日本の飲酒文化の中心を担っているビール。2018年4月に酒税法が改正されビールの定義が拡大し、原料にハーブ、フルーツ、スパイスなどが使用可能となると、地ビールを代表とする小規模醸造のクラフトビールが流行。個性的なフレーバーは多くのビールファンに受け入れられ、大手メーカーからも変わり種ビールが続々と発売されました。もちろん、総酒類市場のNo. 1はビールです。
しかし、ビール市場自体は2004年を境に年々縮小している状況。その理由のひとつに挙げられるのが“若者のビール離れ”です。健康志向の高まりや飲酒に対するモラルの向上に加え、コロナ禍による飲み会の減少も拍車をかけました。「とりあえず、ビールで!」な〜んてお馴染みのセリフは、だんだん聞かなくなっています。
そこで立ち上がったのが、知ってご存じ、飲料メーカーの「サントリー」です。1921年に前身の「寿屋」を創立すると、社名を変更した1963年にオリジナルビール『サントリービール』を発売。代表製品『ザ・プレミアム・モルツ』は、日本で初めて「モンドセレクション」ビール部門で最高金賞を獲得しました。2005年の受賞から3年間、歴史的快挙は続きました。
過ぎ去りし、昨年の11月。ビール業界の不振を回復させるべく「サントリー」はこれまでにない全く新しいビールを発売します。『ビアボール』と名付けられた新商品は、現在、若者からの支持も集めるヒット作へと、その坂道を登っています。
『ビアボール』の最大の特徴は、自分好みに味わいを調整できること。サントリー史上最高値となるアルコール度数16%を実現したビールで、なんと炭酸水と割って飲むスタイルを推奨しているんですね。比率を変えれば濃さは自由自在に変えられて、なおかつ鼻を抜けるフルーティな香りやビールならではの苦味もしっかり堪能できる。グラスには氷も入れるので、素早く飲み干さなくても冷たいまま。そしてなにより、つくる過程がチョ〜楽しい!「次はどんな濃さで飲もう!」「炭酸水を味つきに変えてみる?」などなど次から次へと試してみたくなるんです。オフィシャルのおすすめはビアボール1:炭酸水3。つくり方はこちら!
氷でいっぱいのグラスに炭酸水を注いで…
ビアボールをゆっくり追加!
『ビアボール』はこれまでのビールの常識を覆す、前代未聞の楽しみ方を武器にしたビール業界のZ世代。「サントリー」の思惑通り、お酒を飲むことよりお酒を飲む場を楽しみたい傾向にある若者の心にもクリティカルヒット。今回は自身も大のビール好き、商品企画を担当した佐藤さんに開発秘話を伺いました。後編では編集部オススメの飲み方も紹介しちゃいます♪
今回のビギニン
サントリー 佐藤勇介さん
1986年生まれ。サントリー株式会社 ビールカンパニー マーケティング本部 イノベーション部。ビール一筋の14年目。入社後は営業経験を積んだのち、マーケティング本部へ。21年4月に発足されたイノベーション部にて「ビアボール」のブランドマネージャーとしてチームを率いる。一番好きなビアボールの飲み方は王道の炭酸割り。1対3の黄金比で晩酌タイムを楽しんでいる。
Idea:
営業中の居酒屋で“割る”を知る
佐藤さんは、『頂(いただき)』や『金麦 ザ ラガー』など、これまでパンチのある飲みごたえが持ち味のビールを担当してきた。「ビールの魅力を社会に伝えたい!」という想いで商品開発に取り組んできた佐藤さんにとって、市場の低迷は心を痛める現実でした。
いうまでもなく、「サントリー」には佐藤さんと同じく現状に肩を落とす社員が大勢いました。社内にはビール市場のV字回復を目指す気運が高まっており、今から2年前、ビール部門には新商品開発を担当するイノベーション部が新設されました。
佐藤さんも所属するイノベーション部。ユニークなのは構成員の出自がバラバラだということ。商品企画経験のある佐藤さんのような人もいれば、新入社員やバリバリの営業経験者などもいます。業界の当たり前に捉われない、自由なクリエイティブに社内の注目度も高い新しい部署です。
そして佐藤さんも例外ではなく、元々は小売店や飲食店向けにビールの営業をしていた経歴の持ち主。『ビアボール』のアイデアは営業時代に見てきた光景がヒントになっています。それは居酒屋で提供されるサワーやハイボールのつくり方を見たとき。「ビールも炭酸で割ってみたらどうなんだろう」と営業部時代の佐藤さんは気軽な気持ちで企画を考えました。
すでにウイスキーで有名な「サントリー」にも、ハイボールのように炭酸水で割ってお酒をつくる文化は根付いていました。近年では『こだわり酒場のレモンサワーの素』も話題に。炭酸水で割ることを前提としたお酒は、居酒屋のようなスタイルを自宅で楽しめると巷でちょっとしたブームとなっています。
「ただ単に、コスパがいいから売れてんだろうと思ってたんです。そもそもビールを炭酸で割るなんて発想は変だと思いましたし、ビールはビールですでに完成された飲み物。ビールの炭酸水割りに可能性を感じつつも、誰のために何のためにつくればいいのか、自分にはいいコンセプトが思い浮かばなかったんです」
Trigger:
ビールそのものがアルハラ!? 若者目線に驚愕
サントリーは「ビアボール」開発にあたり、大学のゼミと協業して、コンセプト等の需要調査を行っていました。調査の結果、ビールに対する若者のイメージはどれもこれも耳を塞ぎたくなるような内容で、思わぬ心のダメージを負ってしまいました…。
「キンキンに冷えたビールって美味しいですよね? でもそれが仇となっていて。若者の中には『早く飲め!!』って急かされているような気分になる子もいるそうなんです。ビールは出てくるだけでアルハラだって(笑)。本当に心が痛くなるような言葉が次々に出てきました…」と佐藤さんも苦笑い。
Z世代にとって、お酒は飲みの場を楽しむためのブースター。会話をするのが第一優先なので、ビールはどんどんぬるくなり苦さが際立ってきてしまう。それが若者のビール離れを加速させる要因であると、佐藤さんはひとつの仮説を立てました。
「『苦いから嫌い!』と言う学生の手もとを見ると『BOSS』のブラックコーヒーが握られていたんです。『苦いの飲めるんじゃん!』っと思わず突っ込みました(笑)。でも、学生の言い分もちゃんとあって。コーヒーはカフェオレがあるから、徐々に味に慣れることができてコーヒーの魅力に気づける。でも、初心者向けのビールってないですよね?って」
「ビールは苦いし、温かくなると美味しくなくなるから、私たち(Z世代)向きではない!」
佐藤さんが腹を割って正直にビールに対する意見を求めると、ネガティブな意見がどんどん湧いて出てきます。ですが、学生が自主的にとったアンケート調査結果に、佐藤さんは希望を見出します。
「ビールは嫌いでも、学生の7割以上が飲めるようになりたいと回答していました。7割もいるのに魅力を伝えきれていないって、我々の責任だなと思ったんですね」
学生からのぶっちゃけ意見を聞いて、新商品のコンセプトを思いついた佐藤さん。Z世代が楽しんで飲めるビールを作ろう。営業時代から温めていたアイデアを呼び起こし、佐藤さんは自宅のキッチンへ。そこで佐藤さんがしたこととは一体。気になる商品開発の内容は後編に続きます。
後編:ビール好きへの冒涜⁉︎
(問)サントリー お客様センター
https://www.suntory.co.jp/customer/
※表示価格は税込み
写真/宮前一喜 文/妹尾龍都