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2022年シーズンプロ野球史上日本人トップ最多本塁打となる56号ホームランを放つヤクルトスワローズの村上宗隆選手

シーズン本塁打数の日本新記録に迫った村上の56本塁打を過去の記録と検証する

 プロ野球は、激戦だったシーズンがようやく終焉を迎えた。セントラル・リーグは東京ヤクルトスワローズ、パシフィック・リーグはオリックス・バファローズがリーグ優勝を決め、お互いクライマックスシリーズを制して、日本シリーズに進出。現在、白熱の展開となっている。今シーズンもいよいよフィナーレが見えてきた。

 振り返ると、今シーズンたびたび大きな話題になったのは、村上宗隆(ヤクルト)の打棒の爆発ぶりだった。交流戦MVP(最高殊勲選手)に加えて、6月から8月まで3カ月連続で月間MVPを受賞するなど、長期にわたり好調を維持してきた村上は、特に本塁打をハイペースで打ちまくるようになる。8月11日に史上最年少の22歳で40号に到達した頃から、世間的な注目度も急激に上昇し、2013年にウラディミール・バレンティン(ヤクルト<当時>)が記録したシーズン60本の日本記録更新への期待がささやかれるようになっていった。

 そして、9月2日には松井秀喜(巨人、ヤンキースほか)以来20年ぶりとなる50号、6日に野村克也(元南海ほか)と落合博満(ロッテほか)の2人がかつて記録した52号にも並ぶ。さらに13日には、通算868本塁打を記録した「世界の王」王貞治(巨人)が1964年に残した55号までたどり着いた。

 残念ながら、その後は調子を落としてしまい、シーズン最終戦の10月3日、それも最終打席で渾身の一発をライトスタンドに放ち、王を抜く56号を記録したところで打ち止めとなったが、終わってみれば打率.318、56本塁打、134打点で主要打撃部門での三冠王を獲得。村上の強打者としての存在価値はこの1年で早くも“レジェンド級”に跳ね上がった。

ここまでの数字を残したのであれば、歴代のレジェンドとも比較してみたい。そんな衝動から、ここでは特に村上の本塁打数に注目し、「本塁打占有率」という数字を活用して歴史的な観点から掘り下げてみようと思う。

村上の「リーグ内で本塁打独り占め」した割合をバレンティン、王と比較

 耳慣れない用語なので、最初にわかりやすく前置きしておこう。「本塁打占有率」とは、1シーズンにおける同一リーグの全本塁打の中で、1人の選手が打った本塁打が何パーセントの割合を占めていたか?を示すものである。もっと単純にいうと、今シーズンのリーグ内で、対象の選手が本塁打をどれだけ“独り占め”したかを知ることができる数字だ。

 打率と同様、割り算をひとつするだけ。横文字だらけの仰々しい設定や難解な計算式などない簡素な方式だが、「今年は“あの選手”がやたらとホームランを打っている姿を見たなぁ」という感覚的な印象の真偽を確認するには十分な説得力がある。割合が高ければ「リーグの全打者が本塁打を打つのに苦労しているなか、1人抜きん出て量産している」ということになるからだ。

 さて、2022年シーズンの村上はどうであったか? 以下、図のような結果が出た。

2022年ヤクルトスワローズ村上宗隆のホームラン占有率グラフ

 8.1パーセント……。当然、これだけではすごいのかどうかはわからない。そこで、村上の先人として、ウラディミール・バレンティンと王貞治の2人に時空を超えて登場してもらい、当時の記録から同じようにして、以下に算出した。

ヤクルトスワローズ村上宗隆のホームラン占有率とバレンティンと王貞治の比較グラフ

 3人の数字からわかるのは、本塁打占有率は8パーセント前後であるということ。今シーズンの村上は1964年の王さんよりはわずかに本塁打を独り占めしたが、日本記録を樹立した2013年のバレンティンにはおよばなかったということだ。

 思い起こせば、たしかにバレンティンの打棒は特に夏場以降に猛威を振るい、まさに「本塁打を独り占め」するかのように、連日、スポーツ報道を賑わしていた記憶がある。今年の村上はそのバレンティンにややおよばなかったものの、データ的にもほぼほぼ同程度「独り占め」していたと確認することができた。

