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時代のニーズや変化に見事に応えた優れモノが、日々私たちの周りには続々と誕生しています。そんな心躍る進化を遂げたアイテムは、果たしてどのようにして生み出されたのか? 連載「ビギニン」では、そんな前代未聞の優れモノを“Beginした人”を実際に訪ね、その誕生の深層に迫ります。ビギニンの発想、言葉、生き方に触れれば、そのモノの魅力がより理解できるだけでなく、私たちの生活にもヒントを与えてくれることでしょう。

第3回にピックアップするのは、昨年ビギンマーケットで大ヒットしたボクサーパンツ“TAKEMURA”の発起人。シニア層に長年親しまれてきた、両面パイルのアンダーウェアを“オシャレ”に格上げしたビギニンです。

取材地は、新大阪駅から車で約10分、大阪市北区豊崎にあるブラウンのビル。ビジネスの中心地、梅田駅から徒歩圏内の場所にありました。かつてはメリヤスの工場も見られ、繊維業が盛んに営まれていた地域です。

ブランド誕生の経緯を聞くと、両面パイルのドラマチックな歴史に直面。爽やかな風が吹く秋晴れだったこの日、その生産現場にもお邪魔することができました。出迎えてくれたのは、日本にたった3台しか存在しない特別な編み機を操る機械マニア。その編み機との出会いを愛情たっぷりに教えてくれました。

掘れば掘るほど新しい事実が判明する、今回のビギニン取材。新色のボクサーパンツも準備完了整いました。いつも以上に目が離せない、大ボリュームの内容でお届けできそうです。その魅力的なエピソードの数々を、前編/後編の2回に分けてご紹介します!

今回のビギニン

株式会社アズ 常務取締役 武村桂佑氏

商社勤務を経て、2004年株式会社アズに入社。入社後すぐ「これがうちの柱の一つや」と、同社の会長を務める父親に無理矢理白いステテコを穿かされる。以来その心地よさにすっかり魅せられ、ステテコ文化の再生と新たなる創造を目的としたプロジェクト「ステテコドットコム」をスタート。休日は家族と山へトレッキングに出かけることが楽しみ。6歳になる愛娘の成長を優しく見守るお父さんだ。

idea:
創業80周年を迎え、何か新しいことができないかと考えた

「極度の口下手で……編集の腕でなんとか繋いでいただいて」と開口一番、場を和ませてくれた武村佳佑さん。季節感のあるチェックのセットアップがとてもよくお似合いでした。現在はインナーメーカー「株式会社アズ」の東京支店を拠点に、その手腕を振るっています。この日は取材のためにわざわざ東京から駆けつけてくれました。ご対応いただき、本当にありがとうございました!

(ABOUT 株式会社アズ)

株式会社アズは、昭和13年創業の大阪発のインナーメーカー。大分県と熊本県の2拠点に縫製工場を所有。糸の企画開発にも積極的に取り組み、新素材の特許も取得している。現在は百貨店をはじめその販路を拡大、直営店に自社のECサイトも開設中だ。行き届いた生産管理のもと生み出される商品は、多くの人から愛されている。

こだわりの肌着作り一筋で、国内の肌着業界を牽引してきた同社。夏はステテコ、冬はラクダ、その2つの代表的な製品は、今も業界の中で有数のシェアを誇ります。しかしながら、アイテムの特性上ユーザーの多くは60代以上のリピーター。若い世代へもアプローチしていくことが、ひとつの課題でもありました。

「自社の強みは下着に最適な素材を、紡績メーカーやニッターさんと直接連携し作れるということです。そしてその素材の素晴らしさを、若い人たちにも広く伝えたいと思いました。私と同世代の友人に、これ着てみてって商品をあげると“ええなぁ”って気に入ってくれることが結構多くて」

手前味噌ですが……とやや控えめの関西弁で、武村さんは話します。そんななか、創業80周年を迎えた2018年に何か新しいことを、との思いからスタートしたのが「TAKEMURA」です。

「最初は武村メリヤスという名前やったんですけど、世界への展開も視野に入れて英表記のTAKEMURAに。そしたらそれが結果的に自分の名字そのままになってしまい、会長(父親)からは“なんやねん! 出しゃばんなや”と突っ込まれてしまいました(笑)」

18年前から展開中


新商品の開発にアイデアを絞った武村さん。そこで目をつけたのが、2002年から百貨店を中心に展開してきた、両面パイルの下着でした。シニア層から高い支持を得ており、「これでないとダメなんです」という人が地方にも多数。そのシリーズ名を「ソデス」と言います。

