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TIGER タイガー魔法瓶のSiphonysta

社内の担当変更でコーヒーメーカーの企画担当になった和泉さんは、日本スペシャルティコーヒー協会の認定資格「SCAJコーヒーマイスター」を取得するなど、コーヒーについて学ぶ中、コーヒー粉とお湯を浸けて抽出する浸漬式がスペシャルティコーヒーの風味をより引き出せると考えます。それでひらめいたのが、コーヒー好きの父が使っていたサイフォンを進化させ、美味しさはもちろん、抽出過程も楽しめるマシンでした。後編は、開発チームの一人、久木野景介さんが登場します。

前編はこちら

今回のビギニン

TIGER タイガー魔法瓶 久木野景介さん

タイガー魔法瓶 久木野景介さん

37歳。タイガー魔法瓶株式会社商品開発グループ開発第1チーム副主事。炊飯器開発を経て2020年にコーヒーメーカー開発チームへ異動し、サイフォニスタでは主にソフト制御を担当。好きなコーヒーは深煎りのクラシカル。休日は娘さんと近県へドライブに行くのが楽しみ。趣味は草野球で、外野手とピッチャーを兼任するこれまたスポーツマン。

Struggle:
培った技術の全てを注ぎ込む

TIGER タイガー魔法瓶の本社展示ショールーム
本社展示ショールームには代表的なプロダクトが展示されタイガー魔法瓶が歩んできた100年の歴史の厚みがわかります。

サイフォニスタの実機、抽出の動きを見るとこれまで目にしたどのコーヒーメーカーとも異なり商品化するには相当な試行錯誤があったことを感じさせます。開発メンバーの久木野さんが加わり話はさらに続きます…。

久木野「ゴールのイメージは共有できていましたが、それをどうやって形にするかは手探りで、方向転換は何度もあったから思い返すと懐かしいですね」

和泉「開発は本当に大変だったと思います。正解がわからずアドバイスができなかったので」

久木野「会社として全力で行くぞ!って方針は決まっていたので、コーヒーメーカー開発チームの6〜7人が総動員されました。図面を描き、モデル品が出来上がったら、実際に動かして問題点を抽出。コーヒーの味も並行してフィードバックをかけていったんですが、正直トラブルの連続でした。特に苦慮していたのは構造の担当者です」

TIGER タイガー魔法瓶のSiphonysta
サイフォニスタの特徴的なシリンダー。上部が水のタンクとコーヒーサーバーを兼ね、下部にコーヒー粉を入れて抽出する。

カプセルの中でコーヒーを作りたいという和泉さんのイメージを実現するために考案されたのが、シリンダーを上下で分離するギミックでした。下部にコーヒー粉、上部に水を入れセットすると、お湯が注がれコーヒーと混ざり合い、抽出が終わると上部シリンダー内でコーヒーが噴水のごとく噴き上がります。

コーヒーが噴き出すところを動画でご覧ください。サイフォン式コーヒーのライブ感をしっかり感じます。

久木野「水がコーヒーになるまでの道のりは過去のマシンと全く違います。シリンダーは取り外して、上下とジョイント部の3パーツに分かれて洗えるよう設計されていますが、こうすると水の経路も分断されるため、上手く作るのは大変でした」

TIGER タイガー魔法瓶のSiphonysta
シリンダーを分割すると幾つもの穴が空いています。

“淹れる過程を魅せるコーヒーメーカー”というタイガー魔法瓶初の試みを具現化したサイフォニスタですが、もう一方のテーマである“スペシャルティコーヒーを美味しく飲む”機能には今まで培ってきた技術とノウハウが生かされています。

タイガー魔法瓶ではコア技術である熱制御テクノロジーで温度と時間を緻密にコントロールし、好みのテイストにできるコーヒーメーカーが商品化されており、サイフォニスタも同様の機能を搭載しています。

TIGER タイガー魔法瓶のSiphonysta
本体上面のボタンで味が調整できます。スペシャルティコーヒーにあったAcidic(酸味)ー Bitter(苦味)と、Light(軽め)ーStrong(重め)のそれぞれ3段階の組み合わせ、計9パターンに加え、開発時「スペシャル機能」と呼ばれた雑味を抑え甘みを引き出す「Dual Temp Brewing Method(2段階温度抽出法)」の10通りが選べます。

久木野「発売して7〜8年になりますが、タイガー独自のスチーム制御ユニットを搭載した商品があるんです。今回はその技術をさらに発展させ、粉の蒸らしと、抽出時の撹拌、コーヒーが冷めないようシリンダーを温める、この3点にスチームを使っています。そのため短時間で水を蒸気にするプリントヒーターを採用しました」

和泉「このヒーターはタイガー魔法瓶の電気ケトルに使われているもので、熱応答性に優れ、設定温度をクイックに変えられる特長があります。それが味の調節にも一役買っています」

コーヒー
コーヒーは抽出の際、温度を高く時間を長くするとコクと苦みが増し、温度を低く時間を短くすればコーヒー豆の酸味が出てスッキリとした飲み心地になります。サイフォニスタの味調節にもこの知恵が生かされています。

サイフォニスタにスペシャル機能を付加したいと考えていた和泉さんは、プリントヒーターの特性を活かした独自の抽出法を思い付きます。

和泉「コーヒーメーカーの担当になる前の記憶なんですが、バリスタの競技会で温度の異なるポットを2つ使う人いたんです。見ているとドリッパーにまずは高温のお湯を淹れ、続いて少し低温のお湯を使って抽出しているようでした」

