連載[令和に響く昭和のハナシ]

レトロスタイリッシュな掃除機に記された筆跡から、昭和の生活風景を夢想する

東芝の掃除機

エモさ満点のジャポニズム傑作を知る[令和に響く昭和のハナシ]
昭和を愛し、昭和暮らしを謳歌する平山 雄による、後世に語り継ぎたい名作語り。今回は、ありし日常風景を連想させる掃除機を紹介!

Profile
平山 雄さん

昭和ヲタク

平山 雄さん

古物商として働きながら、SNSやブログを通じて昭和をレポート。著書に『昭和ぐらしで令和を生きる』(303BOOKS)など。

モノを手にする喜びが体現された、その原体験の証ともいえる筆跡

昭和時代には当たり前としてあったけど、現代ではなくなりつつある文化や風習みたいなものって、たくさんありますよね。

たとえば年賀状。もちろん、今でも大量の年賀状を送る人は多いと思いますが、調べたデータによれば、年賀ハガキの発行枚数は2003年をピークに、現在ではなんとその3分の1ほどまでに激減しているそうです。

ほかには、よく駅の改札前に設置されていた伝言板。昔は駅で複数の友人と待ち合わせをして、時間どおりに来ない人がいたときなどは「先に行ってる。現地で会おう!」みたいなことを書いていたもんです。ところが、今ではほとんど(完全に?)見かけなくなりました。まあ、今の時代は携帯電話やメールですぐに連絡ができるので、なくなっていくのは自然な流れだと思いますけど。

僕は古物商を本業にしているわけですが、古道具を取り扱うなかで、よく見かける風習があります。それは、モノに書き込まれた日付。よくあるパターンとして、柱時計の側面や鏡の表面に、新築祝いなどで「贈 ○○○○年○月○日」と書かれているものがあります。

この風習は、今では全くと言っていいほど見かけなくなりましたよね。これがいつ頃から始まった風習なのか定かではありませんが、ちゃぶ台の天板の裏などに大正時代や明治時代に書かれたものをまれに見かけるので、かなり昔から存在した風習のようです。

今回ご紹介する東芝の掃除機「VC-60VB」は、3年ほど前に業者市場で見つけてきたものですが、一番のチャームポイントは、なんといってもマジックで大きく記された日付。

書かれている「S47・3・15」は、購入した日付だと思われますが、当時のささやかな風習が刻み込まれていて、昭和らしさや当時の生活ぶりまでが伝わってくるようです。もしかすると、新しいものを買った時の高揚感から、その歓びを記念に残したかったんでしょう(笑)。

東芝の掃除機
サインペンで記された日付から経験しえない人の営みを追憶

赤いボディは往年のスーパーカーを彷彿とさせる緩やかなカーブを描いていて、とてもスタイリッシュ。中央の黒いラインには、吸ったゴミの量が一目でわかるダストメーターや、電源スイッチが配置されています。

この時代の掃除機は現代のものと比べて音が大きかったり、多少重たかったりしますけど、吸引力などの性能は現代のものと比べても、まったく引けをとっていない気がします。それに、約半世紀も前に製造されたものにも関わらず、現在でも壊れずに使い続けていられることが、品質の高さの証明ですね。

やっぱりエライぞ、東芝
東芝は1931年に国産第一号の掃除機を販売したことでも知られています。ノズルに集塵袋を取り付けたホウキ型掃除機で、現在の製品にも通じる機能を搭載。現在では、吸引力アップ、軽量化など進化が止まりません。

 
※表示価格は税込み


[ビギン2025年3月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。

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