名前の由来は、この生地を生み出している編み機のモデル名。しかし、その出自を尋ねると1964年まで遡ることに。なんとこの編み機、今では日本にたったの3台しかないというのです。

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日仏ハーフの編み機が作る両面パイル

その真相を探るべく、お話を伺ったのは生地商社「株式会社ドーコーボウ 」にて営業職に就いている柿本さん。およそ1年6か月前からソデスパイルの生産管理も兼務されています。「この子は、クラシックカーみたいなもんですから」と、ソデス編み機について気さくに教えてくれました。

柿本かおり氏

福井県鯖江市出身。2016年1月に株式会社ドーコーボウに入社、現在は営業部テキスタイル課に所属。

(ABOUT   株式会社ドーコーボウ)

株式会社ドーコーボウは、2006年10月に同興紡績株式会社の繊維事業を継承し設立された会社。所在地は大阪市中央区安土町。その前身から換算すると90年以上の長い歴史を持つ。“オンリーワン”のモノづくり精神を大切に、主に原糸販売・テキスタイル販売を基軸に営業中。

「フランスのソデス社から、1964年にうちの会社が輸入してきたらしいです」その一言から始まった、ソデス編み機の歴史探訪記。当時のフランスでは、当たり前にソデスパイルのバスタオルやガウンが生活の中に溶け込んでいました。時を同じくして、「タオル地を織り機ではなく、メリヤス編みで表現できたら面白いのでは?」と考えていた同社社長。ソデス編み機の情報を聞きつけるや、現地に調査員を送り込み、12台のソデス編み機を日本に仕入れたのです。

ソデス編み機って?


仏・ソデス社が取り扱っていた両面パイル編み機。現存するのは日本にある3台のみ。1日10~12時間稼働させ、編み出せる両面パイルは2~2.5反。通常の量産型編み機と比べると、わずか10分の1の生産量となる。その構造は複雑で難解。利益率上、時間とコストがかかりすぎてしまい復刻の意義を問われてしまう。現代の流れに沿わない、編み機界の異端児といえる代物なのだ。

大きな違いはシンカーの使用法

円周30インチの丸い縁は、1インチあたり13本の針が仕組まれている(よく耳にする“ゲージ”という単位はこの針の本数を指す)。その針一本一本を支えるのがシンカーだ。要は機械の背骨といったところ。ソデスパイルはこの部品を、針を支えるための役割だけでなく、両面パイルの編み立てにも使用する。もちろん、その形状や配列は特別仕様。熟練の職人による日々のメンテナンスが必要になってくる。

フランスでのパイル生地のシェア90%を誇っていたソデスパイル。しかし文化の違いから、日本での広がりは微妙。その魅力を消費者に伝えきることができなかったという柿本さん。

「初めはフランスに倣って、ガウンなどの衣料を中心にアイテムを展開していました。ただ、あまり受け入れられなかったんですよね。太い糸を使用した、かなり重量感のあるものだったと思います」

時は1970年代初頭、フランスのソデス社が倒産し、ソデス編み機の部品の調達が不可能な状況に陥ります。これを契機とし、同興紡績はソデス編み機を改良することに。目指したのは、これまでより軽い両面パイルを作れるようにすることでした。結果、計7台の国産ソデス編み機の改良に成功。1973年、「下着を作ったらいいんじゃない?」という発案により、国産ソデスパイルを使用した下着が晴れて誕生したのです。

日仏の技術が融合し現在の形となった、ソデス編み機。これにて一件落着か、と思いきや、今までその身を置いていたドーコーボウの前身「同興紡績」の自社工場が、経営方針の転換によって閉鎖。その後行き場を失い、国内のメーカーを転々と彷徨うことになりました。そんな2007年のある日、一人の機械マニアがその不運な状況からソデス編み機を救い出します。後編では、そのときの出会いのエピソードに加え、さらに改良を重ねたソデス両面パイル生地の魅力に迫ります。

TAKEMURAのパイルボクサーパンツ
裏表に飛び出たループそれぞれが“立つ”、両面パイルを使用。その特徴によりフンワリとした軽快な穿き心地を味わえる。伸縮性も◎。また、ウエストには“天スパン”を採用。ゴムのようなキツい締め付けを感じないのが魅力。M&Lの2サイズ展開。写真の新色オリーブは、ジェイアール名古屋タカシマヤとビギンマーケット限定。本体:綿80% ポリエステル20% / ゴム部分:綿90% ボリウレタン10%。3800円。>>>詳しくはこちら

(問)ビギンマーケット https://market.e-begin.jp/

※表示価格は税抜き

写真/mami sakoda 文/妹尾龍都

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