 正直いうと、今年の村上は連日過剰ともいえる報道ぶりだったこともあり、実はバレンティンや王ほどは「独り占め」状態ではないのではないか?という疑念を勝手に抱いていた。しかし、それがまったくの杞憂であったことがわかったのだ。

「独り占め」本塁打者には、さらに上をいく者がいた

 村上、バレンティン、王の3人の本塁打占有率は、どれも似たような数字であることがわかった。では、ほかにも「本塁打を独り占め」した選手はいなかったのだろうか? 続いては、それを知るべく、歴代の「本塁打占有率」をすべて算出して、ランキングから村上の立ち位置について検証した。

 2リーグ制が始まった1950年以降、今年までにセ・パ両リーグから輩出された本塁打王は、今年達成した村上と山川穂高(西武)を加えて延べ157名にのぼるが、トップ10は以下の表のとおりである。

プロ野球歴代のホームラン王本塁打占有率上位ランキング

 なんと! 55本以上記録した3選手のさらに上をいく「独り占め」ホームランアーティストが存在していたのだ。

 歴代1位は、2011年の中村剛也(西武)による10.6パーセント。フィジカルの向上により、打順下位の打者でも本塁打がよく出るようになり、昔よりも中心打者との本数の格差がなくなっていると思われる現代野球において、中村がこのような数字を挙げていたのは驚異としかいいようがない。

 2011年は「統一球」という飛ばないボールが導入されたこともあり、リーグ総本塁打数は前年の742本から454本に激減した状況だった。その中で、1人別次元の48本塁打を放った「おかわり君」の打棒は、すでに“伝説の域”に足を踏み入れていたのである。

 ただ、「10.6パーセント」という数字を出されても、なかなか実感できないところがある。そこで、もう少し身近に感じられるよう、ランキングの右端にもうひとつ別の数字を出しておいた。今シーズンの村上にシチュエーションを合わせる意味で、分母を2022年セ・リーグ総本塁打数の691本に揃えて換算した「仮想本塁打数」である。

 ちょっとした数字の遊びではあるが、「もし、2011年パ・リーグ全体の本塁打数が今年のセ・リーグ全体の本塁打数と同じだったとすると、中村は何本の本塁打を打ったことになるのか?」という疑問に対して、答えはなんと! 73本放っていたことになる。

 そして、歴代本塁打占有率2位だった中西太(西鉄)が64本。中西は現在も存命だが、「守っている野手が頭上のライナーにジャンプして捕れなかった打球が、そのままグングン伸びてスタンドに届いた」、「ファウルチップしてミットに入ったボールが(スイングしたバットとの摩擦で)焦げ臭かった」といった現役時代の逸話は、もはや伝説になっている存在である。かつて、とある野球ゲームに伝説の選手として登場する中西の本塁打設定を60本としているものがあったと記憶している。当時は、「大げさに盛られた数字」という認識だったが、実は「なかなかいい線をついていた」というところが面白い。

それでも、村上が村“神”様であることは揺るぎない

 2位以降は、歴代本塁打占有率8.5パーセントで1962年の野村が3位に入り、前述のバレンティン、村上、王は、4~6位に続いていることが判明した。結論として、これだけのそうそうたるメンバーが上位を占めるなか、堂々とその名を連ねた今シーズンの村上は、やはりすごかったのだ。

 長々と面倒くさい分析をしておきながら、「なに当たり前のことを言っているの?」と思われるかもしれない。だが、22歳にしてこの域に達したことは本当に稀有なことである。そして、「まだ22歳」ということもできる。一般的に考えて、選手としてのピークはまだ先にあるはずで、来年以降、我々をもっと驚かすような記録を樹立してくれるかもしれない。

 そう思うと、まだ今シーズンの日本一が決まっていないというのに、早くも次のシーズンが楽しみになってしまった。

フリーライター
キビタキビオ

《野球をメインに媒体の枠を超えて活動》
2003年より専門誌『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を務める傍ら、様々なプレーのタイムを計測する「炎のストップウオッチャー」を連載。12年にフリーとなり、インタビュー、データ、野球史の記事や選手本の構成など幅広く担当。『球辞苑』(NHK-BS1)にも出演中。

文・図表作成/キビタキビオ

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