Nov-03-2023

好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]VOL.27

荒削りなアイデアの中に確かに覗く個性と情熱

まだ見ぬグッドデザインに出会いたい―。その想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。

TECTA テクタのF41E COUCH

製品になったこと自体に夢がある

僕がやっているグラフペーパーの昨シーズンはマルセル・ブロイヤーがキーワードのひとつで、それをやるからには持っていないとなと思い、買ったのがこのチェア。

横の車輪をグルグル回すと実際に椅子が動く仕組みで、1928年……まだブロイヤーが二十歳そこらのときにスケッチしたと言われるデザインです。

でも、それが実際に製品化されたのは本人の死後の1984年。それだけの期間を空けて製品になったこと自体に夢があるなと思うし、そこに踏み切ったテクタ社もすごいと思う。たくさん売れるものだと思っていたとは考えにくいから(笑)、余計にブロイヤーへのリスペクトを感じます。

正直、このデザインにすごく惹かれはしませんが、こういう発想でものを考えていった先で、後年の洗練された名作が生まれるに至ったんだな……と思うと、なんだか感慨深さもありますよね。

僕自身、昔作ったお店はもう二度とやりたくないし、初期に作った服も見たくないなと思っていたりするので、ブロイヤーご本人が本気でこのデザインを形にしようとしていたのかはわかりません。でも、生前の意思がこうして残るのは素敵だと思います。

「人間、死んだら何も残らない」なんてよく言われますけど、それでも何かを残せたらすばらしいですよね。実際に彼がやった仕事は生き続けているし、デザインをする人っていうのは、そういう価値を作っていかなきゃいけないんじゃないかなと。そんなことを考えさせられるんです。(南 貴之)

「名匠の 轍の跡や かくありき」

TECTA テクタのF41E COUCH

BRAND:TECTA
ITEM:F41E COUCH
AGE:UNKNOWN

スチールパイプを使ったブロイヤーのデザインの着想源が自転車だったことは有名だが、この“F41”はそれが顕著。車輪やハンドルと有機的なラタンの組み合わせという大胆な発想もしっかり再現。「フライング・ファニチャー」の呼び名は伊達じゃない。現在はアクタスにて購入可能。41万9100円(アクタス)

DETAIL

TECTA テクタのF41E COUCH

ギアとチェーンの組み合わせは、まさに自転車そのもの。それを支えるフレーム部分に、ブロイヤーがその生涯で多用したカンチレバー構造の源流が垣間見られる。

Profile
南 貴之

好事家

南 貴之

1976年生まれ。PR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中を巡り、良品を探している。

 
※表示価格は税込み


[ビギン2022年6月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘

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