映画×時計マニアな3人が、映画の中の“闘う男”たちが着用する腕時計や小物まで深堀りする観方をご紹介!
映画×時計マニアな3人はこの方々
ライター
尾崎さやかさん
ジャンルを問わない映画好き。オタク気質なところがあり、映画に出てくる時計や小道具が気になると、英語サイトを検索してまで時間を費やすことも。
「スイートロード」川崎店 店長
田邉雄太さん
ヴィンテージウォッチをこよなく愛し、ブログも執筆。自宅で映画を観るときは、時計が映る度に一時停止ボタンを押して「これは?」と観察するため、家族に呆れられがち。
アパレルPR
吉原 隆さん
長年ファッション業界に携わるベテランPR。ファッションに関わる映画や時計、シューズに至る時系列を深堀りし、仕事に反映させるべく自己流で研究中。生粋の時計マニア。
男心をくすぐる映画の名脇役としての時計
尾崎さん(以下敬称略) 映画と時計の関係を語るなら、王道の『007』シリーズと“ボンドウォッチ”からいきましょうか。
『007/ゴールデンアイ』
オメガが初めて『007』シリーズに登場した記念すべき映画。ブルーレイ2619円(発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント)
田邉さん(以下敬称略) 僕がシリーズ中、初めて観たのは『007/ゴールデンアイ』。5代目ボンドを演じるピアース・ブロスナンが初めてオメガのシーマスターを着けて登場して、時計に興味を持つきっかけになった映画です。列車での格闘の前に着けていたウォッチを外すシーンや、爆発するペンなどさまざまなガジェットの登場が面白いんですよね。特にシーマスターは、男くさい雰囲気もイイですね。
尾崎 スーツにダイバーズウォッチというスタイルは、ミリタリーを背景に持つボンドらしいですね。
オメガ シーマスター 300M クォーツ
田邉 現代ではそういったスタイルも普遍的なものになっていて、ラグジュアリースポーツと表現されることも。かつてはシーンや服装によってスタンダードウォッチとスポーツウォッチなんて分けていました。例えば初代のショーン・コネリーはドレススタイルにはグリュエンのプレシジョン、ミッション時はロレックスのサブマリーナーと着け分けてるんですよ。男性ならではのカッコよさを体現してますよね。
尾崎 ボンドがスマートかつチャーミングなキャラクターだった、1960年代の雰囲気がよくわかる。
田邉 そう、『007/ゴールデンアイ』以降のピアース・ブロスナンが着用しているボンドウォッチ(※1)はケース径41mmとやや大ぶり。ショーン・コネリーの6538は39mmと小さめで、スーツに合わせやすいサイズ感です。
尾崎 ミッションにも邪魔にならない大きさってことですか?
田邉 そう! 当時の高級時計は、薄い、軽いということが重要で。現代では当たり前のように大きいサイズもありますが、本来はスーツやシャツの袖口に引っ掛かりにくい薄さこそが魅力だったんです。そして、『ゴールデンアイ』では公開当時の最新ツールウォッチを表現するために、オメガのダイバーズを採用したんじゃないでしょうか。
オメガ シーマスター ダイバー300M 007エディション
『キャラによって時計の見え方が全然違うのが面白い』
尾崎 吉原さんにとって、『007』シリーズでの見どころは?
吉原さん(以下敬称略) キャラクターによって時計の見え方が全然違う点が大好きです。ショーン・コネリー、ジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアース・ブロスナン……それぞれの俳優とウォッチの個性がどこかリンクしてる。ティモシー・ダルトンは、確かロレックスしてましたよね。
田邉 それも、当時の最新モデルです。
吉原 ショーン・コネリーが演じるボンドでは、第二次世界大戦の頃イギリス軍の将校クラスはサブマリーナーを支給されていて、彼はそういった時代背景を持つハイクラスの人というキャラクター。で、ピアース・ブロスナンとかはエロエロなボンドを演じてて(笑)、時計もピカピカで、やっぱり役者の持ち味にマッチしてる。
時期を同じくして、作中のスーツがイタリアのブリオーニ(※2)になった。イギリス映画なんだけど、スーツはイタリアでオーダーしてるの。センスをちゃんと感じさせるよね。
でも『カジノ・ロワイヤル』で登場したダニエル・クレイグ演じるボンドは、トム・フォードのスーツも着てて。これは、現代のヨーロッパのお金持ちの2代目たちがアメリカに留学してビジネスを学ぶうちに、ブルックス ブラザーズとか洗練されたものを取り入れていくっていう今の時代性を反映してると思う。
ほかにも、必ずタキシードが出てきて、フォーマルスタイルを学べる。原作者のイアン・フレミング(※3)が本当にセンスある人だったんだと思う。今のダニエル・クレイグにも継承されていて、もちろん着用するウォッチも、クラシカルな配色でカッコいい。
尾崎 エレガントですよね。
吉原 そう。やっぱりスーツを着るので、トーンを落としてあまりキラキラ光らせてない。ダニエル・クレイグのボンドはあまり笑わないキャラクターだから、このトーンがマッチしてる。
田邉 やっぱり僕はショーン・コネリーのボンドがシュッとしていながらもチャーミングで好き。『ドクター・ノオ』、『ロシアより愛を込めて』がオススメです!
