埼玉県のThe Garageで発見! 逆張り店主がたどり着いた、ノータイでサマになる究極のシャツ【ナニコレ珍名品#6】
ビギンが日本全国津々浦々を行脚し、地方ショップの「オリジナル商品」を掘り起こす本企画。僭越ながら今年で創刊36年目を迎えるビギン、もはやどこにでも置いてありそうなセレクトアイテムに興味はございません。各ショップがウンウン悩んで考えた末に生まれる「ナニコレ⁉」なオリジナル商品にこそ、唯一無二の魅力が、ひいてはそのお店の「スピリット」が宿っているのです!
今回訪れたのは、埼玉県熊谷市の「ガレージ」。熊谷といえば〝暑い街〟で有名ですが、ココは地元の服好きから熱~い視線を送られ続けてきた名店。1969年に熊谷で創業したメンズ向けトラッドショップ「セレクトショップナミキ」をルーツに持ち、トラッドに一捻り加えたオリジナリティ溢れる服作りが光ります。
そんな服欲掻き立てられる店内は、一見トレンドに乗っかっている風で、掘れば店主の趣味全開の逆張りウェアが揃っていました!
今回お邪魔したのはココ!
ガレージは、JR熊谷駅の北口から徒歩3分の立地にあります。上越新幹線が停車するので、駅近には店が立ち並びますが、地方都市のような忙しなさはなく、家族連れでも気軽に立ち寄れるのんびりとした街です。ショップの外観は年季の入ったジャズ喫茶のような感じ。洋服店っぽくないし、入口もこじんまりしているので、危うく通り過ぎてしまうから要注意!
その前身は1969年創業の「メンズショップナミキ」。国内外からトラッド系アイテムを仕入れ、80年代には年商1億円以上も売り上げた地元の名物店です。ガレージという屋号を使うようになったのは、その頃から。一時期は熊谷駅周辺にグループ店が7店舗もありました。熊谷のアパレルショップの草分け的存在として、今も高い知名度を誇ります。
今の場所にショップを構えたのは2012年のこと。それまで取り扱い商品は他社のメンズガーメントが中心で、ニーズが第一優先のラインナップでしたが、オープンと同時期に独自商品の開発に力を入れるように。オリジナルブランドGarage.U.W(ガレージユーダブ、以下、ユーダブ)のアイテムを、数年がかりで充実させました。
先代の跡を継ぐのは、息子の並木徹也さん。1985年にオープンした川越店がクローズするタイミングで、2023年3月に熊谷店の店長に。ユーダブのブランドディレクターも兼任します。
ユーダブの製品は、全て並木さんが企画を担当しています。アイデアソースは、青春時代に影響を受けたカルチャー。とりわけ心を奪われていたのは、英国のファッション、ミュージック、ムービーなど。若かかりし頃は、スーツ専門店で仕立てた一丁羅の上にM-51のモッズコートを羽織り、イギリスが世界に誇るバイクメーカー、トライアンフのバイクにまたがって、仲間とツーリングを楽しんでいました。
英国のファッション、ミュージック、ムービーなど。10代~20代の頃はスーツ専門店で仕立てた一丁羅の上にM-51のモッズコートを羽織り、ヴィンテージのベスパにまたがって、仲間とツーリングするのが休日の楽しみだったとか。
20代中盤に差し掛かると、モッズとロッカーズの抗争を描いた「さらば青春の光」に感銘を受け、モッズからロッカーズファッションに傾倒。愛車のベスパはトライアンフに変わり、モッズコートはスタッズの付いたレザージャケットに。1980年代に流行したUKロックに心酔し、バンドに所属しベースをかき鳴らしていました。


「周りはアメカジって感じの時代でしたが、自分の好きなモノは気がついたらヨーロッパものばかり。自分で言うのもなんですが、天邪鬼なところがあるんですよ(笑)。ユーダブの洋服を企画する時も、トレンドを意識し過ぎないで、いわゆる”逆張り”の精神を大事にしています。自分が過去に見たり体験したりしたものからヒントをもらうことが多いですね」
ラインナップには、顧客のニーズを商品化したものも。リアルな着用シーンを想定されたデザインなのでワードローブになじみやすく、ガレージに来ればコーディネートが全身揃います。
並木さんが担当するのは、企画だけではありません。生地の調達やパターン指示、おまけに生産管理まで全工程を一人でこなします。このスタイルは、ブランドを立ち上げた2012年ごろから貫いています。
「商品ごとに、依頼するスタッフや工場は変えています。毎回チームを編成するイメージでしょうかね。刺しゅうを入れたいなって思ったら、自分で刺しゅう屋さんを見つけて商品を持ち込む、みたいな」
ですが、最初の頃はバイヤーとしてのスキルがなかなか洋服作りに通用せず苦労したそう。工場とのコネクションもなく、埼玉県の被服組合に登録されている番号に片っ端から電話をかけて探し出したんだとか。
「縫製工場に行って、洋服を作ってほしいとお願いすると、その服の生地はどこにあるの?と聞かれました。それくらい、何もわかってない状態だったんですが、いろいろと工場の人に教わりながら、服作りのいろはを覚えていきました」
名品FILEその1
コーラス ソロテックスⓇ カッタウェイシャツ

