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金楠水産 樟 陽介さん

創業100年の老舗水産加工品メーカー「金楠水産」。鮮度抜群な旬のたこを1匹づつ手作業で丁寧に塩揉みし、同業者も認める「茹で」技術で仕上げたたこはまさに絶品です。四代目、樟 陽介さんは、たこの本当の美味しさを伝えるため茹でたてを真空パックした商品を世に送り出しますが、まだまだ伸びしろがあると考え、更なる秘策を生み出します。

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今回のビギニン

金楠水産 樟 陽介さん
金楠水産 樟 陽介

1986年生まれ。兵庫県明石市出身。大正10年創業した水産加工品メーカー「金楠水産」の4代目。高校卒業後、築地市場の仲買「株式会社 山治」で6年間修業。魚の基礎を学んだ後、2011年、家業である金楠水産に。看板商品である「明石だこ」をメインに魚食文化の普及に尽力する。一男一女の父でもあり、休日は家族と過ごすのが楽しみ。

struggle:
逆転の発想で秘伝の“茹で”をお客さんに任せる

九州産のたこ
取材時は茹でを請け負う九州産のたこが茹でていた。

旬の明石だこを、茹でた当日に真空パックした新商品は好評を博します。しかし樟さんは納得がいきませんでした。

「僕らが毎日食べている味にはまだ届いていなかったんです」

たこが最も美味しい瞬間は茹でたて。熱湯につけ真紅に染まったところを、氷水に浸し、キュッと身を引き締める。その瞬間を提供したい。

「それには、茹でてから食べるまでのタイムラグを縮めるしかありません。で、どうしようかと考えた結果、お客さんに茹でてもらうという結論に達したんです」

100年間どうすれば美味しく「茹でられるか」を研究してきた金楠水産が、「生のまま」のたこを出荷する。これはまさに逆転の発想で、アイデアを聞いた社長も当初は反対されたと言います。

「そもそも茹で切ることが我々の仕事。仕上げをせずして未完成な生たこをお届けするのはどうなんだと。でも、本質として僕らの仕事って、目の前のたこや魚を美味しくして、その結果、食卓を楽しくすることだと思ったんです。お客様がご自身で茹でる、その体験を経て食卓に並んだたこは、きっと僕らが茹で上げる以上に、笑顔を増やすことにつながるのではないか、社長とはそんな話をしました」

金楠水産社長 樟さん
壁に貼られた金楠水産のポスター。写っているのは社長の樟 荘太郎さん。今回のビギニン、陽介さんのお父さんだ。

陽介さんの考えに、社長・荘太郎さんも説得されますが、もう一つ懸念がありました。

「たこの茹で時間をオープンにする、それは金楠が長年培ってきた技術を公開すること。将来的にリスクになるのではないかと。でも、僕はそう考えなかったんですよ。先ほど塩揉みを見ていただきましたが、真似してもらって良いし、多分、難しいと思うんです。普通のメーカーさんはそこまで時間をかけられない。でも、もしやられたら、僕たちはもっと良いものを作ろうと試行錯誤するし、切磋琢磨が生まれる。結果、たこの美味しさが伝わるなら全体にプラスになるんじゃないかと」

陽介さんの熱意に押し切られる形で「生のまま」のたこを真空パックにする新商品の開発が始まります。

「僕らがいつも茹でているたこに近づけるというゴールがはっきりしていたので、大きな問題はなかったのですが、考慮したのはサイズですね。本当は丸ごと1匹を茹でて欲しかったんですよ。でも、そうすると家庭用コンロでは火力が足りなくて。それで、足を1本ずつ分けてパックすることにしました」

金楠水産 商品パンフレット

1杯約1kgの特大サイズの足2本分(200g)に、金楠水産秘伝の茹で方を詳細に記した説明書も同封。茹で時間は2分55秒に設定されました。

「真空パックにすることで火の入り方が変わってくるので茹で時間は社内で何度も食べ比べて、最終的に秒単位になりました。ポイントとして、たこは完全に火を通さないミディアムレアで食べるのがベストなんです。だから下準備に、熱々のお湯とキンキンの氷水を用意して、2分55秒間茹でたらすぐに冷やしてください。粗熱を取らずに置いておくと火が通ってウェルダンになっちゃうので気をつけて」

reach:
あなたがゆでる明石だこが完成

タコ
塩揉みを終えたたこ。適度に水分が抜け、すでに吸盤が立っている。

試行錯誤を経て完成した「あなたが茹でる明石だこ」は、生たこを真空パックに入れたまま加熱することで旨味が濃縮され、家庭でも本家顔負けの食感と旨味が味わえる商品になりました。

当初の目的を果たした樟さんですが、たこにかける情熱は、まだまだ止まることを知りません。

金楠水産 樟 陽介さん

「できるかどうかわからないんですけれど、ゴールはアフリカでたこを茹でる加工場を作ることなんです。日本で一般的に食べられているたこはアフリカ産なんですが、それで、たこの評価が決められるのが悔しいんですよね。たこは鮮度が一番大事。今、現地では水揚げしたものを冷凍して送ってるだけなんで、加工を徹底したら、もっと美味しいたこが世の中に出回ると思います」

実際、アフリカのセネガルに足を運んだ樟さん。そこで見た光景に魚屋の心を痛めたと言います。

「砂浜に魚を並べて売買してるんです。強い太陽の下でどんどん傷んでいくんですがトマトで煮れば一緒だって。それではダメだよと。たこを管理する技術や知識は他の魚にも使えるし、それをきっかけに魚の価値を上げていけば、新しい雇用が生まれ、現地の人ももっと豊かな生活ができるようになると思うんです。この話をすると、それで本当に売れるの!?って疑問の声が結構あって。アフリカのたこって安いから流通してるんですよ。手をかけて美味しくしたところで、値段が上がったら売れないんじゃないかって。」

樟さんは続けます。

「だからアフリカのたこの受け皿を作る必要があります。まだまだ構想の段階ですが、たこ焼き屋をやりたいなと思っています。普通のたこ焼きは茹でだこを使っていますが、火が通り過ぎていてたこの食感やうま味が出てない。それを生たこにして、生地の中で茹で上がるようにしたら、真の意味でたこが主役のたこ焼きが作れるなと」

たこを通してローカル&グローバルに活動する樟さん。固定観念に囚われない大きな視点で、今後もあっと驚く商品のビギニンになってくれるかもしれません。

金楠水産オリジナルカストロコートを着た樟 陽介さん
たこをモチーフにした巨大な刺繍のバッグプリントが入った金楠水産オリジナルカストロコート。ベースは作業着ブランドの「寅壱」。

あなたが茹でる明石だこ(生・足2本・200g)
茹でていない生の明石だこを真空パック。塩揉みなどの一流の下処理は済んでいるため、あとは同封された秘伝の茹で方手順書に従って家庭で最高の茹で上がりを目指そう。きっとたこの常識が変わるはず。1杯約1kgの特大サイズの足が2本分。水揚げが最盛期となる6〜8月は冷蔵も販売。2376円(税込)

(問) 金楠水産
https://kanekusu.com/
https://shop.kanekusu.com/products/detail/27


写真/中島真美 文/森田哲徳

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