40代には永遠のライバル!? ホンダ「CB1100RS」vs カワサキ「Z900RS」どっちが楽しい?

ホンダの「CB」とカワサキの「Z」といえば、多くの名車を生み出してきた両社の主軸を担うシリーズ。バイク好きならもちろん、そうでない人も「CB750」や「Z2」などの名前は聞いたことがあるだろう。すでに半世紀ほどの歴史を重ねている両シリーズだが、今でも主力モデルであり続けている。そんな歴史を振り返りながら、現行モデルである「CB1100RS」と「Z900RS」の魅力を紐解いてみたい。

日本のバイク史を振り返る際、絶対に避けては通れないのが1969年にホンダが発売した「DREAM CB750FOUR」だろう。750ccという大排気量の空冷4気筒エンジンを搭載し、量産バイクとしては初の200km/hオーバーを実現したマシンで、日本製バイクが世界を席巻するきっかけとなった。”ナナハン”といえば、このマシンを指すほどの大排気量で高性能なバイクの代名詞的な存在となり、今でも中古市場では非常に高い人気を維持している。

その後、「CB」シリーズは現在に至るまで多くのモデルが発売されているが、このモデルや1979年に登場した「CB750F」など、”CBといえば空冷4気筒”というイメージを抱いている人は多いだろう。

前述の「DREAM CB750FOUR」から”世界最速”の座を奪ったのは、同じ日本メーカーであるカワサキが1972年に発表した「Z1」だった。900ccの空冷4気筒エンジンを搭載したこのマシンは、当時としては最新鋭のDOHCを採用し、最強最速のバイクとして君臨。”速いバイクといえば日本製”というイメージを不動のものとした。
当時、日本国内では排気量の上限を750ccとする自主規制が存在したため、国内向けには排気量をダウンした「750RS」が発売され、”Z2″の愛称とともに大ヒットモデルとなった。この「Z1/Z2」も今に至るまで世界中に多くのファンが存在し、メーカーが製造をやめてしまったパーツもサードパーティが作り続けている。

カワサキ 750RS(Z2)

そうしたヘリテイジモデルのイメージを踏襲した現行モデルがホンダの「CB1100」とカワサキの「Z900RS」だ。2010年に登場した「CB1100」は1100ccの空冷4気筒DOHCエンジンを搭載し、排出ガス規制が厳しくなり多くの空冷大排気量モデルが姿を消した現在に至るまでモデルチェンジを重ねて製造・販売が続けられている。
2018年に登場した「Z900RS」は900ccのエンジンこそ水冷化されているものの、空冷エンジンをイメージさせるフィンが刻まれ、「Z1」と「750RS(Z2)」を合わせたような車名から連想されるように両車のイメージを受け継ぎ、大ヒットモデルとなっている。今回は最新の「CB1100RS」と「Z900RS」に実際に試乗し、その人気の秘密とこの2車の性格の違いを探ってみたい。

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ホンダ CB1100RS

「CB1100」が支持されるポイントは、今となっては貴重な大排気量の空冷エンジンを前面に押し出した車体造りだろう。年々厳しくなる排出ガス規制に対応するためには不利となるエンジン型式だが、電子制御の燃料噴射装置(インジェクション)のセッティングを煮詰めることなどでクリーン化に成功。空冷では難しいエンジンの冷却についても、潤滑のためのオイルをヘッド周辺にも回すオイルジャケットを設け、大容量のオイルクーラーで冷却することによって対応している。


ホンダ CB1100RS

また、”エンジンに表情がある”と評される空冷エンジンならではの造形美も積極的にデザインに採り入れている。空冷のためのフィンは製造の難しい2mm厚の薄型とし、2本のカムシャフトの間隔もデザインを優先して決めるという徹底ぶりだ。そのおかげで「CB1100」のエンジンは、眺めているだけでため息が出るほど重厚で美しい仕上がりとなっている。同シリーズには標準モデルの「CB1100」、クラシカルな雰囲気を増した「CB1100EX」、そして足回りなどの走行性能を向上させた「CB1100RS」が存在するが、今回試乗したのは17インチホイールを装着した「RS」だ。


ホンダ CB1100RS

このモデルはホイールのほか、φ41mmのフロントフォークやリザーバータンク付きのリアサスペンション、それにラジアルマウントのフロントブレーキなど、現代的な足回りを採用しているのが特徴。空冷エンジンによるデザインだけでなく、走りにもこだわるユーザーに高く評価されている。