ユーダブの魅力は、クラシックなアイテムを機能素材やデザインなどで、現代風にアレンジしているところ。そして、その代表作がこちらのカッタウェイシャツです。
そもそもカッタウェイとは、イタリアンカラーの系譜を引き継ぐダンディな衿型で、ノータイを前提に設計されています。エレガントとカジュアルのバランスがちょうどいい塩梅だから、ジャケパンコーデにうってつけ。第一ボタンを開けるとオープンカラーのように衿が寝るので、抜け感のある大人の着こなしになります。
「基本的にはシンプルかつベーシック。襟元で抜け感を演出できるので、カジュアルスタイルにもジャケットのインナーにも着まわせるのが人気の理由です。さらには、定番品にして、毎年アップデートも欠かしません。ロングセラーという安心感がありますし、シャツにはその年ならでは微調整を施すので、特別感も申し分ない出来上がりなんですよね。」
カッタウェイシャツは定番品ですが、シーズンごとに生地をチェンジ。新作は薄手のツイル地で、リネンの一種であるラミーと、機能ポリエステルのソロテックステックス®を使用しています。サラッとした手触りが素肌に心地よく、程よい光沢もあって、隠しきれない上質な雰囲気がダダ漏れ。
おまけに、ソロテックスはスポーツウェアに使用されるほど伸縮性と耐久性に優れていて、イジーケアでシワにもなりにくいんです! 上品見えするのにデイリーに着やすいって、清潔感を意識したいビギン世代にとって最高じゃない⁉︎

肝心の首もと部分も、ちゃっかりアップデートしています。一般的に台襟の高さは一定ですが、こちらはあえて台襟の幅を広げて、手前から首筋にかけてなだらかに高くなる仕様に。並木さん曰く、台襟を高くすると、首もとが遊ばずにきちんとした着こなしに見えるんだそう。
さらには、肩にシャツがなじむので、動いた時にドレープが出来やすくなります。光と影によりコントラストが生まれて、立体的で美しいボディラインになるんですね。
文字で表現すると簡単なようですが、この仕様を採用することで、縫製の難易度は格段に上がります。襟が湾曲しているため、本体に縫い付ける時にズレが生じやすいのです。
CPOシャツからテーラードまでこの通り!
「イタリアンスタイルが昔から好きで、カッタウェイを定番化しました。ノータイでもサマになるベストな形を追求しています。今年は台襟を高くしてみたんですが、縫製の難易度も爆上がりで、工場さん泣かせに……(苦笑)。おかげでどんなアウターと合わせてもしっくりくる自信作になりましたし、カッタウェイなら人被りも避けられます!」
こだわりは、スリーブにも及びます。肩に袖の縫い付け位置が乗っかるようにパターンを徹底的に研究。イメージはハンガーにシャツを吊るした時のように、袖からストンっと下に向かって落ちる感じ。これを、並木さんは”両肩支点パターンニング”と命名しています。
アームホールは着心地を考慮して、広めの設定に。ドレスが得意なパタンナーと二人三脚で、数ミリ単位の調整を繰り返して到達した、渾身のフィット感です。
着てみると、ほら、ご覧の通り。肩や肩甲骨の辺りはピッタリと体のラインを拾いますが、背中から腰にかけてはややゆとりがあり、美しいドレープが出来ます。裾はフワッとヒップに掛かっていて、なんとも収まりのいい後ろ姿!
「背後にボリュームを持たせるためにダーツを入れてもいいんですけど、シンプルにしたくて、パターンでゆとりがでるようにしました。これくらいサラッと着られる方が、大人っぽいかなって思いますね」
パンツもあり!
並木さんがシャツの次におすすめするのが、ストレッチトラウザー。カッタウェイシャツに合わせてデザインされたモデルです。一見すると、テーパードシルエットの上品パンツですが、キレイな見た目に対して穿き心地はとってもイージー。腰回りはゆとりがあり、ウエストのサイドにはゴムを仕込んでいます。新作は、例年に比べて裾幅をややワイドに。流行のハイテクスニーカーのボリュームにも自然となじむようになりました。
「美脚効果も狙えます! シャツとパンツをセットで揃えていれば鬼に金棒ですね」
名品FILEその2
ウール コーデュラ® ハリントンジャケット

