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民藝運動の父と呼ばれる柳宗悦が没後60周年を迎えた昨年。それを記念して現在『民藝の100年』という展示が東京近代美術館で開催されています。モノ好きの筆者、先日いそいそと美術館に向かい展示品を見ていると、とある植物が描かれた壺にすっかり心を奪われてしまいました。それは第13回目のビギニンの舞台、佐賀県唐津市が世界に誇る唐津焼の陶器でした。

いま話題の民藝の世界とも関係が深い唐津ですが、皆さんならほかに何を思い浮かべるでしょう。ユネスコ無形文化遺産にも登録された唐津神社の秋季例大祭「唐津くんち」、透明な輝きと歯ごたえのある美味しさで有名な「呼子のイカ」、日本三大松原のひとつ「虹の松原」などなど。人気観光スポットの上位に必ずしもランクインするわけではありませんが、文化に自然、そして食も、さまざまな分野において魅力が多い地域です。

唐津の一大イベント「唐津くんち」では、14台の曳山が旧城下町を巡行する。 最も古い1番曳山刀町「赤獅子」が製作されたのは、なんと文政2年(1819年)!

そんな唐津ですが、10年ほど前から化粧品を軸とした新たな美健産業の集積地を目指す“コスメティック構想”なる動きが進められているのだそう。

なぜ、唐津がコスメ?

頭に浮かんだ疑問を解決すべく、九州地方を中心に浄水器やウォーターサーバーを販売している水事業会社「九州シグマ」の高柳幸介さんのもとへ。日本のコスメティック・クラスター(※後述します)である唐津の地の利を活かし昨年コスメブランド「BEFORE.(ビフォー)」をスタートさせた人物で、一本6役の機能を持つシュワシュワ泡立つエッセンスパックをリリースしました。今回は唐津×コスメの謎に迫りつつ、高柳さんが唐津でいかにして製品を開発されたのか、そのストーリーをご紹介します。

今回のビギニン

株式会社九州シグマ 代表取締役 高柳幸介

1979年佐賀県唐津市生まれ。大学卒業後から約4年後、父親が創業した株式会社九州シグマへ。専務として12年間キャリアを重ね、佐賀県小城市を拠点とする飲料メーカーに転職。2020年、父親の後を継ぎ九州シグマの代表取締役に就任した。野球、アイスホッケー、サーフィンなどスポーツ好きで、高校時代には甲子園にも出場経験あり。

idea:
ずっと同じ商品を売っている。それが嫌だった

インテリア業界や飲食業界など、20代前半に多ジャンルの職種を経験された高柳さん。本人曰く大学卒業後はいわゆる地に足が着いていない状態だったんだとか。高柳さんが26歳のとき、そんな姿を見かねた父親から「九州シグマで働け!」と声がかかります。

「当社は創業から一貫して同じ水関係の商材を取り扱っていました。一つひとつの商品の単価も高く、ニッチ層に対してしか自社のプロダクトを紹介できない。私はそれが嫌だった。当時は父の仕事を引き継いでいるだけだという感覚だったので、『なんの仕事をしているの?』と友人に聞かれても胸を張って自分の仕事の内容を伝えられなかったんです」。

「自分発信の仕事をしたい」という思いを抱えながら仕事と向き合う日々。入社して10年を過ぎた頃、そんな高柳さんに転機が訪れます。きっかけは佐賀県小城市を拠点とする飲料メーカーから「炭酸水が出るウォーターサーバーを作りたい」という相談を受けたこと。結局その企画は実現に至りませんでしたが、高柳さんの知識と経験が評価され、その会社の東京支社で企画・営業担当として働き始める流れになりました。

「次から次にユニークなフレーバーの炭酸飲料を発売する会社で九州シグマとの違いを痛感しました。しかも2年間で売り上げが約40億円も伸びる成長期だったこともあり、ビジネスに対する価値観も変わったんです。佐賀が拠点でもビッグビジネスができるんだと思ったし、なにより営業先のクライアントから『面白いことをやっている会社だね』って言われることが多くて、それに憧れました。働いているうちに『九州シグマも!』っていう考えになっていったんです」。

ちょうど同じタイミングで、美容業界に精通した姉の美砂さんから、高柳さんの元へ一本の連絡が入ります。九州シグマでコスメ事業を立ち上げよう!

右が姉の美砂さん

「唐津のコスメティック構想については、姉から聞くまで全く知りませんでした。へぇ〜って感じで(笑)。私の気持ちも家業に向いていたし、コスメ事業を立ち上げることを大前提に九州シグマに出戻ったんです」。

trigger:
知らないうちに環境は整っていた

いつか誰もみたことのないような化粧品を作り、多くの人に良質な美容を体験してほしい。そんな美砂さんの夢と九州シグマに対しての高柳さんのモチベーションが重なりスタートした、「ビフォー」のプロジェクト。追い風となったのは、コスメを取り巻く恵まれた環境が地元に整っていたことでした。その鍵を握るのは株式会社ブルームです。代表取締役で唐津×コスメの仕掛け人でもある、山崎さんにお話を伺いました。

株式会社ブルーム代表取締役 山﨑信二

1957年生まれ、佐賀県唐津市育ち。ハイブランドのアパレル・コスメ系バイヤーとしてキャリアを積むなかでコスメに関する輸出入にビジネスチャンスを見出し、検査機関設立を目指して独学を開始。自らのコネクションを活かしてアメリカの検査機関を見学して回るなど、日本よりも進んだ業界の知見を獲得、1993年「ブルーム」を創業。

