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数年の間に世界を一変させる可能性を秘めているDXな取り組みにフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズに、DXを通じて見事に応える、優れたサービスの開発者やその現場を訪ね、未来を変える可能性やそこに込められた思いを紹介していきます。

コーヒー業界における第3の波“サードウェーブ”が押し寄せて久しいですが、今や日本ではグローバルチェーンが完全に浸透しただけではなく、コンビニコーヒーの進化、昔ながらの喫茶店も再注目されるなど、かつてないほどコーヒーの人気が白熱しています。特定の地域・原産地のみで栽培された“シングルオリジン”と呼ばれるツウ好みの一杯も、広く一般に普及するようになりました。

これだけのコーヒー人気ですから、ちょっと一息入れようとカフェをのぞくとレジには長蛇の列が。コーヒー一杯注文するのに、どれだけの時間がかかるんだ……なんて経験、一度や二度ではないはずです。今回の「プロジェクトDX」では、コーヒー好きをそんなストレスから解放してくれる「AIカフェロボット」をご紹介します。自慢の“スペシャルティコーヒー”が、実質3杯まで無料で飲めると聞けば、コーヒー好きは気になりますよね?

プロジェクトDX 〜挑戦者No.7〜ニューイノベーションズ社のroot C

日本にはさまざまな種類のカフェが存在します。純粋にコーヒーを楽しむためだけの専門店のほかに、食に重点を置いたグルメ系、メイド喫茶や猫カフェを代表とする体験型、さらにはカフェを併設する多種多様なショップが続々とオープンしています。あの「スターバックス」は、2022年9月時点で国内に1771店舗も展開しています。

一見、飽和状態のように思える日本のカフェ業界。どの業態でも人の手によってコーヒーは提供されますが、2021年の春、その常識を覆す新しいカタチのカフェが登場! AIカフェロボット「root C(ルートシー)」は、完全無人で営業するカフェスタンドです。

AIカフェロボット root C ルートシー

サービスを体験するために、必要なステップは3つあります。まず、専用のアプリをダウンロード(無料)。次にアプリを起動させて、ピックアップの時間と場所を指定。あとは時間に合わせて淹れたてのコーヒーをロッカーから受け取るだけです。

ロッカーには番号が割り振られていて、受け取り時に自分のコーヒーが入っている番号がアプリに表示されます。扉はアプリを使ってロックを解錠するため、取り違いも起こりません。完全無人で、待ち時間もなし。ユーザーは通勤途中や休憩中のちょっとした時間を有効利用しています。

コーヒーはアイスとホットを合わせて全14種類の中から選べます。華やかでフローラルなテイストの「エチオピア アリーチャ」や豊かな苦味とマンデリン独特の香りを楽しめる「インドネシア スマトラタイガー」など、全てのコーヒーが“サードウェーブ”を代表する “スペシャルティコーヒー”です。

“スペシャルティコーヒー”とは、甘味、酸味、風味、後味、全体的なバランスなど徹底的に“味”を追求したコーヒーで、そのこだわりは生産背景にも及びます。「農園からコーヒーカップまで(From Seed To Cup)」のスローガンのもと、全ての工程を管理、その情報を明確にして、育った土地柄も味わいの一つとして楽しみます。つまり、生産者と消費者の双方に利益をもたらすトレーサブルな一杯というわけです。

「ルートシー」の受け取りステーションは、首都圏を中心に10か所(2023年4月7日現在)あります。駅ナカや商業ビルの一角など、その多くは毎日立ち寄る場所に設置されています。

値段は単品で一杯450円。コーヒーを購入するたびに10%相当のポイントが付与されるポイントサービスも魅力の一つ。ログインするたびにポイントが貯まっていきます。今ならアプリに新規会員登録をすると300ポイント、初めの一杯を購入すると特典として450ポイント獲得できます。そのほか、友達を招待するとプラスで500ポイント、支払いに使用するクレジットカードを登録すると150ポイントなどなど、ポイントが貯まりやすい仕組みになっており、ゲーム感覚で購入体験を楽しめます。1ポイント=1円で使用できるので、賢くミッションをクリアしていけば、早い段階で実質3杯も無料に!

サブスクサービスも提供しており、月額1980円で8杯まで飲めるプランと月額7980円で飲み放題プランがあります。認知度は順調に拡大しており、場所によってはひっきりなしにコーヒーを受け取りに人がやってくる状況。「ルートシー」は、カフェ業界だけでなく、飲食業界からも注目を集めています。

5歳から機械いじり。生まれながらの発明マニアが手がける

株式会社ニューイノベーションズ 代表取締役CEO兼CTO. 中尾 渓人氏

「ルートシー」を手がける「ニューイノベーションズ」の代表は、弱冠23歳の中尾さん。和歌山県の出身で、幼い頃から機械に興味を持ち、小学生時代にはあらゆる家電製品を分解。小学4年生からロボットづくりに目覚め、14歳で『RoboCup Junior』の世界大会で入賞を果たします。「5歳の頃から近くの工場で遊んでいて。その様子を見てなのか、両親からは“おもちゃ”じゃなく、家電のジャンク品をプレゼントされるようになりました」と中尾さん。

会社を設立したのは高校在学中。「ルートシー」のプロトタイプをお披露目したのは20歳になった2019年夏ごろで、大阪の駅とショッピングビルで実証実験を行いました。「当時はアプリを開発する資金もなく、ロボットがコーヒーを提供できるかを試したかった。“コーヒーの値段を安くするよりも、味わいを豊かにしてほしい”というアンケート結果が得られました」と中尾さんは振り返り、2021年4月に初めて一般向けにローンチした「ルートシー」開発のきっかけを教えてくれました。

