飛騨牛の革で作られるカバンはなぜ他よりエライのか!? vol.2 極秘の革なめし編

GANZOの超レア革製最高級鞄の製革現場をe-Beginが特別取材飛騨牛レザー鞄の“スゴイ!”を徹底検証〈後編〉

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ガンゾ
7QS-Hシリーズ
リュック #57559

飛騨牛レザー採用の定番リュック。コンパートメントはレザーコード&フラップ付きメイン開口部のほか、胴サイドからもアクセス可。さらに前身頃にマチ付きのエキストラポケットを、サイドに縦ジップ付きポケットも搭載。W30×H42×D16cm。ブラックもあり。7万8000円。

 

食べたことがある人はおわかりでしょうが、飛騨牛の肉って、それはもう風味絶佳! しかも生産量少なめの希少な肉でもあるんです。が、その革となるとさらに希少。ガンゾ「7QS-H」シリーズを紹介する本企画では「前編」で製鞄工房を取材しましたが、この「後編」ではいよいよ同シリーズの本懐である飛騨牛レザーの魅力を検証! 飛騨地方では飼育~冷蔵処理までの各現場を、兵庫県姫路市ではなめし&加工工場を訪ね、風合い端正にして表情に“味”があり、深くエイジングする、この超レア革の誕生までをたどってみました!

 

そもそもなんで今まで飛騨牛の革ってなかったの?

考えてみれば、和牛の革ってあまり見ませんよね? 和牛の一種、飛騨牛も同様で、聞けば、以前、その原皮は他の飼育牛のものと区別せず、一緒に処理していたとか。が、肉のみならず原皮も極めて良質であるため、原皮に個体識別番号を付し、独自の保管法を編み出して新たな製革法も開発、2017年に本格的な製品化がスタートしたのです。なお、飛騨牛レザーにはいくつかのバリエーションがあり、ガンゾ「7QS-H」に使われているのは「飛騨牛グラサート」という最高級オイルドタンニンレザー。ということで、以下では「飛騨牛レザー=飛騨牛グラサート」を前提に解説します。

 

飛騨牛レザーの特長って何?

飛騨産黒毛和種の皮が原皮のオイルドタンニンレザーである飛騨牛レザーは、しなやかながらコシがあり、上品な色&ツヤ感も魅力的なエイジングレザー。このクオリティの高さに加え、個体識別番号で、飼育・生産履歴がトレースできる点も他の革と一線を画しています。

 

コレが飛騨牛レザーの5大特長だ!

①革本来の養分が生かされているので肌目がキレイ、かつ革質が引き締まっている。
②厳格な飼育管理により、虫喰いや傷が少ない。
③独自の製革システム&技術により、品質が安定している。
④100%タンニンなめしなので丈夫、かつエイジングする。
⑤製革時の仕上げ乾燥によって発生する戻りジワがなく、風合いが自然。

 

ということで飛騨まで行ってみた

e-Beginが訪れたのは岐阜県北部飛騨地方の中心地、高山市。この地は気温の年間差と日較差が大きく、冬は積雪量も多いのだとか。このような環境下では果物が甘みを増すとされますが、じつは家畜肉も同様で、その革も繊維がギュッと締まったものになるそうです。

山々から注ぐ清流、清らかな湧水、澄んだ空気……と、飛騨の豊かな自然の中で飛騨牛たちは飼育されている。

東京都より広い高山市!

飛騨地方の中心である高山市は市町村のうちで最大面積を誇り、東京都を上回る広さ(島嶼部を除く)。

「飛騨の小京都」と呼ばれる高山市さんまち通りには、江戸末期~明治期に建てられた屋敷が並ぶ。

とココで、そもそも飛騨牛って何?

高山市を含む飛騨地方で14か月以上飼育された黒毛和種のうち、肉質等級で3等級以上に格付けされた牡の去勢牛、または牝牛のこと。他のブランド和牛では最高位5等級以上が40数%だが、飛騨牛では約55%を占め、神戸牛に次ぎ価格相場が高い。その肉はきめ細かくて柔らかく、赤身にまでサシが入り、とろけるような旨みがある。ルーツ牛は安福号(1980~’93年)で、子孫も全て5等級というスーパー種牛だった。

約2万7000頭の産子を残し、現在、飛騨牛の約7割がその子孫とされる安福号は牡牛ながら、まさに飛騨牛の“生みの親”だ。写真は飛騨農業管理センターの敷地内に立つ安福号像。


訪問その1/飼育農家牛たちは“厳しく”&“やさしく”育てられていた!

