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愛されたチームの撤退・縮小……華やかなラグビー新リーグ「リーグワン」の裏側で流れた涙

今年1月の開幕から数々の話題を振りまいてきたラグビーの新リーグ、ジャパンラグビー リーグワン(以下、リーグワン)。最上位カテゴリー「ディビジョン1」の上位4チームが進出するプレーオフトーナメント進出争いは、東京サントリーサンゴリアス、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、埼玉パナソニックワイルドナイツの3チームがすでに4強以上を決めており、残り1枠は勝ち点が接近している3チーム(東芝ブレイブルーパス東京、横浜キヤノンイーグルス、トヨタヴェルブリッツ)によって争われている。リーグ戦最終節まで熾烈な争いが繰り広げられそうだ。

リーグワン初代王者が決まるプレーオフトーナメントだけでなく、ディビジョン1とディビジョン2、ディビジョン2とディビジョン3、それぞれの間の昇降格が決まる入替戦の開催も控えるなど、最も盛り上がる時期に差し掛かっているシーズン終盤、よからぬ決定が立て続けに飛び込んできた。

ひとつは、昨季をもって幕を閉じたトップリーグのラストシーズンで、その名のとおり台風の目のような存在となったNTTドコモレッドハリケーンズ大阪の強化規模縮小の決定だ。

これはNTTグループとしての判断で、まずは今年7月をめどにラグビー関連の新事業会社を設立し、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安とNTTドコモレッドハリケーンズ大阪のグループ2チームを再編する。前者はNTTグループのシンボルチームとして継続的に勝利し優勝を目指せるチームに、後者はNTTドコモとNTTコミュニケーションズの2社の新たなシンボルチームとして社員選手等で構成されたチームにする、ということだ。

奮闘するラグビーリーグワン所属NTTドコモレッドハリケーンズ大阪の選手たち
今季は低迷しながらも奮闘を続けるNTTドコモレッドハリケーンズ大阪(グレーのジャージー)

プロ選手がほぼ不在となるNTTドコモレッドハリケーンズ大阪は来季のディビジョン1への不参加が決定し、ディビジョン3へ降格する見通しとなった。ディビジョン1では唯一、ラグビーが盛んな大阪を拠点とするチームだったこともあり、強化の縮小はラグビー界にとって極めて残念なニュースだ。

二つ目のバッドニュースは、福岡県宗像市をホストエリアとするディビジョン3の宗像サニックスブルースの活動休止だ。害虫駆除やエネルギー事業で知られる株式会社サニックスの業績悪化がその主な理由で、多くの選手を抱えているチームは譲渡先を探しているが現時点では決まっていない。

活動休止が発表された週に行われた4月3日(日)のリーグワン ディビジョン3、清水建設江東ブルーシャークスとの一戦は、宗像サニックスブルースのホームスタジアムのグローバルアリーナで行われ、多くの地元ファンが詰めかけた。試合は一進一退の攻防の末に、元日本代表WTBカーン・ヘスケスの2トライなどで宗像サニックスブルースが40-38で勝利。試合後、フィフティーンは1994年の創部から支えてきたファンに感謝の念を込めてピッチを一周し、ファンからも感謝の拍手と歓声が飛んだ。

2015年ラグビーW杯南アフリカ戦の決勝トライでおなじみ宗像サニックスブルースWTBカーン・ヘスケス選手
2015年のW杯南アフリカ戦の決勝トライでおなじみ、宗像サニックスブルースWTBカーン・ヘスケス

その後の記者会見で、かつて選手として21シーズンに渡り活躍し今季は監督に就任した「ミスターブルース」、松園正隆氏は涙ながらに謝意を表した。

「宗像という小さい市で30年近くチームとして運営させていただき、地域に密着して活動してきました。今日もたくさんのファンのみなさまに応援していただき、『ありがとう』と言っていただけたことにとても感謝しています」

福岡県では、福岡市を拠点としていたコカ・コーラレッドスパークスが、当初参戦が計画されていたリーグワンの開幕を前に解散となっている。コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社が決定したことで、リーグワンの開幕前後の約1年で九州から2チームが撤退したことになる。

リーグワンの時代に入り、新たに法人を設立し独自に運営を進めるようになったプロチームも一部誕生した一方で、チームとその母体となる企業との関係性は依然として強く、当然ながら企業側の業績はチームの運営に直接的な影響を与えている。今回のように事実上の廃部や強化縮小に追い込まれたチームはこれまでにもあったが、華やかなリーグワンの開幕の裏側でこうした事態が続発したことは、ラグビー界にとってはネガティブな材料と認めざるを得ない。

リーグワン開幕を境に最も大きく変化したのは、各チームがホストゲームの興行権を有しており、チケット販売やファンクラブ運営、スポンサー収入などにより各チームが利益を確保していくことだ。一方で、世界を含めた有能な人材との契約、ホストゲームの運営費、ホストスタジアムの確保などチームの負担は大きく、潤沢な資金がないと生き残るのは難しいのが現実だ。社会人ラグビーのリーグであったトップリーグ時代と同じく、企業の業績にチームの今後が左右される傾向は、当分続くことになるだろう。

そして何よりチームの減少、縮小は、そのチームや地域に紐づいた貴重なラグビーファンを失うことに直結しかねない。企業努力だけでは回避できない問題もあるだろう。こうした事態に陥る前に、リーグも含めできる限り未然に策を打つ、もしくは最悪でもソフトランディングさせることが求められそうだ。

編集者兼ライター
齋藤龍太郎

《ワールドワイドにラグビーを取材中》
編集者として『ラグビー魂』をはじめとするムックや書籍を企画。2015年にフリーの編集者兼ライターとなり、トップリーグをはじめ日本代表の国内外のテストマッチ、ラグビーワールドカップを現地取材。フォトグラファーとしても活動。著書に『オールブラックス・プライド』(東邦出版)。

文・撮影/齋藤龍太郎(楕円銀河)

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