好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
シンプルさに垣間見る海外の洗練と日本の高品質
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい――。そんな想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
ハードとソフトのつながりで進化した
’60年代から’70年代くらいにかけて、日本の陶器メーカーが海外からのオーダーで洋食器をつくって輸出していた時期があるんですが、今回紹介しているのはそのデッドストック。まだ日本の工場の工賃が世界と比べて安かった時代に、OEM生産されていたんだと思います。
この白磁のお皿みたいに銘のないものも多いんだけど、ちゃんとデザイナーがわかるものもあって、このポットやミルクピッチャーはアメリカ人デザイナーのラガルド・タケットさんが手掛けたもの。この形を表現できる日本の技術力もすごいけど、日本人なら「そもそもこのデザインに行きつかなかった」気がします。
海外の人たちが関わって日本の民藝運動が興ることが多いのと同じように、この輸出用の食器も日本がハード側で、ソフト側の海外の人たちとのつながりで進化したみたいなところが確実にあると思うし、それが面白い。もしかしたら、海外に行ったらこういう物の古いものが見つかるかもしれないですね。
ちなみに僕は日本で見つけました。メーカーさんの倉庫から流出したとか、昔事業をやってた問屋さんが潰れちゃって在庫が出回ったとか、いろんな可能性があると思うんですが、何でこれが日本に残ってるのかを想像するのも楽しいですよね。
今は簡単に海外にも行けない状況になってしまったこともあるし、この機に日本のことをもう一度見直してみるのもいいんじゃないかなぁ、なんて最近考えています。(南 貴之)
「いとをかし ジャパンメイドの 洋食器」
BRAND:UNKNOWN
ITEM:TABLEWARE
AGE:1960〜1970s
白一色の配色は、フォルムを問わず古さを感じさせない。左上から、ウォータージャグ1万4300円、ポット1万5400円、ミルクピッチャー4950円、丸皿各3080円(フレッシュサービス ヘッドクオーターズ)
DETAIL
ラガルド・タケットのデザインは、まるでモニュメントのように縦にすらりとのびたフォルムとハンドルの角度のバランスに個性が光る。食卓映えのよさは特筆モノ。
米国ミッドセンチュリーの実力派[ラガルド・タケット]
1911年生まれ、ケンタッキー州出身のデザイナー。デパートのインテリアプロモーションディレクターなどを経て、1953年に自身の会社での大規模な陶器事業を開始。じつは、京都で数年間暮らしていたという経歴を持つ。
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中のマーケットを巡り、日々新たな良品を探している。
※表示価格は税込み
[ビギン2021年5月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘 イラスト/TOMOYA