【Deep歌謡の世界】埋もれさせるには惜しい珍盤も。より深くい昭和歌謡の世界へ…
もっと昭和歌謡を知るために……
Deep歌謡の世界
よほどのマニアも知らない超珍盤を持ち寄ったタブレット純さんと刑部先生が、沼にどっぷりハマりたい人のため時間を延長して対談。昭和歌謡はかくも深いものなのです!
「どういう意図で出したのか想像するのが楽しい」
タレント タブレット純さん
昭和49年生まれ。27歳のときに「和田弘とマヒナスターズ」にボーカルとして加入。グループ解散後、歌手や芸人として活躍し、「ムード歌謡漫談」という新ジャンルを確立。
「顔で買い、聴いてクラクラ……昭和歌謡のダークサイドです」
日本大学 商学部教授 刑部芳則さん
昭和52年生まれ。専攻する日本近現代史関連の著書が多数あり、最近刊行された『昭和歌謡史』(中公新書)では、作詞家、作曲家、歌手らが残した膨大な資料を用いて昭和歌謡を実証的に考察。
埋もれさせるには惜しいレアなレコードを慈しむ
タブレット:座談会で見せていただいた昭和初期の貴重なレコードのほか、刑部先生はまだすごい盤をいっぱい持ってきていらしたんですね。ジャケットを見るだけでお腹いっぱい(笑)。
刑部:タブレットさんがお持ちのものもすごい。こうした珍盤と出会えるのも、昭和歌謡発掘の面白さですよね。
タブレット:お互い知ってる盤も多いと思うんですが、ボク、この「父母を偲ぶ/ネオン妻」は知りませんでした。お寺が背景にあるから宗教系?
刑部:演歌です。どうも真ん中に写ってる住職がプロデュースしたもので、歌手の女性は歌詞カードに小さく映ってます。クイーンレコードという自主盤(※1)専門の会社から出たものですね。
タブレット:コロムビアやビクター、テイチクといった大手でも、昔は自分で買い取りさえすればレコードを出してもらえたんですよね。特盤とか委託盤とかいわれるやつで、ジャケット左上の番号帯からなんとなくわかる。あれって審査とかあったんでしょうか?
左上の番号帯で委託盤か通常盤かをジャッジする
刑部:お金さえ出せばよかったんじゃないでしょうか。
タブレット:自主盤や委託盤だと、会社の社長とかが趣味で出すほか、スナックやクラブに勤めている人が、タニマチに出してもらうパターンも多い。
刑部:私はそういうのを、女性歌手ならホステス歌謡、男性ならホスト歌謡と呼んでいます。ジャケットの背景も酒場だったりするんですよね。とくにホステス歌謡の女性たちは、お顔が“いい味”で、中古レコード屋で見かけるとつい買ってしまう(笑)。
タブレット:ルーキー新一が出した「木屋町ブルース」のように、かつて一世を風靡した人が起死回生を狙って出した盤も多いですよね。ぴんからトリオの「女のみち」のような成功例があるから、夢を見てしまうんでしょう。
刑部:タブレットさんは『ローヤルレコード聖地純礼』という本を出していますよね。ローヤルレコード(※2)は委託盤専門じゃないけれど、出す意図が謎という意味では、あれも宝の宝庫(笑)。
タブレット:数多くの売れないレコードを量産した会社ですが、あそこも、ジャケ写真からして陽が当たっていない感じがして異様。でも、椿まみさんをはじめ、いい歌もけっこうあって、夜更けに飲みながら耳を傾けてると、今これを聴くのは地球上にボク一人なんだと思い、じ〜んとする(笑)。
刑部:確かに珍盤にもいい歌はある。この「心労」と書いて“つかれ”と読ませる盤はどう聴いても中条きよしの「うそ」のパチモノですが、とてもいい。こちらの「花街しぐれ」のB面に入ってる「いで湯化粧」もよかった。
タブレット:ボクと同じで、ちゃんとB面まで聴いてる! そういうのはホントに手に入れた者だけがわかる特権。だから買ってしまうんですよね〜。
刑部:この先、絶対にCDなどになることはありませんから。これからも一期一会を大事にしたいと思っています。
2人がオススメするDeep歌謡の入り口
「父母を偲ぶ/ネオン妻」は、ジャケットの写真が意味不明! 曲は演歌です。「木屋町ブルース」は、かつての売れっ子芸人が起死回生を狙って出した曲だったが、不発。「心労(つかれ)」は、中条きよしの次を狙って出した感じの曲で、なかなか聴かせる。「花街しぐれ」は、B面のほうが名曲らしい。「むろらんの夜」は、ローヤルレコード専属の椿まみの幻のラストシングル。タブレットさんは彼女の足跡を求めて室蘭まで取材した経験をお持ち。
※1 自主盤:レコード会社にお金を出して制作してもらうレコード。基本的に一般発売はされず、現在も中古のみ。
※2 ローヤルレコード:昭和40年代に、主にムード歌謡のシングル盤をけっこうなペースで量産したマイナーレーベル。
※表示価格は税込み
[ビギン2025年2月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。