Oct-30-2023

好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]VOL.25

シンプルなアイデアを大胆に具現化した名デザイン

まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。

CAPPELLINI カッペリーニのCABINET

ストーリーも含めた、思い出深い買い物

3、4年前に買い付けでサンフランシスコに行ったんですが、その足で立ち寄ったサクラメントのお店で偶然これを見つけたんです。 札には“Shiro Kuramata $800”の表記が。僕は海外ではマーケットをひたすら回ってたので、買い物と言えば5ドルとか10ドルとかばかり。

だからこのキャビネットを見たときも、「高いよ。底も割れてるし」と思って、連れと一緒に店を出たんです。だけど、次の日ふと「あれ? 800ドルってめっちゃ安くね!?」と思い直して(笑)。

買うには店に行かなきゃいけないんだけど、そのとき、すでに僕らはツーソンに向かって移動中。そしたら連れが言うんですよ、「サクラメントに知り合いがいるぞ」と。それで、すぐに先の店に「割れてたし、500ドルにならない?」と電話したら、OKの返事が! 

それで連れの知り合いに代わりに買いに行ってもらい、帰りしなにまた立ち寄れたので重さに四苦八苦しながら自分で梱包して日本に送ったという、思い出の詰まった一品です。

モノ自体の話を全然してないんですが(笑)、これはそれよりも買い方が自分にとっては重要で。買い付けから手元に来るまでの苦労とか、協力してくれた人のこととか、そういうストーリーも含めた買い物だったと思っています。

この割れも、思い出深いからこのままでいいや、って。ネットで見つけてポチっただけだったら、ここまで愛着はなかったんだろうなぁ。そういうのも含めて、古具の面白さですよね。(南 貴之)

「幾重にも 積んだトレイと ものがたり」

CAPPELLINI カッペリーニのCABINET

BRAND:CAPPELLINI
ITEM:CABINET
AGE:UNKNOWN

今も世界中で支持される倉俣史朗(Shiro Kuramata)が1970年に発表したリボルビングキャビネット。20段のドロワーは一本のポールで支えられていて、そこを起点に回転する。鮮やかな赤が、今見てもモダンだ。 

生産は現在まで一貫してイタリアの家具メーカー、カッペリーニが担当。’60年代後半から、最新の科学技術用いて革命的作品を生んだ倉俣史朗の魅力が凝縮されている。クラマタ・ショックとも評される、ポストモダニズムの真髄に触れられる傑作だ。62万7000円(カッペリーニポイント トウキョウ)

DETAIL

CAPPELLINI カッペリーニのCABINET

ドロワーの内側には仕切りなどはつかないすっきり設計で実用性も高い。南氏は以前、筆記用具や内線用の電話機などの備品をしまって、店頭で実際に使用していたそう。

Profile
南 貴之

好事家

南 貴之

1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中を巡り、日々良品を探している。

 


[ビギン2022年4月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘

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