刺鉄線のロゴが印象的なアメリカ生まれのブランドで、整いすぎていないラフな縫製もメイド・イン・USAならでは。ちなみに、2本とも「ショートパンツエブリデイ」のショートパンツのデザインの参考にしたもの。実際に自分が愛用して良かったものにアレンジを加えてオリジナリティを追求しているから、使い勝手、穿き心地、デザイン性の3点を網羅する一本が出来上がるというワケなんですね。
錦田さんによると、現在、全国的に縫製工場の数は減少傾向なんだとか。必然的に稼働中の工場にシワ寄せがきており、発注数によっては思い通りの時期に納品されないことも。ワゴンの取引先についても例外ではなく、そうした問題に対しての解決策としても、自社工場の開設は急務でした。加えて、工場生産がうまく軌道に乗れば、地元の産業の一つになるかもしれない。工場を構える場所を探していた錦田さんは、リゾートホテルの空きスペースを知人から紹介されると、すぐに行動に移しました。
「海や山の近くがいいなって思っていたんです。ホテルの売店だった場所を工場にしたので広さは十分だし、もちろんロケーションもいい。アウトドアアクティビティを楽しめる環境が整っているため、水陸両用のショートパンツなど新製品ができるとフィールドテストと称して、外へ飛び出しています。何を隠そう、今朝もサーフィンをしてきたばっかり。工場のエントランスには濡れたままでメンバーがウロウロしていることも。品質をチェックするにも趣味を楽しむのにも、とても便利な場所です(笑)」
一方店長の堀之内さんは、学生の頃からワゴンに通い詰めていた元常連。かつてはスクーカムのスタジャンにリーバイスのヴィンテージデニムを合わせるようなアメカジ大好き少年でしたが、自然と共存する“錦田スタイル”に影響され、今やサーフィンとゴルフに勤しむ毎日。ワゴンの取り揃えも、アメカジ系→アウトドア系に移行して、洋服だけでなくライフスタイルも提案するショップに進化しています。
「オープンしてから30年以上経ちますが、地元のテレビ局に衣装協力したり、新聞に取り上げられたりしていて、新規のお客さんもいまだに多くいらしてます。ありがたいことに、最近だと全国各地の海好きの方からもお問合せをいただきますよ」
名品FILEその1
ショートパンツエブリデイのリラックスショーツⅡ(コーデュロイ)
ショートパンツエブリデイの服づくりは、フィールドからインスピレーションを受けるところから始まります。山でも海でも快適に着られるように、“楽チン”にこだわったディテールが特徴。ラインナップはジャケットからキャップまでさまざまですが、そのブランド名の通り定番で人気なのはショートパンツ!
季節は秋……と思われそうですが、その店の看板とも言える珍名品を紹介する本連載、一番最初に取り上げない訳にはいきません。年がら年中ショートパンツを穿いている某有名人然り、リアルな話、10月になってもワゴンチームはショートパンツスタイルなんだとか。古びないタイムレスなデザインですし、来年を見越してチェックしておいて損はないですゾ♪
「アメカジに目覚めた10代の頃は、毎日違う服を着て自分を着飾っていました。ですが、今はいい意味で力を抜いてお洒落を楽しめています。カッコいいと思うだけじゃなくて、自分のライフスタイルに合うかどうかが大切。条件を増やしていったら、手持ちの服がどんどん少なくなっていきました。洗練させると、今度はこんなものがあったらいいのにって欲が出てきて、そのアイデアをブランドの企画に落とし込んでいます。例えば、今の時期に穿けるモデルは、こちらのコーデュロイ素材のものですね」
コーデュロイはカントリーな太畝タイプではなく、しなやかな細畝タイプを採用。カリフォルニアのサーファーズスタイルにも見られる生地で、程よい光沢があって表情はどこか上品な雰囲気。サラッとライトな穿き心地で、春から秋にかけてロングシーズン活躍します。
店内には、リラックスショーツの型紙が壁に掛けられています。もちろん、パターンもオリジナルで、このモデルはやや裾幅にゆとりを持たせたシルエット。裾の長さは、一般的なものに比べてやや長め。それでも、錦田さんこだわりの膝上丈はキープ。股下から裾にかけて緩やかにテーパードさせていることも手伝って、スッキリと穿きこなせます。
また、ウエストにはゴム入りで楽ちん。外側に仕込まれたドローコードを結べば、ベルトなしで自分にぴったりのフィット感に。さらに、リラックスショーツにはコインポケットとキーループがついており、まさに外遊びにうってつけ!
