好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
無機質なフォルムに見るモダニズムの源流
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい――。そんな想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
時代の過渡期を感じられる
ご存じの方も多いと思いますが、バウハウスは1919年に設立されてミース・ファン・デル・ローエなど、優れたプロダクトデザイナーを輩出した学校。校長だったヴァルター・グロピウスという人が提唱した、“無駄な装飾をなくした合理的なデザイン”というバウハウスの考え方が僕は好きなんです。
今回紹介するデスクランプをデザインしているマルセル・ブロイヤーもバウハウス出身で、1925年に開催されたパリ万博というアール・デコの博覧会で発表されたのがこのランプでした。
ブロイヤーのランプは装飾を排除する現代のデザインに向かっていく最初期の作品のひとつなんじゃないでしょうか。そういう時代の過渡期を感じられるところも面白いし、単純に有機的な装飾を避けて、実用的にデザインされている点にも惹かれます。
真鍮にニッケルでメッキが施されていて、経年で徐々に擦れてくるんですが、ピカピカの新品よりもその表情のほうがいいんですよね。下向きの光が柔らかくて、雰囲気も出る。ブロイヤーは建築家なので、“空間に合う”ようにとデザインしたんでしょうけど、これがひとつあるだけでも絵になるんです。
僕自身は基本的にやる気がない人間なので(笑)、進んでデスクに向かうことはないんです。でもそこに好きなデザインがあると、座ってみようかな~と思える。それがなかったら仕事が始まらない……っていうのは言いすぎかな(笑)。(南 貴之)
「時経てば 輝き増したり バウハウス」
BRAND:MARCEL BREUER
ITEM:DESK LAMP
AGE:1925
直線と曲線を明確に使い分けた、シンプルかつ独創的なデザイン。ホイッスルのようなシェードとパイプオルガンのようなアームの組み合わせが美しい。38万5000円(フレッシュサービス ヘッドクオーターズ)
DETAIL
直線と曲線を明確に使い分けた、シンプルかつ独創的なデザイン。ホイッスルのようなシェードとパイプオルガンのようなアームの組み合わせが美しい。38万5000円(フレッシュサービス ヘッドクオーターズ)
南 貴之
1976年生まれ。ブランドのPR業をはじめ、型にはまらず活動中。世界中を巡り、日々新たな良品を探している。
[ビギン2020年9月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