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首都を守る服/【COVEROSS】と語るミライ服vol.7

OpenAIがChatGPTを公開して以降、急に身近な存在となったAI。ナノテクノロジー、コールドフュージョン、タイムトラベル……。先端技術が今、実際のところどこまで進んでいるのか、研究者でもない私たちが知る機会はなかなかない。

一方、私たちが毎日着ている「服」も、最近ずいぶん進化しているような気もするが、相変わらず夏は暑く、冬も外へ出たくない。洗濯も面倒だ。しかし、もう少しすると35℃の真夏でも快適にゴルフができて、氷点下でも外出がしたくなる、しかも洗濯不要! そんな服が当たり前になるかもしれない。

そんな“新しい当たり前”を作らんとするブランドが、機能服のテクノロジーを日々前に進め、ファッションだけでなく産業界や行政からも話題を集めている「COVEROSS®(カバロス)」。我々の「衣」がこの先どこに向かって、今はどこまで来ているのか? Beginは密着取材を通してカバロスに聞いてみることにした。

日本の大動脈・首都高を守る人を守る服

2023年、2024年と連続で観測史上トップを更新する猛暑となり、2025年も猛暑が予想される今日。熱中症対策は、叡智を集めて対処すべき社会課題となっている。そんななか「COVEROSS®(カバロス)」より、衣類用の保冷剤を用いたまったく新しいコンセプトの空調服®×COVEROSS®「ULTRA FREEZER CORE(ウルトラフリーザーコア)」が登場した。長時間の使用に耐えうるその特別な保冷剤の開発を手がけたのは、「WILLTEX(ウィルテックス)」。布が発熱する特許技術によって実現した電子レンジバッグ「WILLCOOK®」で2024米国CESベスト・オブ・イノベーションアワードを受賞した、「温度」にまつわる製品のプロフェッショナルだ。

トートバッグとリュックの2wayで使える「WILLCOOK PACKABLE」は、バッグ内部に収まるキルティング状の発熱シートによって加熱が可能。発熱シート単体では約10分で100℃に達する性能を持ち、車やパソコンのUSBポート、市販のモバイルバッテリーからの給電にも対応。アウトドアや災害時にも頼れる1台だ。

そしてその“ミライの空調服®”は、熱中症対策の新兵器として既に現場へ配備されている。今回はいち早くこれを採用した会社であり、日々、首都高速道路の維持・補修を行なっている首都高メンテナンス神奈川にて取材を実施。使用される現場の声と開発者の声を通じて、熱中症対策の最前線に迫る。

密着取材するのは……

hap 代表取締役社長 鈴木 素さん

繊維商社に7年間勤めた後、2006年に「hap(ハップ)」を設立。アパレル製品のOEM等を手掛けながら、世界初の快適多機能素材「COVEROSS®(カバロス)」シリーズを開発する。2023年1月には、さまざまな機能性をカスタマイズしながら付与・除去できる後加工技術を駆使した「カバロスのサーキュラーファッション」が第11回技術経営・イノベーション対象【内閣総理大臣賞】を受賞。座右の銘に「一日一生」。」

ミライ服共犯者 No.8

WILLTEX 代表取締役社長 上田彩花さん

繊維の副資材を扱う商社を経て、電子基盤を設計する会社へ。その経験を活かして2018年、会長とともに「温度で社会課題を解決する」を理念に掲げウィルテックスを立ち上げる。モットーは「誰かのために、人のために」。

ミライ服共犯者 No.9

首都高メンテナンス神奈川 生麦事業所 所長 工藤美彦さん

日本の大動脈である首都高速道路の維持管理、補修を手がける企業の事業所長。2024年7月より現職を務め、さまざまな工事を行う職員たちを総括する。以前の部署では自身も現場に出ていたという。好きな言葉は「一期一会」。

熱中症対策の常識を変える!
空気を冷やして体を冷やす“着るエアコン”

「年々夏の暑さが増していくなか、職員の命を守るためにも熱中症対策は欠かせません。いいものがあれば積極的に取り入れ、ファン付きウェアも誕生当初から活用してきました」。そう語るのは「首都高メンテナンス神奈川」生麦事業所の工藤所長。首都高速道路といえばいわずもがな日本の大動脈であり、同社は不具合があればいついかなるときにも対応しなければならない重責を負う立場にある。

高速道路を下から見上げると作業用の足場や梯子が見える。ここからダクト状の橋げたの中へと入り、補修を行うのだという。

「ここ数年は特に酷暑を実感しています。我々は特殊な環境下で作業をすることが多く、たとえば高速道路を見上げたときに見える道路の真下、橋げたというのですが、ダクト状の密閉空間に入って補修作業を行わなくてはなりません。道路の真下というのもあって、夏場は温度が50℃〜60℃くらいまで上がることもあります。そこで作業するので、対策をしなければとてもじゃないけれど仕事ができない。だからウェアだけでなく、製氷機を用意して現場へ氷を持っていける環境を作るなど、これまでも複数の熱中症対策を行ってきました」。

