岐阜県・XX DEVELOPMENTの、世にも希少な ”尾州ウール”ジャケット【ナニコレ珍名品#4】
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ビギンが日本全国津々浦々を行脚し、地方ショップの「オリジナル商品」を掘り起こす本企画。僭越ながら今年で創刊36年目を迎えるビギン、もはやどこにでも置いてありそうなセレクトアイテムに興味はございません。各ショップがウンウン悩んで考えた末に生まれる「ナニコレ⁉」なオリジナル商品にこそ、唯一無二の魅力が、ひいてはそのお店の「スピリット」が宿っているのです!
第4回は岐阜県にお店を構えるXX DEVELOPMENT(ダブルエックス デベロップメント)。岐阜はもともと服飾産業が盛んな地域で、なんとショップの中には工場が! 果たして店内にどんな珍名品が待っているのか⁉ そしてそんな珍名品から紐解く、お店の「スピリット」とは? 直撃取材で聞いてきました!
今回お邪魔したのはココ!
全国でも有数のモノづくり県として知られる岐阜。陶磁器や和紙など工芸品のほか、ファッション産業も盛んで、老舗のニッターや繊維業社が日本のアパレル業界を支えています。
そんな中、岐阜市に2019年にひっそりとオープンしたのが、創業20年の縫製工場発「ダブルエックス デベロップメント」。2階建ての工場の上の階が店舗スペースで、店先に目立つ看板などはありません。事務所と空間をシェアしたワンルームほどのスペースに、社長と工場長による2人組ユニット「ソーイングボーイズ(お裁縫男子)」渾身のアイテムが詰め込まれています。洋服好きの友人宅に遊びに来ているような気取らないラフな空間で、自宅のクローゼットにお迎えしたい、未来の我が子と出会えます。
取り扱うのは、2019年の春から作り始めたオリジナルのアイテムのみ。スウェットが中心の「シュアーマニュファクチャリング」や、ショップの歴史を物語るに欠かせない「ノーコンプライジーンズ」など。いずれもヴィンテージモデルを踏襲しています。
潔いラインナップですが、店内に足を踏み入ると知らず知らずのうちに長居してしまうので、時間はたっぷり余裕を持っておくのがおすすめ。というのも、一つひとつのアイテムにドラマチックな開発エピソードがあるんです。この袖はミリタリー由来?このステッチは何のためにあるの?など、二人が作り出す愛子を見ると、質問が次から次へと湧いてきます。ダブルエックス デベロップメントのアイテムを吟味すること、すなわち、”お裁縫男子”の家族アルバムをめくっているような感覚に近いのかもしれません。
お裁縫男子の構成メンバーは、写真左の戸谷さんと、右のジャスミンさん。2人は社長と工場長という関係ですが、かれこれ10年以上前に戸谷さんの元にジャスミンさんが合流してからの仲で、2人組みユニットとして活動中。小粋なジョークを飛ばす戸谷さんを、ジャスミンさんがクールにいなす。そんな2人の関係性は、週に最低1度のインスタグラムのライブ配信で観られます。視聴者の中にもファンが多数!?洋服の知識も深まるし、お裁縫男子の掛け合いもおもしろいので、ぜひ一度ライブを視聴してみてネ!
