好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
初期イームズを代表する戦後生まれの傑作チェア
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい――。そんな想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
“時間の経過”だけはデザインできない
昔から収集癖があるんです。牛乳瓶のフタとかビックリマンシールとか(笑)、自分の家具好きはその延長にある気がしています。ただ、「このデザイナーのプロダクトを全部揃えたい!」という気持ちはなくて。イームズで言えばシェルチェアではなく、このラウンジチェアが好きで、これだけは見つけると食指が動いちゃいますね。
反りの曲線とか荷重に対するしなりも含めて計算された設計とか、とにかく素晴らしい。日本ではハーマンミラー社製のイームズが一般的だと思うんですが、じつは1940年代に3年間だけ、エヴァンス・プロダクツという会社が生産していたんです。佇まいが少し違っていて、僕はエヴァンス社製の雰囲気が好き。
こういう昔のモダンデザインって、ピカピカだと少し気恥ずかしいけど、経年でヤレてきてからがいいですよね。僕も空間や内装をデザインすることがあるんですけど、時間の経過だけはデザインできない。古そうに見せることはできても、それをやっちゃうとやっぱり偽物なんですよ。
デザイナーズからアノニマスなものまで、家具は常に探していて、少し前にはドイツからオランダ、ベルギーへ行ってまたドイツに戻って。2週間かけて4000キロくらい旅をしてきました。移動距離は、全然“ほそ道”じゃないかもなぁ(笑)。(南 貴之)
「木の板を あつめてうつくし ラウンジチェア」
BRAND:EAMES
ITEM:LCW(LOUNGE CHAIR WOOD)
AGE:Late 1940s
チャールズ&レイ・イームズが1946年に発表した成型合板チェア。『タイム』誌で20世紀最高のデザインに選出された名品だ。45万円(ヒビヤ セントラルマーケット/グラフペーパー)
DETAIL
背もたれに座面、脚まで、随所が5層の合板の湾曲で成形されている。機能性に基づいた無駄のないフォルムは今見ても抜群にモダン。
座面の低いラウンジチェア以外にダイニングチェア(中・右)も展開され、メタルレッグのものも存在する。左のみハーマンミラー社製。
南 貴之
1976年生まれ。国内外ブランドのPR業、グラフペーパーやヒビヤ セントラルマーケットの主宰など、型にはまらず活動する。有名・無名を問わず、秀逸デザインの家具や道具に目がない。
[ビギン2020年4月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