特集・連載
オーベルジュで味わう究極のフレンチ軍パンとは?
オーベルジュで味わう究極のフレンチ 男服には古くから伝わる「永世定番」が存在します。どれだけトレンドが変遷しても魅力が褪せず、一度クロゼットに招き入れれば、生涯ずっと居場所を失わない……。そんな傑作品を微細に研究し、現代へと再生させているのが、この「オーベルジュ」です。フランス語で“料理にこだわる宿泊施設付きレストラン”を意味する同ブランドの物作りは、極めて非効率的。厳選した上質素材を日本のマイスターたちの元へ持ち込み、その知恵と技術を借りながら、ヴィンテージを時に忠実に再現し、時にオリジンには足りない要素を加えながら、時代に即して進化させる。さながら三つ星フレンチのスペシャリテのように、職人の“手”によって丹誠込めて作られた作品は、今、ベーシック好きの玄人たちから熱狂的な支持を勝ち得ています。ここではオーベルジュがもっとも得意とする、フランスの名作を再定義したプロダクトを徹底解剖! オーベルジュの真髄に迫ります。 この記事は特集・連載「オーベルジュで味わう究極のフレンチ」#02です。
[フレンチBeginnerマスイの実況中継]
Q.究極のフレンチ軍パンとは?
A.ウエポン×スビン糸の仏米MIXチノ
Q.究極のフレンチ軍パンとは?
A.ウエポン×スビン糸の仏米MIXチノ
ビギン編集部・マスイ「フレンチ軍パンといえばM-47スよね! マルジェラが裏返しにして穿かせてたアレ!」
オーベルジュ デザイナー 小林さん「よく知っているけど、惜しい! もう1型、M-52も押さえておかなきゃ」
マスイ「ウォーーーー悔しいっス(涙)」
小林さん「この歴史的な2本にアメリカンな隠し味を加えたんだ」
マスイ「しっかりコシがあるのに滑らかスね……」
小林さん「じつは、超長綿を使った米軍由来のウエポン生地なんだよ」
マスイ「仏米の軍MIXってことスか!?」
小林さん「穿いたときのモモ触りやドレープも最高でしょ?」
オーベルジュ デザイナー 小林 学さん
1966年生まれ。文化服装学院を卒業後、フランスに3年間遊学。帰国後、南仏に本社のあるブランドのデザイナーや、岡山のデニム工場の企画生産等を経て、’98年にスロウガンを、2018年にオーベルジュをスタート。
ストーリーを味わう[徹底レシピ解説]
スビン綿100%のウエポン生地が隠し味!
カーゴとチノは男の2大軍パン。名作の誉れ高いモデルも世界中に点在してますが、そのなかでオーベルジュが“これぞ永世定番!”とターゲットに据えたのが、フランスのM-47とM-52です。
前者はかの伝説的デザイナー、マルタン・マルジェラも愛し、リメイクして自身のコレクションで発表したことでも知られる名カーゴ。後者は昨今主流のワイドテーパードパンツの源流ともいえる、骨太シルエットで人気を博す名チノです。
「双方とも服好きの間では説明不要の傑作。だからこそ忠実にリプロダクトするだけでは面白みに欠けるなと。せっかくならオリジンにはない隠し味を加えよう!と思案して閃いたのが、このフランス生まれの定番軍パンに、アメリカ軍が生んだ名生地“ウエポン”をのっけるというアイデアでした」
ウエポン生地に関しては近年研究が進み、規格が明確になってますが、小林さんはさらなる質を求め、ヒネリを加えて再現することにしたんだとか。
「M-47に使われるヘリンボーン生地も、M-52に使われるチノクロスも、ウエポンと同じ綾織りの生地。ですが耐久性も品格もウエポンのほうが断然上! 個人的にはキング・オブ・綾織り生地だと思っています」
「それをもしキング・オブ・コットンともいえるスビン綿100%で織り上げたら、オリジンを超える艶と品が表現できるのでは? そう考えると、もうワクワクが止まりませんでした」
今では“スビン綿使用”を売り文句にするブランドも珍しくありませんが、じつはそのほとんどが緯糸にだけ採用しているのが現状。
「経にも緯にもスビン糸を使いながら、ウエポンの規格に厳格に則った生地を織る。我ながらよく思い切ったなと思いますが、おかげで想像以上に“ワイルドなのにマイルド”な、唯一無二の生地に織り上がりました」
「そのぶん生地代も想像以上に嵩みましたが(苦笑)、手前味噌ながらこれ以上のウエポン生地はないと確信しています」(小林さん)
仏米同盟軍が生んだ至高の軍パン。雄々しさだけでは胃もたれするようになった大人には、最良のスペシャリテではないでしょうか。
「骨太でマイルド。至高のチノ&カーゴができました」
後期型M-47の象徴たるヘリンボーンが艶やかに
ヘリンボーン
AUBERGE[オーベルジュ]
SUVIN 47(スビン 47)
M-47は’40年代〜’50年代までの“前期”と’60年代〜’70年代までの“後期”に大別される。今作ではわずかにテーパードが利いた後期モデルをベースに、ウエポンと同規格のスビンヘリンボーン生地に衣替え。4万9500円。
マルジェラも惚れた!? 裏の仕立ても完コピ
かのマルジェラがモデルに裏返して穿かせた伝説の軍パンだけに、裏側の始末をはじめとする細か〜い部分まで後期のM-47魂を注入。
ポケット縁の始末もオリジンをきっちり踏襲
裾にはアイコニックなアジャスターも完備
ペラかったM-52も堅牢かつ品よくリボーン
スビン綿製ウエポン
AUBERGE[オーベルジュ]
SUVIN 52(スビン 52)
’50年代〜’60年代に仏軍で採用されていた名トラウザーズの、雄々しくも美しいワイドテーパードシルエットは受け継ぎつつ、スビン綿製ウエポンを採用することで、唯一の弱点だった生地のペラさを見事克服。4万1800円。
幻の前期型M-52の意匠をテンコ盛り
今作では最初期のM-52の意匠を踏襲。前立て部分にテングと呼ばれるパーツを備えるほか、スラックス然とさせるための仕様が満載。
スラックスのような美しいステッチレス仕上げ
袋縫い仕様にしてポケット裏まで美を追求
フラップなしの前期型尻ポケ
わかると10倍ウマくなる![秘伝のスパイス講座]
スビン綿
《軍由来のウエポン生地を最高級コットンで調理!》
ウエポンとはアメリカ陸軍士官学校があった“ウエストポイント”という地名の略称にして、同校の制服に使われていた綾織り生地の名前。
(綿コーマ糸使いで)経糸に36番双糸、緯糸に24番双糸、密度が1インチあたりにそれぞれ120本×60本というのが一般的な規格だ。
この高密度な生地を、インドで栽培される最高級の超長綿“スビン綿”で織り上げるとなると、必要となるスビン綿糸の量=原料コストも膨大となる。まさに贅の極み!
※表示価格は税込み
[ビギン2022年4月号の記事を再構成]写真/上野 敦、ダリウス・コプランド(プルミエジュアン) 文/黒澤正人 スタイリング/佐々木 誠 イラスト/TOMOYA