ドリップコーヒーには“差し湯”と呼ばれるテクニックが存在します。コーヒーはお湯を入れると前半にフルーティな酸味や甘さなどの成分が、後半に従い渋みなどの雑味が出てきます。それを抑えるため、例えば300mlのコーヒーを作るなら、230mlで前半の美味しい部分を抽出し、残り70mlのお湯を入れ薄める。それが“差し湯”です。

和泉「自分で試した所、お湯を入れる“差し湯”はコントロールが難しく、薄まりやすくて、大会で目にした高温と中温のお湯を段階的に淹れた方が、ふんわりした甘みにコーヒーの厚みが加わり、雑味も消えるクリーンな理想の風味になったんです」

これはマシンの目玉になると確信した和泉さんは早速、久木野さんに相談します。

TIGER タイガー魔法瓶 和泉修壮さんと久木野景介さん

久木野「良いアイデアだと思いました。人間がやる場合、温度の違うお湯を用意しないといけないから面倒じゃないですか? でも機械的にはやりやすいんです。先ほど和泉も言いましたが、プリントヒーターは熱しやすく冷めやすいので、温度のコントロールにメリハリが付けられます。ヒーター自体が熱を持つタイプだと温度がダラダラ落ちてきて狙った抽出にならない。プリントヒーターの特徴が生かせる選択だと思いました。ただ、暴れ馬のようなヒーターなので、調整する側としては正直悩ましい部分もありました」

和泉「プログラムは久木野の担当でしたが、かなり苦労して制御してくれましたね」

誕生したスペシャル機能は2段階温度抽出法の英訳Dual Temp Brewing Methodの前二文字を取り、Dual Tempボタンとして組み込まれました。スチームを使った蒸らし、撹拌、湯温の切り替えなどタイガー魔法瓶の熱コントロール技術が生み出したサイフォニスタの「デュアルテンプ」は日本最大のコーヒー見本SCAJ2022で、「サイフォンでもなく、エアロプレスでもない。それぞれのテイストを感じる新しい抽出法」とコーヒーのプロからも絶賛されます。

Dual Tempの温度制御イメージ
こちらはDual Tempの温度制御イメージ。抽出温度の時間を前半と後半で20℃弱下げています。温度を下げると抽出効率も低下し、後半に出てくる雑味が抑えられクリアな仕上がりになります。

スギハラコーヒーロースター
取材に協力いただいたスギハラコーヒーロースターさんはQグレーダー(コーヒーの品質を評価できる認定資格者)を取得されており、サイフォニスタの風味アドバイザーとして開発にも参加されています。

Reach:
アンバサダー募集

サイフォニスタを身近に体験してもらおうと考えられたのが「アンバサダープログラム」です。ロースタリーやコーヒーショップ、カフェなど協力店にサイフォニスタを設置し、試飲などのサービスが提供されます。エンドユーザーが各店舗のQRコードを通じてECサイトで購入すると1割引になり、アンバサダーにもインセンティブが発生する仕組みです。

スギハラコーヒーロースター
スギハラコーヒーロースターさんもアンバサダーに参加されています。

和泉「スペシャルティってお店の味が、家でやるとなかなか出せないんですよね。そのギャップを解消したいとも思っていて。お客さんがサイフォニスタをお持ちなら同じ味が出せるし、お店側は「この豆にはこの設定がいいですよ」と提案もできる。あとは、サイフォニスタを見るのがきっかけで専門店に行ったり。コーヒー好きの縁を繋げるようなものになれば嬉しいですね」

久木野「アンバサダーの方からは、味や使い勝手などトータルで見て良い評価を頂いているんですが、作り手としては、正直まだまだやりたい気持ちがあります」

今年100周年を迎えたタイガー魔法瓶。ウェブサイトには魔法瓶に次いでサイフォニスタが表示され、同社のモノづくりを象徴しているように感じます。
久木野「価格競争で数を取っていくというニーズも大切で手放すわけでは無いですが、それとはまた違った方向性として、感動といった部分に価値定義を出来る商品をこれからも作っていきたいですね」

TIGER タイガー魔法瓶 和泉修壮さんと久木野景介さん

和泉「タイガーの根底にあるのが“世界中に幸せの団らんを広げる”と言う企業理念なんです。皆さんから面白いとか、トンがってると思って貰える商品が生まれるのは、それがあるから。今後もタイガーだから出来たと言って貰えるチャレンジをしていきたいと思います」

TIGER タイガー魔法瓶のSiphonysta

Siphonysta(サイフォニスタ)
タイガー魔法瓶が長年培ってきた“スチーム技術”と“熱制御技術”を駆使して作り上げた自動サイフォン式コーヒー抽出システム搭載コーヒーメーカー。瞬時にコーヒー粉全体を蒸らすスチームを発生させシリンダー上下の圧力差でコーヒーを減圧ろ過して抽出を行う新しい方式でクリアでかつ、豆本来の香りと旨みを引き出す。6万6000円

(問)タイガー魔法瓶
https://www.tiger-corporation.com/ja/jpn/product/coffee-machine/ads-a/

※表示価格は税込み


写真/中島真美 文/森田哲徳

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