Dec-08-2025

【英国ニット】フェアアイルからアランまで400年の物語を辿る

ニット前史 確立期

【英国ニット 400年超のルーツを辿る】
荒涼とした島国で、羊から始まった英国ニットの物語。労働着として鍛えられ、戦後はファッションとして開花。現在は、上質で気楽な英国モノ「マイルドワラント」へ進化中。その400年の旅路をざっくり辿ってみよう!

【START:17世紀よりずっと前】寒冷な島国だからこそ!
羊から始まるニット前史

ヨーロッパでは、綿が広まる17世紀よりずっと前から、羊毛はめちゃくちゃ重要なアイテムだった。特にイギリスでは、寒さに強い羊がどんどん増えて、その毛が国の輸出の目玉に。なかには、お金に目がくらみ「人間より羊様!」なんて言い出す人も。

16世紀に入ると、エリザベス1世はニット産業を後押しし、職人の腕もぐんぐんアップ。なんと国民全員に「休日はみんなでニットキャップをかぶりましょう」というお達しを出す程のニット愛を発揮。日本では織田信長が天下統一を目指し、比叡山を焼き討ちしてた頃、イギリスはニットの天下だったのだ。

人より羊が多い国

人より羊が多い国

寒い国、イギリスは羊毛の宝庫。特に11世紀から牧羊が増えて、12世紀以降は質もアップ。中世には羊毛が国の一大産業になり、ヨーロッパ最大の輸出国になる。お金もうけのため農地は次々と牧場に変わり、羊が爆増した様子は、学者トマス=モアが「羊が人間を食べている」と皮肉る程だった。

編み機の開発と普及が進む

編み機の開発と普及が進む

1589年には、ウィリアム・リーという人が靴下やストッキングを編める機械を発明。妻が編み物をする姿からひらめいたこの機械、ひと目ずつでなく一気に1列編めるところが画期的だった。ただ、特許を申請するも、手編み職人の仕事を奪ってはならないと却下。その後、リーの弟子が改良を重ねたことで、編み機はのちの産業革命の一助になった。

エリザベス1世が羊毛産業を奨励

エリザベス1世が羊毛産業を奨励

上記編み機の特許を却下したのが、エリザベス1世。1571年に発令した休日にニットキャップ着用を義務付ける「キャップ法」は、自らも手編みのシルクストッキングを愛用してた女王が、庶民の手仕事を大切にしたいという思いからだった。やがて編み物の組合、ギルドができると生産が制度化。英国ニットの品質はぐんと高まっていく。

【18世紀】過酷な労働に耐える
地方ニットの確立期

地方ニットの確立期

18世紀、イギリスに産業革命のビッグウェーブが到来。機械が編んでくれる時代になり、手編みニットは次第にすみっこへ……。それでも地方には、家の中でコツコツと編み続ける人たちがいた。

冷たい海に出る漁師にとって、分厚くて丈夫なウールは命綱。港では帰りを待つ女性が、家族の無事を願いながら編み物に勤しんだ。やがて、嫁入りや漁場の移動とともに、さまざまな編み柄が土地を渡り、技も磨かれていく。こうしてフェアアイル、ガンジー、アランという、イギリスを代表するニットが生まれて進化していった。

カラフルな幾何学模様
フェアアイルセーター

フェアアイルセーター

スコットランド北のフェア島発祥。1段に2色のみ使い、配色を変えながら編む幾何学模様が特徴。その柄は難破したスペイン船や、近隣国から伝わった説がある。1922年、洒落者で知られるウィンザー公がゴルフウェアとして着用し、世界中で人気に。

無骨な機能美
ガンジーセーター

ガンジーセーター

英仏海峡のガンジー島から、英国中に広まったフィッシャーマンズセーター。もとは漁師の仕事着だったため、動きやすいマチ付きの脇下や、直しやすいメリアス編みなど工夫がいっぱい。のちに防寒のため、立体的な編み柄も取り入れられるように。

漁師の祈りを編み込む
アランセーター

アランセーター

アイルランド西部・アラン諸島に伝わるフィッシャーマンズセーター。未脱脂の極太糸で編むざっくり感が特徴。柄のケーブルは漁に使う縄、ジグザグは結婚生活や崖、ダイヤは富などの意味が込められている。本来は海でも褪色しにくい紺が中心だった。

 
※表示価格は税込み


[ビギン2026年1月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。

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