好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行［古具のほそ道］VOL.10
ミニマルなのに“この人だ”とわかる究極のデザイン
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい――。そんな想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
バウハウス在校中に生まれたブロイヤーの代表的デザイン
この連載では何度か触れてきましたが、ウィルヘルム・ヴァーゲンフェルドもバウハウス出身のデザイナー。ここではソルトアンドペッパーシェイカー、塩コショウ容れの話を。
僕は昔からあまり曲線的なデザインには惹かれないんですがこの人だけは別で、本当にフォルムが完璧。ステンレスのキャップや台の形状も考え抜かれてると思うし、生産しているWMF（ヴェーエムエフ）はステンレス製品が得意なメーカーで、このシェイカーにもそれが活きていると思います。
ソルトアンドペッパーシェイカーはこれまでにたくさん見てきましたけど、これ以上に美しいと感じるものには出会ったことがないなぁ。
機能としては調味料を振りかけるためだけのものだし、そこに芸術性は必要ないって言う人もいるかもしれませんが、それが日々の生活で使われて、常にテーブルの上に在ることを考えると、僕はそこに芸術性があるものを選びたい。生活に根差したもの、機能や合理性が求められるものにも芸術的造詣が活きるべき、というバウハウスの精神がやっぱり好き。
それに、この人の作るモノはミニマルなのに、絶対に“ヴァーゲンフェルドのデザインだ”ってわかるんです。それって、究極のデザインですよね。僕たちもモノ作りをするうえですごく触発される。
シンプルでも、“この服はグラフペーパーだな”って思われるように。そんなところを目指していきたいなと、テーブルを眺めながらふと、思いました。（南 貴之）
「日常に 芸術性の スパイスを」
BRAND：WMF
ITEM：SALT&PEPPER WAGENFELD
AGE：1950s
輪郭線の精緻が際立つ、やや薄めのガラス製。キャップははめ込むだけのシンプルな設計ながら外れにくいよう計算されている。誕生から半世紀以上の時を経ても色褪せない、洗練の極致と言うべきデザイン。本人私物。
DETAIL
ガラス製の食器類も、ヴァーゲンフェルドのデザインでは知名度と人気の高いプロダクト。スモークカラーとクリアで表情の異なるボウルは、小ぶりなサイズ感が洒脱。
今買える！［ヴァーゲンフェルド］
ドイツのWMFによる現行モデル。クロムの含有量が多く、サビに強く繊細に輝くクロマーガンという独自のステンレス素材と透明度の高いソーダガラスを使用する。5000円（グループセブ ジャパン お客様相談センター）
南 貴之
1976年生まれ。国内外のブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。公私混同しながら世界中のマーケットを巡り、日々新たな良品を探している。
［ビギン2020年12月号の記事を再構成］写真／若林武志 文／今野 壘