コーデュロイ以外にも、生地のバリエーションは豊富にあります。上の写真の右下は、ジャーナルスタンダードとコラボした久留米絣のパネルデザイン。中央の総柄は、ワゴンがオリジナルで本番インドネシアの日本人染色家に発注したバティック染め。ベーシックな色からインパクト大のショッキングピンクまでカラーもよりどりみどりです。
「ここ2年くらいで登場したモデルで、毎年カラバリを増やしています。比較的に新しいバリエーションがこのあたり。エントリーモデルとして履いてもらいやすいかなって思いますね」と堀之内さん。
名品FILEその2
ショートパンツエブリデイのルーズカーディガン
ショートパンツエブリデイは、ショートパンツスタイルに似合うアイテムの品揃えも。これからの時期にアウターやミドルレイヤーとして活躍するのが、このノーカラーカーディガンです。生地はミリタリーウェアに見られるヘリンボーン織り。1950年代の風合いを再現するために、落綿を混紡しナチュラルなムラ感を表現しています。着込むほどに生地が体になじんでいき、ヴィンテージの風合いに育っていきます。
袖口にはゴムを入れてパイピング仕様に。作業をする際に裾が邪魔にならないように工夫された、アウトドア生活を送る錦田さんならではのこだわりです。引っ張り上げてもずり落ちてこないし、リブ仕様よりもカジュアルテイストは控えめ。堀之内さんによると、パソコン業務をするときにも便利なんだそう。
両サイドにはフラップポケットが2つ。ポケットの縫製には、ステッチが表に出ないように“袋縫い”の技術を採用しています。カバンを縫うときのように、布を外表に合わせて、でき上がり線から少し外側にミシンをかけていきます。ひっくり返すと縫い目が裏側に隠れて表に出ないため、ミニマルな仕上がりに。縫い目によるごろつきもなく、肌触りもなめらかです。スマホやコインケースは余裕で収納できるポケット付きで、ご近所ならば手ぶらで外出できますよ♪
シルエットはボックス型、着丈は腰よりやや下くらいでショーツとバランスをとっています。この日の堀之内さんのコーディネートは上下ともにショートパンツエブリデイ。ベーシックカラーでまとめた、クリーンなカジュアルスタイルです。
「ご飯を食べに行くときは、Tシャツ短パンだと子どもっぽい。かといって、ジャケットを羽織るのは気恥ずかしい。で、たどり着いたのが、このカーディガン。これさえ羽織れば、大人っぽい着こなしになってくれるのでプライベートでも重宝しています。3年くらい前にリリースして、ショートパンツ同様に毎年マイナーチェンジを繰り返しアップデート。カラーや生地にはバリエーションを揃えていますが、個人的にはベージュが秋らしくておすすめですね」
理想のショップ像
馬車の“ワゴン”のイメージからとったショップ名には、「アメリカンカルチャーを宮崎に運びたい」という錦田さんの想いが込められています。1993年から歴史をスタートさせた同社、現在は錦田さんと堀之内さんの2輪で次のステージへ向かっている真っ最中。工場、ショップを巡り、最後に改めて錦田さんにワゴンのこれからについて伺いました。
「まだ工場を始めたばかり。今は環境を整えるのに必死で、正直“タノクルシイ”って感じ。だけど、やればやるだけ、作る現場も大切にしたいと思うようになっています。オリジナルだけじゃなくて、他社製品のOEMも請け負えるようにしていきたい。ホテルの運営サイドからは、スポーツ選手が着られるような機能性に特化したユニフォームを作ったらいいのに!とかリクエストをもらっています(笑)。今後は縫製工場を活かした、宮崎の海や山でのアクティビテイから発想されたアウトドア カジュアルウエアブランド「WAGON」を立ち上げる予定。今は、ブランドが100年続くための下地作りの時期。皆さんに「WAGON」「Short pants every day」知って頂いて好きになってもらって、そして好きなブランドの本店がある宮崎に沢山の方が遊びに、観光に、来て頂けるようになると嬉しいです。すぐにはできないかもしれないけど、10年20年、100年続けば、いま思い描いていることが宮崎のためになる事業に成長していくと思っています」
ショップの理想像を語ってくれたのは、堀之内さん。ショップを拠点として、人やモノがつながっていく未来を目指しているんだそう。
「ワゴンをコミュニティの生まれる拠点にしていきたいです。具体的にはサーフィンや山登り、ゴルフなどの情報交換をしたり、一緒にフィールドに出て趣味を楽しめたりする仲間と出会える場所。ファッションを超えて、ライフスタイルでもつながれば、自然と着こなしも似てくるものだと思うんです。そうしたときこそ、当社のオリジナルウェアの出番(笑)。今後、ショートパンツエブリデイはショートパンツに絞った商品構成にしていき、これまでよりもお客様それぞれのライフスタイルにあったアイテムを揃えていきます!」
WAGON
住所:〒880-0805 宮崎県宮崎市橘通東3丁目6−34 クロノビル 1F
電話:0985-20-4040
営業時間:平日/13:00-19:00 祝休日/12:00-19:00 定休日:火曜日~木曜日
WAGONホームページ: https://wagonoffice.co.jp/
short pants every day HP:https://shortpantseveryday.com/
写真/椿原大樹 文/妹尾龍都 編集/鍵本大河(Begin)