【ナイジェル・ケーボン】ZUKIさん流“育てる”ワークジャケットの魅力

アウター選び。それは、服好きにとって一年で一番テンションがアガる買い物でしょう。と同時に、冬服の大本命ゆえ、それなりの投資も必要だし絶対失敗したくない……。そこで本特集では、物価高や景気の良し悪しも吹っ飛ぶような珠玉のアウターを厳選! 必ずアガりの一着が見つかりますよ!
日本が誇る名デザイナーを直撃
一着入魂! 外套(がいとう)調査2025
名門の傑作アウターのお次にスポットを当てるのは、日本が誇る傑人たちのアウター! てなわけで“外套”調査と称し、国内で注目を浴び続けるデザイナーたちに直撃インタビューを敢行。日本人ならではのモノづくりへの魂が宿る、四者四様の一着をとくとご覧あれ!
「ワークとスーツの“余白”を狙いました」(ZUKIさん)
二十世紀前半の英国や欧州の職人たちが着ていたワークスーツを再構築するナイジェル・ケーボンの実験的ライン、オックスドシルバー。「炭鉱夫(コールミナー)」をテーマにした今シーズンの目玉は、コールミナー ジャケットです。
「当時の炭鉱夫が写った古い写真を見ているうちに、『ブラックモールスキンのテーラードジャケットに糸強度の高いヘンプを使用すれば、耐久性に優れるワークジャケットが作れるのでは?』という仮説が浮かんだんです。」
「彼らのワークウェアとしての耐久性を備え、かつ日本の風土に合った新たなジャケットを作ることにしました。」そう語るのは、ナイジェル・ケーボンさんの“影武者”といわれるデザイナーのZUKIさん。

1971年、愛知県生まれ。さまざまなブランドでデザインや企画業務に従事後フリーに。2005年にナイジェル・ケーボンさんと出会い、2023年にオックスドシルバーを立ち上げた。生地作りでは業界随一の豊富なノウハウを持ち、テキスタイルの魔術師の異名を取る。
元ネタは所有するフランスの老舗ワークウェアメーカー、アドルフ・ラフォンが1950年頃に作ったモールスキンジャケットです。「ノッチドラペルや背面のマルタンガル(ベルト状の布)など、一般的なチョアジャケットとはひと味違うデザインに想像力が刺激されて。」
「あとは60年代のチョアジャケットもデザインのベースにしつつ、当時のフレンチワークで用いられたブラックモールスキンをイメージしたオリジナルのヘンプ交織生地を使用しました」
通常のモールスキンではまず使われないヘンプが選ばれた理由は2つあるという。「まずは快適性。ヘンプは繊維の中に空気層を持ち、吸湿性にも優れるため、夏はさらっと涼しく、冬は暖かい。真夏を除く3シーズン着られます。」
「そしてエイジングの味わい。最初はハリがあって硬いけど、洗うたびにフィブリル化という現象が起こり、繊維表面がほぐれて毛羽立ち、ヴィンテージのモールスキンのような起毛感とフェード感が生まれます」
特にモールスキンは横糸が表に多く出るため、横糸を太番手のヘンプにすることで、ヘンプ特有の表情がしっかり現れます。ただし、ヘンプ糸は硬く摩擦で切れやすいため高密度で織りづらいため、熟練の職人でしか製織できません。さらにヘンプはペクチンという糊成分により「肌になじむまで十年かかる」と言われています。
加工で柔らかく仕上げることも可能ですが、本作では自然な風合いを重視してワンウォッシュのみに。「ヘンプは日本の気候に適しているだけでなく、その経年変化にも日本人の感性に響くいぶし銀の美しさがあります。ぜひ十年着込んで、世界に一着のヴィンテージへと育ててほしいですね」

NIGEL CABOURN[ナイジェル・ケーボン]
コールミナー ジャケット
ヘンプ67% × コットン33%のモールスキンを使ったワークジャケット。色が黒に近いチャコールグレーなのは、当時の染料では漆黒に染まらなかったため。胸ポケットには懐中時計を収めるためのウォッチポケットも備えている。6万4000円(アウターリミッツ)

元ネタは秘蔵のヴィンテージジャケット

同じ素材のオーバーオールとセットアップで

※表示価格は税込み
[ビギン2026年1月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。