名品FILEその1
SURE’Sのウールジャケット

こちらのウールジャケットの元ネタは、某アメリカブランドによる1940年のヴィンテージ品。お裁縫男子が偶然立ち寄った古着屋にありました。モノづくりのスタンスを、戸谷さんに伺いました。
「もともと自分たちは縫製屋。だから、その特性を活かしたモノづくりをしたい。なおかつ、一定のクオリティーで再現できるビジョンが見えないとダメ。カッコいいからって、何でもかんでも僕らは真似て作らないし、作れない(笑)」
このジャケットの場合は、ステッチの種類から使用されたミシンを想定するなど、縫製工場の社長ならではの視点で構造を分解し、製作に着手することを決めたんだそう。なかでも、戸谷さんが注目したのは分厚いウールの生地と、偶然なのか意図的なのか、チェックの柄を左右で揃えた縫い合わせでした。
大前提として、どんなミシンにも対応できる生地の厚みには限界があります。その種類は、技術が発達した今でこそ生地に合わせて豊富に発明されましたが、今回ベースとなったジャケットが作られたのは、ミシンの品質も今のように洗練されていない1940年。おまけに、ボディは分厚いウール地。縫い代はとんでもない厚みになります。
「僕の知る限り、40年代最強のミシン、ユニオンスペシャル358をもってしてでも、縫い合わせられないはず。直ぐにジャケットの内側をみて、縫い合わせの部分をチェックしてみました。すると、生地を切りっぱなしのまま使用していることに気づいたんです。工夫を凝らして、縫い代を薄くしているのがわかり思わず唸りました」
シュアーマニュファクチャリングのウールジャケットは、縫い合わせ部分の生地は切りっぱなしのまま。戸谷さん曰く、縫製の難易度や見栄えを考慮すると、パイピング仕様になるケースが主流なのだそうですが、洋服をこよなく愛するお裁縫男子だからこそ、元ネタをリスペクトした仕上げにしています。
「作られてから、80年くらい経ってても、キレイなままで、まだまだ着られる。余計なことをしなくても、その耐久性は実物が物語っています。だったら、僕たちは当時いたはずのデザイナーと現場の工場長があーでもないこーでもないと考え尽くした方法で、そのまま洋服を作りたいと思いました」
戸谷さんは、元ネタを忠実に再現するために素材も一から開発。保温性と乾湿性に優れたウール100%の生地は、ハリコシはありつつ、しなやかさも兼ね備えています。
「市販に流通しているウール糸だと、柔らかくてフワフワの生地しかできなくて。結局、糸からオリジナルで作りました。オーストラリア産とニュージーランド産を1:1で配合しています」
原毛選びから紡績、織りつけに至るまで、その全てを忠実に再現した極厚のウール生地。さすがに2023年から1940年へのアプローチは困難を極めたようで、生地屋さんと何度も試験反を作っては首を傾げる無限ループだったそう。それでも「当時の人もこんな大変だったかのな?」と想像するうちに楽しさが芽生え、待ちに待った完成の日を迎えたのです!
シルエットに関しては、着丈がやや長めのクラシック型がベース。特にこだわったのは袖付けで、ゆったりとしたドロップショルダーを採用するだけでなく、着用時、肩から腕に落ちる部分にシワが入るように、パターンを微調整しています。アーカイブを忠実に踏襲しつつ、独自のエッセンスを加えて、ニュースタンダードな一枚に仕上げました。
「ここ、ここの微妙なシワがカッコいい。コレを作りたくて、トライアンドエラーをしまくりました。そしたら、去年の今ごろに販売予定だったけど、今年初めになっちゃって。生地も使いきれていませんし、コレからが本番です(笑)」
名品FILEその2
SURE’Sのオーサムスウェット

ダブルエックス デベロップメントの秋冬の定番といえば、こちらのオーサムスウェット。袖を通した瞬間、「イケてるじゃんっ!」と思わず口に出てしまう一枚です。
