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「もし一着だけフリースを買うとしたら、何を選びますか?」
こう聞かれて“パタゴニアのシンチラ”と答える人には、もしかすると共通点があるかもしれません。それは“モノ”と等しい熱量で、“ストーリー”にも惹かれる人。さらには、いつどこで着るのか、そもそも本当に必要なのか……想像力を働かせて、懐疑的に買い物を楽しめる人も。
それは一体なぜか。なぜブレない審美眼を持つ人ほど、シンチラに単なるフリース以上の価値を見出しているのか。誕生から40年近い年月を経た今、改めてその理由に迫ります。


そもそも今世の中にあふれているフリースを初めて作ったのは、パタゴニアだということをご存知でしょうか。
始まりは1970年代中頃。登山界ではまだウールなどの天然素材で作られた衣類を重ね着するスタイルが主流でした。そんななか、パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード氏は、汗や雨を吸って重たくなってしまう衣類ではなく、すぐに乾いてくれる製品を作ろうと、北大西洋の漁師が着ていた化学繊維のパイルセーターに目をつけます。
しかし当時のアメリカ市場には、衣料用のパイル素材は皆無。そこで辿り着いたのが、なんと米国の生地メーカー、モルデン・ミルズ社(現在のポーラテック社)が作っていた、便座カバー用のパイル素材を、衣類用に改良して転用するというアイデアだったのです。
同社とタッグを組んでサンプルを作り、フィールドテストを重ね、1976年には「パイルジャケット」を、1980年には模造ウール「バンティング」素材を開発。
着実に改良を重ねていった結果、晴れて1985年に「シンチラ・フリース」素材を開発するに至りました。

軽くて暖かくて肌触りもよく、濡れてもすぐ乾き、毛玉になりにくい。
まさに非の打ち所のない製品が完成し、フリースがそれまで“ひと連なりの羊毛”を意味するものから、“ポリエステルを起毛させた生地”という意味へと刷新させることになったのです。
さらに1993年からは、回収したペットボトルを再利用したリサイクル・ポリエステルの採用もスタート。まだ今ほど環境問題について真摯に見つめる世相が醸成されていなかった当時、具体的なアクションをもって、製品開発と環境保全を両立させる姿勢には、多くの人々が衝撃を受けました。
「シンチラ」とは石油由来の化学繊維を表す“シンセティック”と、南米の山岳地帯に住む“チンチラ”から命名した造語。
ですが背景を重んじる物好きにとっては、シンチラは単なる素材名や製品名ではなく、すべてのフリースの原点であると同時に、環境保全へ意識を傾ける契機にもなってくれた、特別な存在なのです。

アウトドアフィールドで着用するギアとして生を受けながら、様々なライフスタイルに寄り添うデイリーウェアとして支持されているのも、シンチラの懐の深さ。多彩な顔を持つアイテムとして、心酔する服好きが後を絶ちません。
かくいう木村さんもその一人。
「そもそもパタゴニアという企業自体に興味を持ち始めたのは、たしか1987年。高校1年生の頃でした。友人が持っていた雑誌で、イヴォンさんと日本人スタッフの対談記事を読んで、こんな企業があるのか!と。クリーン・クライミングや充実したリペアサービスなど、徹底的に環境問題の改善に取り組んでいたし、従業員にも細やかな配慮が行き届いていて、強く感銘を受けたんです」

かくしてパタゴニアに憧憬の念を抱き始めた木村さん。最初に買った製品は、やはりシンチラだったそう。
「1990年、大学1年生の時、スノーボードをするために友人と北海道旅行に行ったんです。そこで、せっかくなら雪山で着られる製品を購入しよう!と思い立ち、札幌でパタゴニア製品を取り扱っている秀岳荘というお店で、黒のシンチラ・スナップTを購入しました。
実際にスノーボードでもミッドレイヤーとして着用しましたし、旅行から帰ってきた後は、キャンプで着たり、洒落着として街中で着たり、とにかく溺愛していましたね。大学卒業後にロフトマンに入社するんですが、その面接時にも最初に買ったシンチラ・スナップTを着ていったことを覚えています。当時の一張羅でしたから(笑)」

シンチラ効果もあって?(笑)、無事に入社を果たし、社会人となってからも折を見てシンチラ製品を買い足していたという木村さん。
「クラシック・レトロX・ベストにR2・ジャケット、DAS・パーカにストーム・ジャケット……。シンチラ以外にも数え切れないほど多くの名作を愛用してきましたが、やっぱり一番多く買い足してきたのは、シンチラシリーズのアイテムかもしれません。
今日着ているのは一番思い入れが深いマンゴーカラーのシンチラ・ベストなんですが、これは1999年にファッションの店として初めてパタゴニア製品を取り扱えるようになった、記念すべきーズンに購入したもの。他にもセンスを感じるカラバリが多くて、毎年楽しませてくれるんですよね」

現役を退いたシンチラも、致命的な破れなどが生じない限りは手放さないという木村さん。
「昔からパタゴニアの製品だけは、売ったりあげたりしないと決めてるんです。ただ親族に貸すことはあります。いつでも回収できますからね(笑)。30年以上前に初めて購入したシンチラ・スナップTは、友人のタバコの火で袖に穴が空くハプニングがあったものの(苦笑)、ボロボロになるまで着倒して、パタゴニアの直営店で回収してもらいました。
どういう哲学を持つ企業が、どういう発想の元作った製品なのか。その背景を知ったうえで愛用することこそが、ファッションの本来の在り方なのではないか。パタゴニアという企業も、シンチラ・フリースも、そう自分に思わせてくれる、替えのきかない教科書なんです」