じつは、これまでも一般的なファン付きウェアの下に保冷剤入りのベストを着込んで作業にあたっていたとのこと。しかし、たちまち溶けてしまい、交換のために保冷剤を入れるための大きなクーラーボックスを携帯していくのも大変……。そこに現れたのが、持ちのよい特別な保冷剤を用いたベスト“ウルトラフリーザーコア”だったというわけだ。

工藤所長とともに取材に協力いただいた首都高メンテナンス神奈川の佐々木克利さん(右)と、赤松賢一さん(左)。

ウルトラフリーザーコアは、生麦事業所だけで既に50着弱を配備。4月に導入したばかりなのでまだ実戦での活躍の場は少ないが、気温が27〜28℃に上がる予想があった日にこれを着用して現場に臨んだというスタッフからは、「冷え過ぎるくらい」という声があったという。またグループ会社の職員からは「事務所の空調設備が故障して暑く、試しに着てみたら快適に過ごせた」との意外な声もあったとか。

さて、そんな“ミライの空調服®”は、従来の保冷剤を用いた服とは一線を画す設計がなされている。それは“外部からファンで取り組んだ空気そのものを冷やし、隅々に行き渡らせる”というもの。いわば、着るエアコンである。ハップ鈴木社長は、次のように説明する。

中央の青いパッケージが特別に設計された保冷剤「ウルトラフリーザーアイスパック」。左右のファンから取り込んだ空気は保冷剤の入った中央を通り、冷えた空気が服内を巡る。

「背中の左右のファンから取り込んだ風を背中央の保冷剤に当て、冷えた空気が、身頃のみならず、背面を通りフード内にも回る仕組みになっています。またネックを通った冷たい空気が、鼻にも入る。冷たい空気を吸えるんですね。単に涼しいというだけでなく、熱中症の原因である深部体温の上昇を効率的に抑えられるのが、ウルトラフリーザーコアの特徴です」

ボディの素材にはサウナスーツのような、通気性がなく断熱効果のあるアルミ蒸着したポリエステルクロスを使用。空気を冷やす設計があってこその、逆転の発想である。

一般的な冷感素材は、接触冷感やQ-max値(物質に触れた際に感じる瞬間的な冷たさを数値で表したもので、数値が大きいほどひんやり感じるとされる)といった“肌触りの瞬間的な涼しさ”が評価の中心だが、ウルトラフリーザーコアが重視するのは衣服内空間全体の温度と湿度環境。つまり、「深部体温の上昇抑制」や「発汗量の最小化」など、熱中症の根本的なリスク低減につながる生理反応に焦点を当てる。九州大学発のAIスタートアップ企業「aiESG社」との連携のもと、こうした熱中症リスク軽減や疲労軽減の影響を科学的に定量化する評価プロジェクトを試験的に行っており、プレテストではあるものの、着用者の身体的負担軽減を裏付けるデータが得られた(※)という。

※aiESGの分析では、一般衣類・一般空調服・COVEROSS®製品の3種を比較。次の傾向が確認された。皮膚温度:カバロスウルトラフリーザーコアが最も低温を維持し、冷却効果が高い傾向。衣服内温度:約35°C以下で安定し、急激な温度上昇を抑制。発汗量:最も少なく安定、湿度も50%以上を維持。Cooling Efficiency Index(CEI):冷却効果/発汗量の比率で、最も高い性能を示す。*試験方法:常温環境下(約23℃40%RH)にて、椅子位で安静にした被験者が試料を着用。その後、測定環境(約30℃50%RH)へ移動し、有風下、光照射下にて椅子位で45分間安静した。風速1.5m/sec。ソーラーライト光:約800W/M2

「気温が35℃くらいで着用した際に、3時間〜3時間半ほどは冷たくできる設計になっています。瞬時に局所を冷やすのではなく、より長い時間、冷たい空気を行き渡らせることをゴールに設定している。ウィルテックスさんには、長時間冷たさをキープし、かつ凍らせるのに時間のかからない特別な保冷剤をオーダーしました」。

保冷剤の名は“ウルトラフリーザーアイスパック”。カバロスからのオーダーをどう実現したのか? 開発を担当したウィルテックス上田社長が答える。

「保冷剤というとポリマーの入ったジェル状のものを想像されると思いますが、ウルトラフリーザーアイスパックは主に水と塩類で出来ています。一般的な保冷剤だと、だんだん溶けたポリマーが氷を覆ってしまい、冷たさが感じられなくなってしまうんです。ですがこちらの保冷剤は液体なので、常に対流が起こる。氷が溶け切るまで冷たい液体が対流するから、長時間にわたって冷たさが持続するんです。

ちなみに保冷剤は配合比率によって設定温度を変えられるのですが、こちらは空気を冷やすという目的や長持ちを優先して、比較的温度の高い0℃帯を採用しています。また外気温に影響されにくいよう、パッケージは空気層を設けたレイヤー構造に。一般的な保冷剤だと固めるのに倍ほどの時間が掛かりますが、6時間半ほどで固まるのもウルトラフリーザーアイスパックの特徴です」