「美味しいコーヒーを淹れるためには、やっぱり時間が必要。待ち時間のかからない仕組みをロボットとテクノロジーの力で作ろうと思ったんです」

カフェの小規模店舗であり、高級路線の自販機ではない

デザインの検討に活用したルートシーのモックアップ

受け取り枠は10分刻みで設けられていて、コーヒーはヘッドタイム(受け取り時間が11:00~11:10であれば11:00)に間に合うように準備されます。混雑状況によって前後しますが、一杯につき提供時間はおよそ90秒〜100秒。その時間を逆算し、ロボットはコーヒー豆を挽き極上の一杯の準備を始めます。中尾さんは「美味しいコーヒーのためなら、一杯あたりの抽出時間を短縮しようという考えはない」と言い切ります。

「極端な話ですが、5分必要なのであれば5分かけたほうがいいと思っています。というのも、ルートシーは自動販売機ではなくて、あくまでもカフェ。美味しいコーヒーを提供することはもちろん、デザインにこだわったり、スタンドテーブルを装備させたりしています。一部の店舗ではカフェラテの販売もスタート(※移設にともない2023年4月7日現在、カフェラテの提供は一時停止中)しているんですよ」

「ルートシー」のビジネス的な強みは、導入した企業がカフェのサービスを提供できる一方、自動販売機として国から営業許可を取れること。電源が取れる屋内であればどこにでも設置でき、水回りの設備も不要です。いわゆる不動産型の店舗ではないので、設置と撤去のリスクを最小限に抑えられます。

じつは、カフェラテをメニューに取り入れるには高いハードルがありました。それは無人の環境下では国の食品衛生に関する決まりで、牛乳を扱うことができなかったから。現在、ラテメニューを「マーチエキュート神田万世橋ステーション」限定で販売できているのも、「ルートシー」が「規制のサンドボックス制度」(期間・参加者を限定し、既存の規制の適用を受けることなく新しい技術やビジネスモデルの迅速な実証を可能とするもの)の認定を受けているためです。

「ルートシー」が制度の対象となった理由の一つに、牛乳の衛生状態を常時管理できる設備を評価されたことが挙げられます。中尾さんの開発したクラウド・システム「ルートシー・クラウド」がそれを可能にし、内部に設置されたセンサーで牛乳の温度をリアルタイムで把握できます。補充と廃棄のオペレーションが整っていたり、万が一の時には自動的にカフェラテの販売を中止できたり。安心安全な牛乳でカフェラテを作るために、徹底した品質管理をテクノロジーを使って実行しています(ある意味、有人店舗よりも万全な管理体制!)。

ちなみに、飲食店営業の無人店舗に関する実証計画が認定されたのは、「ルートシー」が日本で初めて。中尾さんは、この取り組みによって「ロボットによる飲食業の可能性を広げたい」と将来を見据えます。

「カフェラテを提供したいというより、無人環境で牛乳を取り扱う前例を作ることで、飲食業界の人手不足を解消したいという思いのほうが強いです。ロボットの引き受けられる仕事が増えることで、サービスレベルの底上げができる。だからといって私たちの住む世界が180度チェンジするわけじゃなく、人の仕事もちゃんと残っていくと思います。むしろ、新しい仕事が生まれるはず。未来へ進む人々が幸せになるロボットやテクノロジーを開発し続けていきたいです」

“コーヒー”への期待を分解して生まれた、コーヒーを買う新しい選択肢

株式会社ニューイノベーションズ 代表取締役CEO兼CTO 中尾渓人氏

「root C」の「C」はCoffeeのCで、rootは根号を意味します。中尾さんは、この事業を展開するに当たり、コーヒー業界に対するニーズや課題を因数分解したと言います。手軽にカフェインを摂取したい、美味しいコーヒーを飲んでリラックスしたい、お洒落な空間で過ごす時間がほしい。これまでは、その目的(因子)によって、カフェ、コンビニ、自販機など、コーヒーを購入する場と手段を変えていました。「ルートシー」の狙いは、その手軽・美味しい・お洒落の3因子すべてに応えることにあります。

実際、筆者も「東京ソラマチ ウエストヤード 2階3番地」で“グアテマラ サンタ・クルス/HOT”をオーダーしてみました。ヘッドタイムより8分ほど遅れて受け取りましたが、コーヒーは冷めておらず温かい状態。ひと口飲むと、コクのある酸味と甘味が口の中にふわぁっと広がります。ほのかに香る柑橘系の香りが心地よく鼻を抜け、後味はスッキリ。カップのデザインや購入体験はスタイリッシュで、手に持って歩いているだけで、なんだかデキる男になった気分に(笑)。東京、神奈川、大阪にロボットは設置されているので、お住まいや職場が近い方はぜひ一度お試しあれ〜!

自分好みのコーヒーと出会える!

AIによるパーソナライズ診断 root C MATCH

「ルートシー」には、AIによるパーソナライズ診断「root C MATCH™️」が搭載されています。コーヒーやライフスタイルに関する簡単な質問に答えることで、ユーザーの好みにあるコーヒーをおすすめしてくれるサービスです。利用回数が増えれば増えるほど、AIは育っていき、そのレコメンドは正確になります。これまで甘い香りのコーヒーは頼まなかったけど、意外に好きかも!?なんて、新しい出会いを楽しめるかもしれませんよ!

root C
https://rootc.cafe/

※表示価格は税込み。


写真/宮前一喜 文/妹尾龍都

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