良質な肉&革を得るには血統第一ですが、飼育の技術や環境も重要です。飛騨牛の飼育農家は約100軒。その1軒である辻畜産では餌や水にこだわるのはもちろん、日々、牛たちの体調チェックも怠りません。「病気にさせないのが重要。余計なストレスは与えず、のんびり過ごせるよう工夫しています」と辻 直司さん。換毛期は湿疹が出やすく、シラミに刺されやすいため、薬で予防。この時期以降も虫刺され予防は必須で、ことに皮膚にピンホール状の跡を残すアブには要注意です。「体を擦り付けると肌が傷付くので、かゆみ解消のための安全な柱を設けたりもしています」


辻畜産の飼育場遠景。同社は1960年創業。飼育頭数は平均160頭で、その3割が牝牛、残りが牡の去勢牛となる。

防疫は徹底的で、牛海綿状脳症(BSE)や口蹄疫、O-157などの感染を防ぐべく、敷地内への無断立ち入りは厳禁。入場には辻さんの許可が必要だ。


辻畜産で飼育されている牛たち。カメラを構えたところ、一斉にこちらに顔を向けたのは取材慣れしている(笑)からではなく、好奇心が強いから。

「1年365日、朝から晩まで牛たちのことを考えています」と語る代表取締役の辻 直司さん。夏場は4時頃、冬場でも5時半には起きて牛たちの管理・飼育に勤しむ毎日だとか。


訪問その2/食肉加工施設世界的ブランドに成長させた超絶管理体制

飛騨牛の食肉工場は県内にもう1施設ありますが、ここ「JA飛騨ミート食肉センター」では全体の約6割を生産。衛生管理に細心の注意がなされ、館内はじつに清潔です。また、毎週木曜に枝肉の競りも開催。個体識別番号の承認、生体と枝肉の履歴管理・検査、等級の格付け、飼育農家へのアドバイスなどにも努めています。さらに輸出推進にも熱心で、参事の下出敏樹さん曰く「EUやアジア各国など世界中に輸出されているんですよ」とのこと。聞けば、牛肉生産大国の米国やオーストラリアでも、日本の高級ブランド肉として認知されるようになってきたとか。ちょっと誇らしいですね。


訪問その3/原皮冷蔵工場塩漬けせず、フレッシュなまま速攻冷蔵&出荷

飛騨牛の原皮は解体直後、近隣にあるヒダカーフの工場へと移され、1時間以内に冷蔵されます。ここは日本初の皮革専用冷蔵・冷凍工場で、そのレンダリング(原皮や脂などの処理作業のこと)のノウハウとシステムは同社の完全オリジナルです。「一般に国内原皮は塩漬けが施されますが、『7QS-H』に使われている『飛騨牛グラサート』の場合、塩漬けはせず、そのままチルドにすることで新鮮さが保たれています」と同社の鈴木昌樹さん。しかも脂の酸化によって引き起こされる化学変化をチルドで抑制できるため、革にした際にほどよい脂分になるメリットもあるそうです。

フォークリフトで搬入した原皮を手作業で1枚ごとに巨大ハンガーに吊るし、自動で冷蔵室に移す。こののち、原皮の腐敗を防ぐべく、独自の冷蔵方法に基づき、24時間以上、チルド状態を保つなどして菌の活動を抑制している。

革小物職人でもあるヒダカーフの鈴木昌樹さん自らレンダリングを実演。原皮を手際よくハンガーに吊り下げ、包丁を使って不要部位をトリミングしていく。

2℃で冷凍された原皮は、冷凍室に隣接する冷蔵室に移され2~3℃の環境下でチルド保管、翌週、姫路のタンナー(次項参照)に向け出荷される。左はヒダカーフの鈴木さん。


訪問その4/タンナー(製革会社)手間を惜しまず、独自レシピで上質革を生産

なめし(鞣し)とは皮を革に変えること。飛騨でチルドされた飛騨牛の原皮は革にされるべく、日本一の皮革生産地、兵庫県姫路市のタンナー(製革所)、協伸へと移送されます。ということでe-Begin取材陣も飛騨から一路、姫路へ。協伸は1910年、この地で創業した老舗で、代表取締役社長の金田陽司さんは同社3代目。若き日にドイツで製革の高い知識と技術を身につけ、マイスターのさらに上位であるオーバーマイスターの称号を得たスゴイ人なのです。そして「飛騨牛グラサート」はガンゾ、飛騨の原皮生産者、協伸の金田さんのコラボから開発された“特別な”革なのです!


