達人たちの影響を受けた1冊とは? “アウトドア”を読む
アウトドア業界の最前線で活躍する達人たち。そんな方々にも、「この世界に入るきっかけになった」、あるいは「改めて自然の魅力に気づかされた」、そんな1冊があります。現在では入手しにくい本がほとんどですが、それでも探して読む価値のある名著ばかり。外に出るだけじゃなく、「読んでその世界に思いを馳せる」。……アウトドアにはそんな楽しみ方もあるんです。
10年以上前、服作りに繋がる出会いがありました
エベレスト南西壁の初登攀した登山家ダグ・スコット。『HIMALAYAN CLIMBER』は、彼の1960~’90年代の登攀歴を収めた写真集です。この本が面白いのは山の美しさはもちろん、登山家たちが標高の低い地点やベースキャンプで寛いでいる際の服装を見られる点。現代のように登山用ウェアが充実しておらず、普通にヒッピー感のある服装だったりと時代ごとの背景が見られます。山登り、服作りともに影響を受けた中の一冊ですね。
読んだ人 アンドワンダー デザイナー 池内啓太さん
国内ブランドのデザインチームを経て独立。2011年にアウトドアブランド「アンドワンダー」を立ち上げ、ファッション性と機能性を兼ね備えたウェアなどを次々と発表する。
美しいシュプールへの憧れが加速します
30代前半の頃、アルペンスキーもろくにできないのにテレマークスキーを始めました。きっかけは、先輩の「雪はどこにでもあるし、いつでも滑れる」というひと言。しかし、基礎がおぼつかないような状態だったので、滑走というよりも滑落みたいな雪中行動でした。そんなとき手にとった『雪山を滑る人』は、ヘタクソな自分でも「いつかこんなふうに滑ってみたい!」と奮起させられるような憧れの一瞬がたっぷり詰まっています。
読んだ人 ビームス バイヤー 廣沢 慶さん
1970年東京都出身。1991年にビームス入社。現在はアウトドアを中心に、メンズカジュアルバイヤーとして活躍中。ウェアやギアに関する知識と鑑識眼は業界でも有名。
谷川岳の先駆者にシンパシーを感じます
『谷川岳ヒゲの大将』は谷川岳山麓に移り住んだ、ヒゲの吾策さんの自叙伝。この人もやはり、スキーの指導、新道開発、山歩き、山菜採り、岩魚釣りなど、自分とまったく同じことをしている。影響を受けたというより、時代は違えど、人間の興奮や楽しみの本質を高い水準で理解できる人は谷川岳に引き寄せられるんだなと再認識しました。ちなみに僕は、SNSを巧みに使う次世代のNEO URBAN仙人だと自負しております(笑)。
読んだ人 MofM ディレクター 福山正和さん
2004年にMofMを設立。2013年には自然の中での体験をデザインに反映させる服作りを目指し、群馬県みなかみ市に拠点を移動。今も標高1000mの自然の中で生活している。
その後の人生を決定づけた(かも)な一冊です
映画『ランボー』を観て、小学生の頃からナイフに興味がありました。その後、アウトドア雑誌によく登場しており、私もいちファンでもあった赤津孝夫さん(A&F会長)がナイフの本である『スポーツナイフ大研究』を出していると知って、迷わず購入しました。長じてA&Fで仕事をしたことを考えると、なかなか感慨深いものがあります。いろんな意味で私の人生に大きな影響を与えた一冊といえるでしょうね。
読んだ人 ブルズワークス 代表 牛田浩一さん
アウトドアの輸入代理店A&Fでプレスとして活躍後、フリーランスのコーディネーター&プレスとして独立。アウトドアギアに造詣が深い、業界の頼れるアニキ的な存在。
アウトドアの奥深さを教えてくれた伝説の雑誌
1976年11月に発刊された『別冊 山と溪谷 OUTDOORSPORTS』は、当時アメリカの流行の最先端だったバックパッキングムーブメントを、おそらく日本で最初に本格的に取り上げた雑誌。若き日のイヴォン・シュイナードやジョン・ミューアとシエラクラブを紹介するページがあったりと、ライフスタイルとしてアウトドアに取り組む精神的な意味にまで踏み込んでいて、カルチャーとしての奥深さを教えてくれました。
読んだ人 クリエイティブディレクター アクタガワ タカトシさん
1972年東京都出身。コンテンツ制作やプロダクトデザインなど、さまざまなプロジェクトに携わる。ギア類に精通しており、なかでもアウトドアギアへのこだわりは業界でも有名。
フライフィッシングはもっと自由な遊びなんです
『フライフィッシング教書』は1979年に発行された本です。フライフィッシングって「これはこう釣らなきゃいけない」とか、堅苦しいイメージがありますが、ここに書かれていることはすごく自由。「この道具はホームセンターに売ってるもので代用できるよ」とか。フライフィッシングは自分なりに工夫して毛針を作ったりしながら成立させていく、自由な遊びだってことを思い出させてくれました。1700円。(問)晶文社 TEL.03-3518-4940
読んだ人 釣りサイト運営 牟田口 崇さん
1986年佐賀県生まれ。物心がつく前から釣りを始め、山から海まで全国各地でキャスティングを続ける。フライフィッシングサイト「Flys Unidentified Anglers」を運営。
これと出会ってますます北海道が好きになりました
年長の先輩フィッシャーから耳にしていた『RISE』は、1990年代初頭から半ばにかけ、不定期で全₆ 号だけ発刊された、北海道を知るための究極のアウトドアマガジンです。その内容は極めて濃く、大自然の写真の数々から、釣り、登山、バイクなどの多岐にわたる情報まで、とにかく読みどころ満載。15年間北海道に住んでいますが、釣りを介して北海道の大自然と対峙することの喜びを改めて知り、まだ見ぬいろんな場所へ行きたくなりました。
読んだ人 SOUTH 2 WEST 8 ディレクター 永岡 要さん
ネペンテスのストアマネージャーとして東京で勤務。その後札幌に移住し、渓流釣りを中心としたオリジナルウェアなどを展開するSOUTH 2 WEST 8の立ち上げに携わる。
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※問い合わせ先のない書籍は、すべて私物です。
[ビギン2017年10月号の記事を再構成]
写真/竹内一将(STUH) 若林武志 上野 敦(プルミエジュアン) 三浦伸一
文/秦 大輔 礒村真介 押条良太(押条事務所) 黒澤正人 宮嶋将良(POW-DER) 臺代裕夢 灰岡美紗
スタイリング/鈴木 肇 近澤一雅
ヘアメイク/北村達彦