その着心地に影響しているのは、やはり素材。糸色から全てオリジナルで開発されており、ヨレにくいハリのあるスウェットに仕上げられています。裏地には起毛加工が施されており、ドライな見た目からは想像つかない優しい肌あたり。まるで、やわらかいブランケットを身にまとっているような生地感です。工場長のジャスミンさんが開発時のことを教えてくれました。
「スウェット用の起毛機を全国各地で探し回りましたが、望みの生地感にならなくて。諦めかけた矢先に見つけたのが、今お世話になっているところ。ここだけのハナシですが、最終的には、岐阜の起毛工場にお願いすることになりました。灯台下暗しとは、まさにこのことですね」
ジャスミンさんは、縫製のプロフェッショナル。企画の際には、戸谷さんのアイデアを縫い手の視点で汲み取り、具体的にカタチにしていきます。
オーサムスウェットに採用されているアボイドスリーブも、お裁縫男子ならではのアイコン的ディテールです。アボイドとは、避けるという意味。縫い代が重ならないように少しずらして袖を付けているのが特徴です。これにより、袖が立体的に仕上がり、フィット感が向上します。
「ヘインズのフリーダムスリーブが羨ましくって(照)。僕らも象徴的なディテールを作ろうよっていうことで戸谷と考えました。軍モノのN-1の袖を参考にしたアイデアで、袖まわりの収まりがとにかくイイ!」
首もとの詰まり具合も、試作を繰り返してようやく辿り着いたバランス。襟ぐりの前下がりを上げて、後を下げてのミリ単位でのこだわりようです。前後で型紙では表現しきれない着用時の細かい調整も、ジャスミンさんの得意技。
「こうか?こうか?これくらいか?みたいな感じで、何回作り直したことか。ヴィンテージスウェットはカッコいいですが、サイズが合わないことも多いし、せっかく僕らが作るなら洋服として昇華させたかったんで、妥協しないで修正を続けました」

オーサムスウェットシリーズが始まってから2年目。いまやモデルは多数ありますが、クルーネック、フーディに続いて3番目に作ったモデルは、スウェットスタジャン。アメカジ好きの戸谷さんならではのセレクトです。
「ジップパーカーが定石だと思うんですが、スエスタ一直線でした。僕ら世代が若い時、街のかわいい女の子が、よく着ていたのを思い出して、なんだか懐かしくなっちゃって(笑)」
先ほどのウールジャケットしかり、スウェットしかり、お裁縫男子の企画会議は、ヴィンテージ品を持ち寄るところから始まります。スエスタのお手本はヴィンテージ界隈でも人気の名作・リバースウィーブ。戸谷さんの手もとには、レアな雰囲気が漂うトリコタグ付きの初期モデルが!
「袖もリブも太いアメリカンフィットな雰囲気がナイスで、コレ作ろうぜ!って感じで企画がはじまります。あとは、そのサンプルを研究しまくる。切って分解したり、妄想の話しで盛り上がったり。サイドポケットをつけたのは、仕事のデキる工場長のアイデアに違いない!とかね(笑)」
シュアーマニュファクチャリングのサンプルは、すべてジャスミンさんの手作り。言葉では表現できない感性の部分を注入して、お裁縫男子の理想を追求します。
「例えば、ビンテージ風にしたいなら、オリジナルに忠実にミシンを走らせればいい。だけど、昔の服はラフな作りのものも多いので、それだと破れやすくなりますが、戸谷さんどうしますか?なんて、提案をすることもあります。結局、日常的に着まわせる強度を確保できれば、ビンテージのスペックを重視することの方が多いですね」
ユニークなネーミングも、ダブルエックス デベロップメントの個性的なところ。「楽しみながら作っていることが伝わればいい」という、戸谷さんの思いが込められています。
「ファッションは楽しいモノであってほしい。だから、何百万もかけて糸を開発し生地を作り、縫い上げてできあがったスウェットに、オーサムなんてモデル名をつける。このスウェットを着て、“大寒”って言って笑ってるくらいがカッコいいと思ってます」
「行き過ぎると、ただの親父ギャグになるので、それを抑制するために僕がいるんです」とジャスミンさんが軽快なツッコミを入れたところで、取材班一向は縫製工場へレッツ・ゴー!
工場に潜入!
