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サメ愛
沼口 麻子

(写真:右)1980年、東京都出身。東海大学海洋学部を卒業後、同大学院海洋学研究科水産学専攻修士課程を修了。大学在学中にサメ相調査と、サメの寄生虫の調査に没頭。世界唯一のシャークジャーナリストとして、「サメのいるところ沼口あり」と言わんばかりに活躍中。自身でも「サメ談話会」というサメファンクラブを主宰し、全国各地にサメ好きの輪を広げている。挨拶の基本は「よろシャークお願いします」。主な著作に『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)。

スズメバチ愛
中村 雅雄

(写真:左)1948年、東京都出身。大学卒業後、神奈川県で小学校教員として教職に就く。当時から都会に生息するスズメバチの生態について本格的な研究を行い、国内外で調査を実施。その間、刺されること100回あまり! それでもスズメバチをこよなく愛し、現在はスズメバチの駆除活動を行いながら、生物の多様性についての研究結果を発表している。主な著作に『スズメバチの真実』(八坂書房)、『おどろきのスズメバチ』(講談社)など。

スズメバチの生態に興味津々!

沼口:実は私、スズメバチの巣や生態に興味津々で。身近な生き物でもあり、昔から気になっている生物のひとつなんです。サメとスズメバチの立ち位置って、似たようなものがありそうですし。いろいろ生態について質問があるのですが。まずはスズメバチたちが、あれだけの巣を作るにはどれだけの時間がかかるんですか?
中村:例えば大きなものを作るには最大で半年近くかかります。でも案外、民家にできても攻撃されるまでは注意を払いにくいのか「この巣は何年目のものなんですか?」と聞かれることもありますね。「いやいや、自分の家にできているのになんでわからないんですか?」と思ったりしますが(笑)。

中村さんがマレーシアで発見したツマアカスズメバチの巨大巣。10か月あまりで3.2×1.6メートルまでの大きさになった。遠目からでも圧倒的な存在感を放っている

沼口:この巣の中で、幼虫一匹ずつに餌を与えて大事に育てて……女王バチを中心にしてスズメバチがどういう社会性を持っているのかすごく気になります。
中村:例えば、スズメバチは同じ種でも、一緒の巣で暮らすファミリーと、別の巣からの訪問者を明確に区別するんです。訪問者が巣に入ってくると、ケンカになってしまうんですよ。家の匂いといいますか、その巣の女王バチが出すフェロモンが違うので、匂いでわかるみたいで。

スズメバチ男子のお宝⑤
防護アミ付き帽子

夏場に防護服を着るととにかく熱いので、亜熱帯の地域でサンプル採取などをするときは、ウインドブレーカーにこの帽子を合わせるだけという軽装で挑むことが大半。スズメバチが顔にダイレクトにとまるのを防ぐだけでも、かなりのリスクが軽減される。ただし、服の隙間から入ってくることもあるので、油断すると刺される。

沼口:巣は女王バチが作るんですか? 女王バチは幼虫の時点で女王になることが決まっているものなのかな?
中村:まだはっきりとわかってはいませんが、女王バチになるかどうかは後から決まるようですね。秋口に多くの女王バチが生まれて、朽木などで越冬します。そしてそれぞれ営巣の場所を選んで、巣作りを始めるんです。ですから、最初の内は一匹で巣作りから産卵までを全部やらなくちゃいけません。で、そのうち卵を産んだら死んでしまう。働きバチが生まれてきたら、今度は彼らが巣を大きくしていくんです。もっとも熱帯に行くと女王バチが何匹もいる巣もありますけどね。熱帯は天敵のアリに襲われるリスクが高くなるから。

一匹で巣を作り始めたばかりのコガタスズメバチの女王バチ

沼口:誰かが命を落としても、別の女王バチが生きていれば巣を存続できますものね。
中村:レアケースですけど、巣の中にキイロスズメバチが2匹いたのを発見したこともあって、昆虫学会に報告しました。温帯では初めてのことで、今までのスズメバチに関する常識が覆されるような衝撃を受けました。

ひとつの巣の中に女王バチが2匹いるケースは極めてレア

沼口:まったく新しい発見をしたときの研究者の喜びはどう喩えていいかわからないほどのものですよね。
中村:そうなんですよ! あとね、ヤミスズメバチという夜行性のスズメバチがいるのですが、その巣がなかなか人目につかなくて、幻の巣だったんです。建物の明かりや街灯などに集まる姿は見かけるのですが、巣がどこにあるのかとなると謎だった。でも、3年かけて探し回って、やっと見つけることができたときも嬉しかったな。
沼口:すごい! おめでとうございます! どうやって見つけたんですか?
中村:アジアの現地の人たちに、それこそ犯人を捜す刑事のように聞きこみを繰り返しているうち、ひとりの少年が「場所を知ってる」と案内してくれたんです。それから7~8個見つけることができました。あのときの感動は忘れられませんよね。

奥さんとスズメバチ、どっちが大事?

