【“通”になれるポロシャツ講座】起源から国による違い、左胸のワンポイントまで!
【前代未聞の“半袖襟シャツ”はフランスのテニスコートで生まれた】
誰もが当たり前に着ていますが、ポロシャツ誕生以前はまず「半袖襟シャツ」など存在しなかったワケで。スポーツウェアから夏の定番服になるまでの変遷をプレイバック!
Q1.ポロシャツってなに?
A. 1933年。テニスウェアといえばゆとりのあるクラシカルな長袖シャツだった時代に、ポロシャツは異端児として登場した。考案者はラコステの創始者であり、フランスの看板を背負うテニス選手であったルネ・ラコステ氏。彼は後に、試合シーズンによく“風邪をひく”原因が吸汗性の悪いシャツにあると思いあたり、それがポロシャツ開発の一因になったと回想している。
ちなみにポロシャツの語源については、ラコステ氏がポロ選手の着ていた半袖のニットウェアに衿を付けたのがプロトタイプだから、という説がある。
話を戻すと、長袖シャツを着るのが当然だった時代、突如として鹿の子のタイトなポロシャツを着てコートに立ったラコステ氏は当初、白い目で見られた。しかしすぐに高い機能性が認められ、ポロシャツは多くのスポーツへ浸透。“衿付き”半袖シャツを世に広めた立役者は、ポロシャツだったのだ。
Q2.なぜ鹿の子素材が多いの?
A. 1933年にルネ・ラコステ氏が考案し、製品化した元祖ポロシャツ“L1212”の素材がまさに鹿の子だった。鹿の子は吸汗性や通気性に優れるため皮膚呼吸を妨げることなく、また伸縮性に富むので動きやすい。
鹿の子はオリジンの仕様であるとともに、ポロシャツの機能性素材として今もなお理想的なのだ。ちなみに、鹿の子は訳語ではなく、日本独自の呼び方(海外では“ピケ”と呼ばれている)。仔鹿の背中の斑点を彷彿させる日本伝統の染め技法“鹿の子絞り”のそれに、編み模様が似ていることからこう呼ばれる。
鹿の子の語源である“鹿の子絞り”がコレ
着物の伝統的な染め技法、鹿の子絞りは、格子の中央に円形の模様が浮かび上がる、立体的な表情が特徴。まだらに模様が入ったものはたしかに、仔鹿の背を思わせる。
Q3.左胸のワンポイントはなに?
A. これもオリジナルであるラコステのポロシャツに由来。’30年代当時の衣服は表から見えない箇所にロゴを印すのが常識だったが、これを初めて破ったのがラコステだった。パッと見てブランドが判別できるその服は、クオリティを証明するものとして販売促進にも貢献(同時に多くの模造品を生んだのだが)。
以降、さまざまなブランドがこのアイデアを採り入れるようになった。余談だが、ラコステのロゴがワニなのは、創業者のプレースタイルを称するあだ名から。“左”胸にロゴを入れるのは、勲章などをここに提げる習慣に由来するといわれている。
Q4.国によって個性はあるの?
A. あくまで傾向としてだが、お国柄は表れる。まず、わかりやすいポイントとしては裾の違い。詳細は下コラムを参照していただくとして、フランスブランドのそれが前身頃と後ろ身頃の長さが揃っているのに対して、アメリカブランドのものは後ろ身頃が長めにとられていることが多い。
また鮮やかな発色の持続を求める前者に対して、後者は色褪せや毛羽立ちも味として生かす傾向が見られる。ちなみに英国ブランドのポロシャツは、縁取りが施された装飾的な鹿の子ポロやハイゲージのニットポロが有名。
裾丈の違い
前身頃と後ろ身頃の長さが同じ、すっきりした裾回りのフランスのポロシャツに対して、アメリカのそれは、後ろが長い。後者にはパンツインの際、裾が飛び出すのを防ぐ効果が。※ポロシャツはともにスタッフ私物。
エイジングの違い
ネイビーのポロシャツで比較。フランス代表の一枚は、洗濯を繰り返しても色褪せが目立たない。一方のアメリカ代表は、着込むにつれ自然な色褪せや毛羽立ちが現れ、ラフな味わいが増す。ここには、経年変化を防ぐのか、楽しむのかという思想の違いが見え隠れする。
もっと知っ得コラム
ポロシャツをもっと知るための素材&加工用語集
ポロシャツの表情は、編み方による違いのほか原料やその仕上げによっても変わる。ここではよく目にする4つの素材&加工を解説しよう。
①マーセライズコットン
綿糸や綿布に張力を与えながら薬品でアルカリ処理することによって、絹のような光沢感を与える加工をいう。上品な風合いになるとともに、染色性が向上するのもそのメリットだ。シルケット加工とも呼ばれる。
②スーピマコットン
衣類や寝具に用いられる高級超長綿の代表格であり、柔らかな風合いと光沢感が持ち味。その綿花は、米国南西部アリゾナ州やニューメキシコ州などの乾燥地帯で栽培される。吸湿性や耐久性に優れているのも特徴。
③シーアイランドコットン
繊維長の長い、上質とされる超長綿の中でも最高峰として名高い原綿。アメリカ東南部の海岸地方や、近海の諸島で栽培される。その糸で編まれた生地の肌触りは、極上の滑らかさ。シルキーな光沢感も魅力だ。
④スイスコットン
生地の風合いは糸を引く機器の性能にも左右される。スイスコットンとは、世界最高の精密機器製造技術を誇る、スイスで引かれた糸の呼称。精密な機器で引かれた糸は均一性が高く、シャリ感やしなやかさに富む。
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[ビギン2025年10月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。