2品目にピックアップするのはハリントンジャケット。ゴルフ用のジャンパーとして開発されたバックボーンから、トラッドかつスポーティ。春先に活躍するアウターとしてこれからの時期に重宝しますが、こちらは着まわし力が段違い! 並木さんだからこそ編み出せたオリジナルの意匠により、アダルトな雰囲気がアップして、休日のカジュアルコーデに品をもたらす一枚に仕上げられています。
「ハリントンジャケットをリリースするのは、およそ10年ぶり。お客様からの要望で、カッタウェイシャツに合わせるアウターのバリエーションを増やしたくて」
最も特徴的なのが袖付けの方法。並木さんが考案した幾何学模様の切り替えスリーブ「並木スリーブ(※編集部命名)」で、縫い目がチェスト部分に侵入しないのがミソ。おかげで、肩まわりにシワがよらず、スッキリと上品見え。しかも、ラグランスリーブの動きやすさも兼ね備えています。
わかりやすくアップで写したのが、上の写真。ね、なかなか珍しい形をしてるでしょ?
特徴的なドッグイヤーカラーには、スーツのラペルに採用される芯材を2枚も入れています。厚手でコシがあり、衿を立たせて羽織ってもピンっと張るからサマになるんですよね。それに、衿には適度な重みがあって。外側に寝かせるとキレイに開くので、異なる着こなしを楽しめます!
シルエットや襟だけではなく、生地も品格アップに貢献しています。スーツを作る時に選ばれる、しなやかで薄手のものを採用。素材はコーデュラナイロン。毛羽立ちがなく引っ掛けても糸がほつれにくいため、ヘビロテしても上品顔はそのまま。極め付けに、美しく磨き上げられたYKKのエクセラファスナーがフロントにキラッと光り、高級感も漂わせます。
「ちょっとクタッとした表情になるように生地の選定は慎重に行いました。ただ単にキレイに仕上げるよりも、その方が大人の色気が出てかっこいいと思うんです。要は、“味”ってやつですね」
理想のショップ像
並木さんがディレクターとして大切にしているのは、時代に合わせて店と服を整えること。それはトレンドを追い求めるというわけではありません。己の感性をフレッシュな状態にしておいて、ユーダブが提案する世界観をアップデートし続けるという意味です。
「ブランド名の“U”と“W”には、いろんな意味を込めていますが、強いて一つ取り上げるなら、“Unlearning”と“Wear”かな。アンラーニングは“学習棄却”ともいって、これまで学んできた知識を一度捨て、新しく学び直すという意味。流行に敏感であることはもちろん重要ですが、一方で自身の知識や経験を常にアップデートさせていくことで、お客様のニーズに寄り添える服作りを目指しています」


最近は、地域にコミットした新しい取り組みにも挑戦中。例えば、走り屋達が羽を休める首都高速最大のパーキングエリア「大黒PA」のオリジナルグッズの製作とか。プロジェクトが走り出したのは、知人のオーナーから相談があったから。年末にキックオフをして、今年1月には第一弾のTシャツやドリズラージャケットをリリースしました。ドライビングパンツや小物など、今後もグッズ展開を予定しています。
「今は服を通して、誰かの役に立てるような活動がしたいなって思っているんです。去年は地元の和菓子屋さんのユニフォームを作らせてもらって。」
「移ろうトレンドの中で、なぜ、この服を着るのか。服を選ぶ理由を提案することが、自分の役目だと思っています。ディテールや機能など、あらゆる要素が自分にしっくりくれば、長い間その服を大切に着られると思うんですよ。もしも気分にフィットする服がユーダブにない場合は、私がこしらえたらいい。初めて服を作った時のように興味があったら行動に起こすの精神で、これからも唯一無二のアイテムを生み出していきます!」
Garage.U.W
住所:〒360-0044 埼玉県熊谷市弥生2-73
電話:048-525-6574
営業時間:11:00am~19:00pm (無休)
ホームページ: https://garageuw.thebase.in/
※表示価格は税込みです
写真/丸益功紀(BOIL) 文/妹尾龍都 編集/鍵本大河(Beginデジタル)