冷たさをどの程度に設定するのか、どのくらい持たせたいのか。断熱をして持ちをよくするか、断熱せずに冷感を高めるか……。中身はもちろん、パッケージとの組み合わせを含めた多彩なアプローチによって、保冷剤の特性や性能は決まる。あちらを立てればこちらが立たずの矛盾した世界で、いかにベストな着地をさせるかにプロフェッショナルの腕が問われるというわけだ。

現場で愛されるウィルテックス製品

 

 

ウィルテックスにとって首都高メンテナンス神奈川は、じつは創立前からの付き合いがある最古参顧客だという。納入第一号製品は、「そもそもは寒い冬のグランドで野球をする息子のために開発した」という布ヒーター付きのコート。冬場の作業用ウェアとして採用され、これがウィルテックスの事業化へ進む発端となった。

 

首都高メンテナンス神奈川はその後、ウィルテックスを代表する製品である電子レンジバッグも災害時のサバイバルバッグのいち装備として採用。大きな災害が起こった際、首都高速道路はいち早く緊急車両を通さなければならない。道路が損傷すれば一刻も早い復旧が求められるため、職員は必ず現場へ駆けつける必要がある。いかなる状況でも文字どおり生き延び、健康を保って現場へ駆けつけることができるように、非常食や件の電子レンジバッグ、折り畳み式ヘルメットなどを含むサバイバルバッグを全社員に配布し、常備してもらっているというわけだ。余談だが、離乳食を温めるなど普段から活用している社員もいるのだとか。

 

カバロスと株式会社空調服がタッグを組み、ウィルテックスが保冷剤の開発を担当した件のベスト「ウルトラフリーザーコア」も、そんなご縁で首都高メンテナンス神奈川の知るところとなったのだ。

ミニマル&スタイリッシュ。
だから日常使いでその恩恵に預かれる!

着用のインプレッションをいただいた首都高メンテナンス神奈川の赤松さん。

「ヘルメットの上からフードを被ると、ヘルメットの中にまで冷気が入ってきて涼しい。こと高速道路下の橋げたの中での作業は本当に過酷で、風のない50℃、60℃の空間で、10分作業しては10分休んでまた作業するという世界。このベストの存在は心強いですね」

ウルトラフリーザーコアについてそうインプレッションするのは、首都高メンテナンス神奈川 生麦事業所の課長を務め、現場で作業することも多いという赤松賢一さん。マラソンを趣味とし、フルマラソンも走るほどのアスリートが“過酷”と称する現場。我々の生活を支えるために日々、大変な仕事に当たっている人たちがいる事実に、あらためて頭が下がる。「職員の命を守るために、現場で安全、快適に過ごしてもらうために、今後もありとあらゆる手で熱中症対策に注力したい」とは工藤所長の談だ。

ユニセックスに着られるデザインもウルトラフリーザーコアの特徴。タウンウェアとも馴染みがよい。

さて、そんな過酷な現場の最前線で活躍する“ミライの空調服®”ウルトラフリーザーコアだが、その実、デザインはミニマルにしてスタイリッシュ。じつは市販もされていて、我々もその恩恵に預かることができる。フィッシングにキャンプに、フェスにスポーツ観戦に、はたまたお散歩に。夏のあらゆる屋外活動に重宝するほか、屋内で上手にエアコンと併用すれば、電気代を抑えることも可能だ。ハップ鈴木社長が展望を語る。

「じつはいま、ウルトラフリーザーコアの技術を応用した、冷たくも温かくもできるウェアの開発を進めているんです。もし日本中の人が、クルマに乗っているとき、家やオフィスにいるときにエアコンを止めてそのウェアを着たら、経済効果が4兆円を超えるというAIの試算も出ています。空間全体を空調するよりも、各々が衣服内で空調するほうが効率がいいんです」。

電気代が抑えられるということはすなわち、CO2の排出量の削減にもつながる。安全、快適を手にしながら、地球環境の保全にも貢献できるというわけだ。

ウルトラフリーザーコアを着て夏を涼しく、快適に過ごすことは、ミライ共犯者としてあるべき地球のミライへ向けた開発をアシストすることにもつながる。そんな都合のイイ話に乗らないなんて手、ある?

株式会社空調服とのタッグによる
まったく新しい冷却ウェア

ULTRA FREEZER CORE ウルトラフリーザーコア

熱中症リスクを低減するべく、株式会社空調服、ウィルテックスや信州大学、九州大学の協力も得て開発したかつてないウェア。ファンで取り入れた空気を特別に設計した保冷剤“ウルトラフリーザーアイスパック”に当て、冷風を衣服内へ行き渡らせることで、効率よく体を冷却する。なおファンとバッテリーを外し、洗濯することも可能だ。2個のウルトラフリーザーアイスパック付属。一般販売価格4万9800円。
https://coveross.jp/shop/product_categories/heat

問い合わせ先/カバロス
https://coveross.jp/
info@hap-h.jp

※表示価格は税込みです

BeginとCOVEROSSが開発した商品を見る
COVEROSS W/ICE PACK Tee
https://market.e-begin.jp/pages/coveross_w_icepack-t

COVEROSS W/HEAT SHIELD DENIM
https://market.e-begin.jp/pages/coveross_w_heatshield-denim


写真/大見謝星斗 文/秦 大輔

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