沼口:私も人のことは言えませんが、スズメバチを追い続けて、周囲から心配されることはありませんか?
中村:「奥さんとスズメバチ、どっちが大事なんだ?」なんて言われたこともあります。
沼口:どっちなんですか?(笑)。
中村:……判定は難しいです(笑)。
沼口:このくだり、「e-Begin」は確実に記事にするだろうな(笑)。
中村:スズメバチの世界は、人間の世界に相通じるところがあるんですよ。社会性といいますかね。
沼口:そのフォロー、聞きましょう(笑)。
中村:幼虫の求めに応じて餌をあげて、餌をもらった幼虫は甘い透明な汁を出して大人がなめる。それで元気出して「じゃ、働いてくるね」とまた出ていく。人間のお父さんが、子供のおねだりを聞いておもちゃを買って、子供が喜んでいる姿を見てやる気が湧き出て、また張り切って仕事に行く。それと同じですよね。愛情のやりとりが感じられて「いいなあ」と思ってしまうんです。あと、スズメバチの巣はまだらの模様になっているでしょう? あれは、模様が複雑であればあるほど、一匹ずつの働きバチが仕事をしてきた証拠なんです。
沼口:あれは木などを噛み砕いて貼っているんですよね?
中村:自分の唾液と混ぜ合わせて貼っているんです。色がまだらになるのは、個々のハチが集めてくる素材となる木が違うから。明るい木もあれば、ダークカラーの木もあるわけですからね。で、最初のハチがA地点からB地点まで自分が調達した素材で作って、次のハチがその続きでB地点からC地点まで作る。その繰り返しで大きくなっているんです。

2014年10月に横浜で採取して持ち帰った、直径40センチ×高さ65センチの巣。この巣には働きバチ約800匹が入る

沼口:社会性もさることながら、私はあのスズメバチのシルエットやデザインの美しさはすごいと思うんです。
中村:確かに夏ミカンを半分にしたような頭部は私も好きですね!
沼口:これまた独特の表現ですね(笑)。
中村:飛び方もかっこいいんですよ。アシナガバチはフラフラとした飛び方でパワーを感じませんが、スズメバチは弾丸のようにまっすぐ飛ぶ。惚れ惚れしますね!
沼口:サメだって負けていませんよ! アオザメなんて海面にジャンプした姿は、本当にきれいでかっこいいですから。オグロメジロザメも、人間が岩場につかまるのが精いっぱいで動けないような激流に逆らって、しかも苦労なんて1ミリもないような優雅な泳ぎ方をしますからね。
中村:素晴らしい!
沼口:今教えている子供たちには、そういう姿から純粋にサメを好きになってほしいと思っているんです。サメじゃなくても、スズメバチだっていい。自分の好きなものを見つけてくれるきっかけになったらいいですよね。私が子供の頃は、専門的に何かを研究している人とつながる機会はほとんどなかったですから、子供たちの可能性を広げるためにできることをやっていきたいんです。

スズメバチ男子のお宝⑥
スズメバチジェット

市販されているスズメバチ専用噴霧式殺虫スプレー。スズメバチの巣は高いところにあることも多いので、使用するときは噴射力があるこれを使用。ただし、中村さんは巣の駆除をする際、あまり殺虫剤を使わないというポリシーがある。「噴射してハチがいきりたつと、逆に攻撃が強まる恐れがありますし、薬品だけに使いすぎると人体にいいとは言えないから」とのこと。

スズメバチ男子のお宝⑦
木酢液

スズメバチは人が近づくと匂いなどで反応するため、木酢液をかけて人の匂いを打ち消すと、攻撃対象だと認識されずに襲われにくくなる。中村さんが巣の駆除をするときには、よくこれを使う。

中村:数ある興味の対象の中からサメを選んでもらえたらとても光栄ですね。
沼口:そこはもうできるだけ好きになってもらえるように(笑) 例えば、気仙沼で「サメ合宿」なんてことをやったりするんです。気仙沼は、サメの水揚げ量が日本一多くて。フカヒレとかサメ肉・サメ皮加工工場もあって。今年は2泊3日で食事はすべてサメのフルコース。サメの水揚げを観察したり、サンプリングしたり、いろんなサメ体験を詰め込んでいて参加されたサメ好きの皆さんは楽しんでくれました。
中村:知識のアトラクションみたいですね。サメを全身で体験できるような。