「ブルーム」では化粧品輸出入、および品質管理の代行サービスを行っています。日本で唯一の化粧品に特化した理化学試験機関、ブルーム・ストラテジー・ラボラトリー(BSL)を有する会社として業界での認知度が高く、コスメに関するありとあらゆる成分検査の依頼が世界各国から寄せられています。

そして2013年11月にはコスメティック産業の集積と雇用の創出に寄与することを目的とした団体、ジャパン・コスメティックセンター(以下JCC)が唐津に誕生。山﨑さんは現在JCCの代表理事も務めています。

「唐津のコスメティック構想のモデルは、フランスにある世界最大の化粧品産業クラスター『コスメティックバレー』です。フランスの化粧品原料製造大手『アルバン・ミュラー・インターナショナル』の社長が唐津市を訪れた際、唐津の環境と土壌があればアジア市場の強力な拠点となれると確信されたことが契機となりました。私は唐津のコスメティック構想の実現と拡大を目指し、構想の初期段階から現在まで唐津で行うコスメ事業を推進しています」。

有田焼で専用の器を製作するなど、海外向けにもコスメティック・クラスター唐津をアピール

唐津でコスメ事業を行えば、唐津の産業がもっと潤う。山﨑さんは唐津のコスメティック構想を実現することで、地元を盛り上げ、地元の雇用も増やしたいと語ります。なぜ“唐津=コスメ”なのか。改めて山﨑さんに質問をぶつけてみました。

「まず唐津はマーケットが広い中国や美容大国・韓国と近い。広大な農地と豊かな天然資源もある。そうした土地の利がコスメ産業を行う上で優位に働きます。また輸入から出荷までを唐津の中でまかなえるため輸送時間やコストも抑えられるんです。特に弊社と同じ敷地内にある松浦通運さんの存在は大きいと思います」。

ということで、取材班はブルームから歩いてすぐの松浦通運へ突撃! 同社は1944年創業の老舗運送会社。通関士の資格を持つ江上正彦さんと、現場を取り仕切る小松幸基さんにお話を伺いました。

松浦通運株式会社
左)営業本部 部長 兼 物流サービス部 部長 江上正彦  右)物流サービス部 物流サービス課 小松幸基

松浦通運がコスメティック構想で担う業務は大きく3つ

唐津発着で世界各地への輸出入が取り扱えること。また同じ建屋内に保税蔵置場(税関長から許可を得た外国貨物を置くことができる場所)を所有しており、まだ税関の輸入許可が下りていない状態のコスメを港から輸送し、一時的に保管することができます。

 

通関業務ができること(=様々な貨物の輸出入を税関に申告すること)。税関長からの許可が必要な業務で、ブルームが成分分析・試験検査した化粧品類を仕入先企業の依頼(委任)を受けて通関します。

 

薬事法に定められた流通加工業務ができること(※ブルームの化粧品製造所として)ブルームで成分分析・試験検査された化粧品類について、輸入した化粧品の化粧箱、容器、液体商品に不純物がないか等の検品、国内用の法定表示ラベルの貼付、製品の箱詰めと国内発送をワンストップで行えます。

「ブルームさんから依頼を受けて、20年近く前からこの一貫したシステムを作り上げてきました。最初は苦労苦労の連続で。会社としての売り上げも追求しなければならないなかで、何度もやり方を見直して現在の状態までこぎつけました」とシステム導入時の状況を教えてくれたのは小松さん。

江上さんからは、新たに唐津でコスメ事業を始めたい人にとって力強いコメントをいただきました。「通常なら別々の企業や場所で行う業務を当社が一手に引き受けられます。ブルームさんとの距離も近く密なコミュニケーションを取れますし、当社には仕事の精度が高く信頼できるスタッフも揃っている。化粧品類の輸入や国内出荷に対して万全の体制が整っています」。

当初は商品企画ばかりが先行していた九州シグマのコスメ事業は、両社の協力を仰ぐことで法律や物流のハードルを飛び越え一気に現実味を帯びていきます。しかし、ここからが本題。韓国の生産工場と一緒に開発に取り組みますが、予想以上に時間がかかってしまったのです。

後編:繰り返される「棄ててください……」

BEFORE. / bubble essence pack
整肌成分CICAを配合、一本で6役(美容液・乳液・パック・化粧水・マッサージ・保湿)を担うユニセックス化粧品。本製品特有の美容成分バブル浸透システムにより、塗ってから約60秒後にとろっとしたジェル状の美容液が炭酸のように発砲し肌全体を包みこむ。盛り上がった泡を手で押し込むようになじませれば簡単に毎日のスキンケアが完結。爽やかなグリーンローズの香り。5,390円(税込)

BEFORE. / CBD balm
話題の「CBD」を配合したバーム。CBDはヘンプに含まれる主要成分のひとつで、心身ともにリラックス効果を得られることから世界的な注目を集めている。こめかみや耳の裏、手首、首筋、肩などになじませて使用。質の高い睡眠にも効果的だ。さらにシアバター、ホホバオイル配合で保湿効果もあり。6,930円(税込)

(問)九州シグマ コスメ事業部

https://cosme-before.com/


写真/松山タカヨシ 文/妹尾龍都

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