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カワサキ Z900RS

対するカワサキの「Z900RS」は、「Z1/Z2」に採用され“火の玉カラー”と呼ばれて人気の高かったカラーリングを再現している点がまず目を引く。エンジンが水冷となっているほか、フロントフォークは最新鋭の倒立式とされていたり、「Z1/Z2」では2本だったリアサスペンションが1本となっていたりするが、一目で「Z1/Z2」を連想させる仕上がりは、このカラーリングとタンクなどの造形でイメージを再現していることが大きいだろう。


カワサキ Z900RS

特にタンクの造形についてはかなり徹底してこだわったようで、この形を再現するためにフレームの設計まで変えてしまったほど。シートやテールランプ、それにかつて”Z2ミラー”と称され、他車種のカスタムにも流用されるほどの人気パーツだったミラーの形状など、細かい部分でも「Z1/Z2」のイメージを踏襲している。


カワサキ Z900RS

4気筒の排気管を1つにまとめた集合形状とされるマフラーも造形が美しいだけでなく、カワサキとしては初となる”サウンドチューニング”が施され、ライダーの耳に届く排気音にまでもこだわって仕上げられている。


カワサキ Z900RS

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ここからは、実際に試乗した2車の印象の違いをお伝えしよう。リッタークラス(排気量1000cc前後)のカウルのないネイキッドマシン、そして歴史的モデルにオマージュしたデザインなどは共通するが、実際にライドしてみると両車の性格は思った以上に異なる。
またがる前に押して歩いた段階から、2車の違いは明確。「CB1100RS」がこのクラスのマシンらしい重厚感で、スタンドを上げた段階で大排気量車らしい重さを感じるのに対して、「Z900RS」は600ccクラスのマシンのように軽快。「CB1100RS」が262kg、「Z900RS」が215kgとスペック上の数値も50kg近い差があるが、実際に押してみるとそれ以上の差を感じる。

エンジンをかけても、やはり空冷エンジンの「CB1100RS」は内部の爆発が空冷のフィンを通じて空気を揺るがしているような重厚感を感じる。しかし、水冷の「Z900RS」の排気音もチューニングが施されているだけに迫力は十分。かつてのZシリーズのエキゾーストノートを知っている人でも、不満を感じることはないだろう。


カワサキ Z900RS

クラッチをつないで走り出すと、性格の違いはより顕著になる。ピストンがエンジンの内部で動いているのが伝わってくるような空冷エンジンらしい鼓動感とともに車体が加速していく「CB1100RS」に対して、「Z900RS」はアクセルを開けた瞬間から鋭いレスポンスで前に出る。車体の軽さと水冷エンジンならではの回転上昇の速さが、ここでも感じられた。ただ、”速い”のは「Z」のほうだとしても、この2車種で一緒にツーリングに出かけたとしても「CB」が遅れを取るかと言われれば、そこまでの差はない。ピークパワーは「CB1100RS」の90PSに対して、「Z900RS」は111PSだが、そこまでのパワーを引き出して走れるようなシーンは公道ではあまりないからだ。


カワサキ Z900RS

コーナリングでも印象の違いはハッキリしている。「Z900RS」が車体の軽さを活かして、きっかけを与えてやれば軽快にバンクし鋭いコーナリングが可能なのに対して、「CB1100RS」は車体を寝かす操作にも重厚感が伴う。おそらく、コーナーが連続するワインディングやサーキットでタイムを計ったら、速いのは「Z900RS」だろう。ただ、楽しいのはどちらかと言われると、これが甲乙つけがたい。バイク任せに走ってもある程度のペースでコーナーが抜けられる「Z900RS」に対して、「CB1100RS」は曲がるために明確な操作を行う必要がある。ただ、その分、重い鉄の塊を意のままに操れたときの達成感も大きいのだ。スムーズにコーナーをクリアでき、鼓動感あふれるトルクで立ち上がって行くときの気持ちよさは、今どきの軽量なバイクでは味わえないものだ。
ともに歴史ある「CB」と「Z」の銘を背負い、同じリッタークラスのネイキッドとして同時期にリリースされた2モデル。価格も「CB1100RS」が137万8080円、「Z900RS」が132万8400円(カラーリングによって異なる)と近しいため、ライバルとして比較している人もいるかもしれないが、購入するのであればそれぞれの性格を知ったうえで選びたい。

※表示価格は税抜き

文/増谷茂樹