シンチラはアウトドアフィールドにおいて、“ファッション”を出自とする他ブランドのフリースにはない安心感があります。
倉内さんも登山時のパートナーとして、シンチラに絶対的な信頼を置いているそう。
「ただ実は僕の場合、最初から登山用ギアとして購入したわけではなかったんです。フリースの元祖として憧れの存在だったものの、高校時代は高嶺の花で手が届かなくて、ようやく手にできたのは大学入学後。2020年の2月、カナダのバンクーバーへワーキングホリデーに行った際、日本より手頃に入手するチャンスだ!と、意を決して購入しました。ただその時点では、まだあくまでデイリーウェアとして使うつもりだったんです。
でも購入してすぐコロナ禍に入り、4月には帰国せざるを得なくなってしまった。休学期間はまだまだ残っていたし、何か有意義に時間を使いたいけれど、人と関わるのは難しい。それなら登山にトライしてみよう。そこでシンチラも活用してみよう、と」

最初に赴いたのは、鹿児島県の屋久島。
「宮之浦岳に登って、かねてから趣味だった写真と動画を撮影したんですけど、それを機に一気に登山に魅せられてしまったんです。それからは神奈川の塔ノ岳(上写真)にも登ったり、北海道の利尻島や礼文島に行ったり、全国津々浦々の山々に足を運んでは、写真と動画を撮影。まだ見たことのないような場所まで行って、自ら撮影した風景をインスタにポストする。その一連の流れが趣味になりました。美しい景観に抱いた感動や、壊れゆく自然に対する危機感などを共有できればなって」

以降、倉内さんが物を買う際に、新たな基準が設けられることに。
「月並みではあるんですが、買うかどうか見定める指標にしているのが、“山だけじゃなくて街でも着回せるかどうか”。単純に出費も抑えられるし、環境のことを考えても、やっぱり山街兼用できるアイテムの方が、断然理に適っているんですよね。その点シンチラはパーフェクト。
これを着て色んな山に登りましたけど、軽くて暖かくて着心地もよくて、自然に触れる時間を、より実り豊かなものにしてくれる。ただ優秀なギアである反面、誰もが知るフリースの定番で、街着としても市民権を得ている。正直これほど才色兼備な製品はありません。店頭で接客する際も、それを身をもってお伝えしています」

シンチラ・ジャケット/スナップTやベストと並ぶ、シンチラファミリーの顔役。37年の歴史のなかで幾度か仕様変更されているが、今シーズンからはまたデザインが一新。80年代〜90年代に採用されていたクラシカルな顔つきに郷愁を誘われるファンも多いはずだ。各1万9800円。

左胸のナイロンポケットには、横向きのジッパーが設けられ、P-6ロゴ入りのプルタブも完備。アイコニックなナイロントリミングと相まって、ディス・イズ・シンチラなルックスに仕立てられている。中肉の8オンス・リサイクル・ポリエステル素材も、軽くて暖かく、レイヤードにも適しているので、幅広いシチュエーションで活躍。お馴染みの毛玉防止加工も施されているので、ガシガシ着回しても安心だ。

退屈だったアウトドア製品を彩り豊かなものにしたのも、パタゴニアの偉大な功績のひとつ。シンチラに関しても“今年はどんなカラバリ!?”と、ワクワクを抑えられないファンも多いはずだ。上のオートミール ヘザーやブラック、ニュー ネイビーは鉄板として、プルーム グレー(羽根のようなグレー)だなんて、ネーミングセンスも最高!

シンチラは、本来テクニカルウェアだ。
しかし今では、日常着としても
手放せない存在となった。
そして、“心地よいモノを着る”というシンプルな動機が、
環境保全にも繋がるという価値をもたらしているとしたら・・・。

今のフリースの礎を築き、
フィールドの垣根を越えて着用でき、
環境問題を考える契機にも繋がる。
そこに、私達がシンチラを
信じられる理由があるのかもしれない。

ロフトマン トーキョー/関西の名店が2021年10月に満を持してオープンした東京の初店舗。パタゴニアを筆頭に、国内外の有力ブランドのみを厳選。ちなみに入り口ステンドグラスは、パタゴニア地方の先住民族が継承していた色柄をモチーフに、廃材を利用して作ったもの。住:東京都渋谷区上原1-35−1ローズマンション代々木上原1F 営:12:00~19:00 不定休 ☎︎ 03−6416-8288

パタゴニア 東京・ゲートシティ大崎/直営店のなかで国内最大規模のフロア面積を誇る。テクニカルウェアからライフスタイル、アクセサリー製品、パック類と、同社製品がほぼフルラインナップ揃っているのも魅力。住:東京都川区大崎1-11-1 ゲートシティ大崎 文化施設棟 営:12:00~19:00(火~金)、11:00~18:00(土・日) 休:月曜 ☎︎ 03-5487-2101

問い合わせ先/パタゴニア日本支社 カスタマーサービス☎0800-8887-447
写真/松島星太 文/黒澤正人 編集/増井友則(begin NEWS)

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