店舗スペースの下階には、縫製工場が併設します。もともと倉庫だった場所を間借りして、ショップと工場にリノベーションしています。そのため、一階は天井が高くて開放的。生地のストックも難なく入るスペースがあります。現在、工場の一般スタッフは5名ほど。そこにジャスミンさんが加わって、一緒にモノづくりをしています。
「OEMがビジネスの主軸でしたが、時代の流れもあって、次第に自分たちでモノを作って発信しようということで、自社ブランド一本で食っていく、今の事業スタイルに変わりました。こっちではTシャツにリブネックを取り付けていて、あっちではデニムを縫っている。信頼できるスタッフとコミュニケーションをとりながら、毎日生産に追われています(汗)」
自社スタッフが縫製するので、オリジナルアイテムへの愛情も深く、その気持ちが生産のクオリティにも直結。お裁縫男子のこだわりが薄れることなく、そのまま製品へと注ぎ込まれます。戸谷さんは満足げな表情で自社の強みを語ります。
「僕たちの場合は、自分たちで手を動かさないと商品がない。どうしよう、もう在庫がない!っていうタイミングもなきにしもあらず。そうした状況でも、細かく分けたステッチ幅の通りに縫い上げてくれる、妥協を許さないスタッフがいてくれます。ミシンをかける時は全員息を止めて一気に縫いきるとか、笑い話をしながらみんなで仲良くやっている、と思います。……え?ジャスミン君、俺間違っていないよね?(笑)」
そもそも、戸谷さんが会社を起こした時は、ジーンズの裾上げが主軸の事業でした。だから、初めて作ったオリジナルアイテムはデニム。裾上げ屋さんが作ったこだわりの一本は、当初からシルエットや生地は全く変わっておらず、リリース以来ショップを支える続ける定番商品になりました。
「最初はショップからお直しのデニムを預かって裾上げをして納品していたんだけど、そのうちアパレルブランドからの依頼も増えて、デニムを作るようになって……。お客さまのご要望の通りに仕上げるのがプロの仕事です。でも、僕はそんなに仕様書に支配されるのかって次第に思い始めてきて。それで初めて作ったデニムのモデル名を、皮肉をこめてノーコンプライジーンズ(=仕様書の無いジーンズ)にしたんです」
理想のショップ像
店名のダブルエックスデベロップメントも、”デニム”をバックボーンに持つ戸谷さんのセンスが光るポイント。
「リーバイスがアメリカの街ごとにジーンズ工場を作っていたのに憧れて名付けました。岐阜がジーパンの街じゃないのは知ってるけど、裾上げ屋からスタートして20年経って、ようやく今オリジナルブランド一本でやっていくところ。このスタイルを続けていければ、少しは近づけるんじゃないかなって思います」
「力を入れているのは、ジャスミン君とユニットを組んで配信する週1のインスタライブ。どうしても専門用語が飛び交うんですが、時にはお笑いも交えながら、アイテムのこだわりをわかりやすく伝えるように努力しています。すると、『マニアックすぎて言ってることはわからないけど、君たちマジでオーサム!』ってアメリカの人からコメントが送られてきて。しかも、実際に買って、それを着てくれているんです。そんな風に、自分たちのFUNなムードが、買ってくれる人にも伝わっていけばいいですよね」
「大袈裟なんですけど……」とジャスミンさんも、戸谷さんのコメントにうなづきながら、服作りの先の未来を見据えます。
「街の一部を担えるような服作りを目指しています。カッコいい服を作るのが一番大事。でも、同時に服で繋がるコミュニティも大切にしていきたい。ダブルエックスデベロップメントの服を、誰かが着てくれている。作りても着る人も同じ価値観で生活している関係性が、至る所でできあがる未来を目指したいです」
XX DEVELOPMENT
住所:〒500-8361 岐阜県岐阜市本荘西3丁目8番地
電話:058-253-2630
営業時間:毎週木曜日~土曜日 13:00-19:00 定休日:日曜日~水曜日
Instagram:@XX DEVELOPMENT
写真/平井俊作 文/妹尾龍都 編集/鍵本大河(Begin News)