尾崎 まだ『007』にスパイとしての悲壮感が漂いすぎていない。
田邉 そう、こんなこと言ってはいけないかもしれないんだけど、ダニエル・クレイグは僕にはシリアスすぎて。ピアース・ブロスナンのボンドは洒落が効いてて、イイ! 大好きなんです。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
イギリス秘密情報部MI6の諜報員、ジェームズ・ボンドの活躍を描く『007』シリーズ25作目であり、ダニエル・クレイグ最後のボンド映画。シリーズ初の女性007も登場。ブルーレイ2075円、DVD1572円(NBCユニバーサル・エンターテイメント)
尾崎 吉原さんや田邉さんが、ジェームズ・ボンドに憧れるのはどんな点なんですか?
吉原 いや、今の時代に言っちゃいけないのかもしれないけど、“闘うオス”ですよ。オトコ。何で闘うかって、女性や家族、国を守りたい……それがオスじゃないですか。オスオス言うなって話もありますが(笑)。
田邉 僕は『007/ゴールデンアイ』で時計の魅力に目覚めましたし、やっぱり登場するモノがカッコいいかにこだわってます。
尾崎 映画が公開された当時の流行や時代性を見るって楽しいですよね。
吉原さん「お気に入りの作品の時計はコレクションしちゃう」
OMEGA[オメガ]
シーマスター 300M クォーツ
悪役の装甲列車に閉じ込められたボンドが、時計のベゼルに内蔵されたレーザーを使って、危機を乗り越えるシーンで登場している。クォーツ。径43.5mm。SSケース&ブレス。参考商品(オメガ)
OMEGA[オメガ]
シーマスター ダイバー300M 007エディション
スパイのミッションに欠かせない軽量化と、ヴィンテージ風のカラーを提案したアイコニックなウォッチ。自動巻き。径42mm。チタンケース&ブレス。133万1000円(オメガお客様センター)
ボンドウォッチ(※1)
『007』シリーズで主人公ジェームズ・ボンドが着用するウォッチ。ヒミツの特殊機能が搭載されており、あらゆる危険を腕時計とともに切り抜ける。
ブリオーニ(※2)
イタリアの名門スーツブランド。5代目ボンドのピアース・ブロスナンが作中で着用しており、風格のある佇まいながらも艶やかさを演出している。
イアン・フレミング(※3)
英国の小説家で『007』の原作者。娯楽としての酒、タバコ、料理、銃、車などに精通し、自身もロレックスのエクスプローラーを愛用していた。
ゼニス エル・プリメロ(復刻版)
吉原 映画に感じる時代性といえば、外せないのが『ルパン三世』。カーレースでルパンと次元の車が入れ替わるシーンで登場する、ゼニスのエル・プリメロ!
田邉 あ、かなり冒頭のシーンだ!
吉原 そう。小学生のときなんだけど、もう、しびれたなあ~、なんだろう? あのカッコいい時計は、って。で、深掘りしてみると、製作スタッフに、時計、銃、クルマ……もう男の人が大好きなモノをきっちり描写した、大塚康生(※4)さんというアニメーターがいて。最初にフィアット500をアニメーションに登場させた方です。
吉原さん「『俺のコンバットマグナムが効かねえ!』(次元)とかよく言ってた(笑)」
尾崎 『ルパン三世』は1970年代にテレビ放送されてたんですね。
田邉 そうか~、登場するエル・プリメロの年式も合ってますね。
吉原 そう。ゼニスのロゴのZとHはうっすらと描かれてて、“ENIT”の文字やフォルムは正確に描写されていて、そそるわけなんですよ。
尾崎 子どもだけが見るものとして作られてないですよね。
吉原 そう、大人向け。カッコいいクルマも出てくる。ベンツのクラシックカーや、銭形警部が乗ってるパトカーもアルファロメオ。
尾崎 今のアニメより豪華~!
吉原 いや~、やりすぎ(笑)。だって、リアルタイム放送は日曜の夜7時半に、峰不二子でしょ? こんな大人のお姉さんが……って。まあ、いい時代ですよね、1970年代。
今買えるのはコレ
ZENITH[ゼニス]
エル・プリメロ A384リバイバル
世界初の自動巻きクロノグラフとして登場したオリジナルの50周年を記念し、忠実に再現されたパーツと刷新されたキャリバーを搭載した復刻版。自動巻き。径37mm。SSケース&ブレス。77万8000円(ジャックロード)
大塚康生(※4)
アニメーター。厚生省麻薬取締官を務めた経験があり、銃器にも詳しい。銃、車などの詳細な描写や、ガンアクション描写を得意としていた。