遠方に姫路城を望む。タンナーが集まる姫路市中東部では、各社共同の汚水処理施設を設けるなどして河川の環境保全にも努めている。

姫路市を含む兵庫県南西部は1800年以上前から革作りが行われ、平安時代にはすでに皮革の一大産地だと記録されている。


協伸のオフィスにディスプレイされた同社の製品サンプル。

革作りのオーソリティである金田陽司さん。「海外から最新の機械を直接購入するなどし、今までになかった魅力ある革の開発にも日々努めています」

 
金田さんによると「7QS-H」に使われている「飛騨牛グラサート」は伊・トスカーナの古典的タンニンレザーである「バケッタレザーをヒントに開発」した素材なのだとか。協伸は高品質の皮革を安定的に生産できるうえ、新しい素材の研究・開発にもアグレッシブ。こうした姿勢が高い技術力と相まって、バケッタレザーにも備わった特性(しなやかだがコシが強く、ニュアンスある表情がエイジングにより、さらに深みを増す……など)をもつ上質なタンニンレザーを生み出したのです。製革工程は複雑で、手間を惜しまぬもの。その中から、とりわけ特徴的な作業を以下に紹介します。

近くメイン工場となる新工場で、設置&稼働を待つ真新しいイタリア製回転ドラム(’18年8月現在)。ほかにも製品染めなどに用いるステンレスドラムも新たに導入。

 


飛騨牛レザーの製革で最も特徴的なのが、エイジングと呼ばれる工程を設けている点だ。タンニンでなめされたのち、6~8か月間、倉庫で革を寝かせることで、革のコラーゲン繊維とタンニンをしっかりと結合。風合いを深めることができる。

 


ドラミングで下染めされた革をドラムから取り出したところ。飛騨牛レザーの場合、こののち、4日間寝かせて色を定着させる。下染め&加脂後の水絞り伸ばし(水分を除き、革を伸ばす作業)。協伸では日本に1台しかない最新式の伊製機器「バウチェ」を使用。

 


水絞り伸ばし後の乾燥。夏場は自然乾燥、冬場は室内を暖めて乾かす。最近、協伸がイタリアから直輸入した最新式ネット張り乾燥機のデモンストレーション。ネット張り込みの際、自動で圧力を測りながら革を引っ張るので人の力作業が不要。その後、温度や湿度、送風の風力を調整しつつ、効率よく革が乾燥できる。

 


金田社長の長女ステファニーさん(右)と次女のクリスティーナさんが、バイブレーションと呼ばれる作業を行っているところ。機械に通された革が内部に設けられたピンに連打され、結果、よりしなやかに仕上がる仕組みだ。

 


仕上げ染色は機械を使ったスプレー式だが、飛騨牛レザーの場合、あえて薄化粧を採用。しかも革の状態を確認しつつ「染色→アイロン掛け」を3~4回繰り返すことで、革本来の質感を損わず、奥行きある色&ツヤを出している。

 


協伸は独自のルートで海外から原材料皮や薬品、製革用機械などを直接輸入&調達。染色剤も同様で、それらを使い、顧客の注文に則した多彩な色を作り出すことができる。

 

以上からもおわかりのとおり、ガンゾのエクスクルーシブ素材「飛騨牛グラサート」は惜しまず長い時間と手間ひまを費やし、高い技術と特別なレシピによってなめし&加工が施された超スペシャルな革。早い話、飛騨牛レザーも「7QS-H」も、飼育から製革、そして製鞄にいたるまで、ガンゾが徹底的にコダワリ抜いて作り上げた、とてつもなく“スゴイ!”レザー&コレクションというワケです。え? 飛騨牛のステーキが食べたくなっちゃった? もちろん肉も絶品。ですが、それと同じくらい飛騨牛レザーも“味わい”最高! ぜひその“スゴイ!”をガンゾ「7QS-H」でご賞味ください!

 

〈前編〉ガンゾの鞄工房取材はコチラ!

(問)GANZO本店 TEL.03-5774-6830/GANZO六本木店 TEL.03-3408-1703/GANZO大阪店 TEL.06-6120-9977
http://www.ajioka.co.jp

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写真/田丸瑞穂 構成・文/山田純貴