今後は世界的に情報発信をしたい

沼口:今後は子供たちも一緒になって、オンラインサロンのメンバーたちと世界に日本のサメ情報を発信できたらいいねという話をしています。現在、世界的にサメの保護機運が高まっていて、まだそこまで規制が強くない日本は、ある意味、現時点では貴重なサメのサンプルを観察できる場所だともいえるので。
中村:サメやスズメバチの実態を知っていくことで、彼ら彼女らの気持ちがわかるというか、理解してあげられる人がひとりでも増えたら感慨深いですよ。

サメ女子のお宝④
adidas製サメスニーカー

数年前に、adidas社ときゃりーぱみゅぱみゅがコラボレートした限定モデル。沼口さんは5足購入し「1足は履いて、1足は撮影用で、ほかのは欲しいという友達にあげた」とか。「サメモデルのスニーカーは割とありますが、サメだとわかりにくいものが多いんです。これはソールのギザギザがサメの歯の印象を強くしているし、靴紐のところに目もついているので気に入っています」

サメ女子のお宝⑤
サメヘアクリップ

サメ好きの仲間の手作りヘアクリップ。はさみ込む箇所のギザギザしたデザインがちょうどサメの歯のように見える。「ちゃんとエラの数が5本あるのがいい」と、ディテールにまでこだわりがある。

沼口:サメもスズメバチも、逆に人間のことをどう思っているんでしょうね?
中村:「そっとしておいてくれ」じゃないですか(笑)。
沼口:自分のテリトリーに人間が入ってくるから攻撃したり事故につながるわけで、そっとしてあげられる環境を維持できれば、サメもスズメバチも人間に関わる必要はないわけですからね。人間だって、知らない何かが無断でズカズカ家に入ってきたらセコム呼びたくなりますもの(笑)。
中村:聖域を作ってあげたいと思うことはありますね。「それぞれ不可侵の距離感をもって共生していこうよ」というような。だから昨今のメディアでよくある「スズメバチはとにかく駆除すべし!」という風潮は、ちょっと過激すぎる気がするんです。駆除しなくていい巣まで駆除していることもよくありますから。
沼口:どういうことですか?
中村:人間がしょっちゅう出入りする玄関や軒先などだと、人間の生活動線と巣が近いので、どうしても刺激してしまい攻撃されやすくなります。そういう危険がある場合は、もちろんすみやかに駆除しなくてはいけません。でも、庭の木の、かなり高いところにできた巣とか、人間の動線に関わらないような一定の距離があるところの巣だと、まず刺しに来ることはないんです。安全が脅かされませんから。
沼口:なんでもかんでも駆除の対象にしていたらきりがないですし、薬などを散布すると他の生態系にも影響が出ますものね。

巣を駆除するときも中村さんは薬品ではなく木酢液を多く使う

中村:対馬で見つかったツマアカスズメバチが今、徹底駆除の対象になっていますが、実はその環境中には対馬にしかいないすごく珍しいスズメバチがいるんです。外来種の上陸は、荷物コンテナなどに紛れ込むケースもありますが、対馬は朝鮮半島から50キロしか離れていない。風で女王バチが運ばれてくることもあるわけです。自然が後押ししてツマアカスズメバチの分布域を広げる生命活動なのかもしれないわけで、それを一括して外来種として駆除するのはどうなんだろうという複雑な気持ちもあります。
沼口:外来種問題や生き物を駆除すること、そのあたりはとてもセンシティブで、難しい問題ですね。サメやスズメバチに限らずですが、ヒトと生き物が地球上で共存できるような社会を目指したいですね。そのためにも、科学的な知識に基づいたサメの情報発信をしていきたいなと思っています。今日はどうもありがとうございました!

著書紹介

 

『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)

『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)

人類よりも先、地球に4億年前からすみつづけるサメは世界中に500種類以上存在する。全長17メートル(これまで確認された最大サイズ)の「最大の魚類」ジンベエザメから、手のひらサイズのツラナガコビトザメまで、分布や生息域、繁殖方法も多様性に富む、まさに”百鮫百様”の生き物。そんなサメを愛してやまないシャークジャーナリストが、サメの本当の姿を世の中に伝えるべく奮闘を繰り返した体当たり図鑑。本体1800円。

 

『スズメバチの真実』(八坂書房)

『スズメバチの真実』(八坂書房)

昆虫界において、食物連鎖の頂点に立つ帝王・スズメバチ。毎年報道されるスズメバチをめぐる事故はどう防げばいいのか? スズメバチは本当に駆除すべき忌避の対象なのか? 研究・調査中にスズメバチに刺されること100回余! 何度も命拾いをしながら危険を顧みず、50年以上にわたって愛するスズメバチを追い続けてきた気鋭の研究者が、豪快な体験談をもとにスズメバチの”真実の姿”に迫る。本体2000円。


写真/植野 淳 構成・文/新田哲嗣

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スズメバチもサメも人間のことをどう思っているのか???~「ニッチも フェチも いかない……対談」

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