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今回ご紹介するファッション考古学者はヴィンテージコレクターとしても世界的に有名な英国人デザイナーのナイジェル・ケーボン。お題は10年にわたって売れ続ける定番のチノ。唯一無二の風合いを持つウエポンクロスに込められた思いとは?

Nigel Cabourn ナイジェル・ケーボン ベーシックチノ ウエストポイント イメージ

再現したかったのは、エリート士官が穿いた ’40s初期の特別な生地

ナイジェル・ケーボンというブランドを語るとき、絶対に欠かすことのできないアイテム、それが独自のウエポンクロスを使った「ベーシックチノ」です。今回はこのチノの秘密をお話ししましょう。

そもそもウエポンクロスは、米陸軍のウエストポイント士官学校の制服に由来するチノクロスのこと。同校はエリート育成学校ですから、制服の生地も一般兵士用よりも質が高く、丈夫で上品な光沢があるのが特徴です。

それは、ウエポンは単糸ではなく、双糸で織られているから。ちなみに、軍に配属されてからもエリート士官の穿くチノは、かのマッカーサー元帥然り、多くはウエポンクロスです。

しかし、ナイジェル・ケーボンのウエポンクロスは、単にその風合いを再現したわけではありません。

まず、使用する糸は米国産超長綿のコーマ糸。これはアメリカが本格的に戦争に突入する以前、まだ物資が豊富だった’40年代初期の上質なチノクロスの風合いを再現するため。

そしてこの糸の双糸を使って、信じられないくらい打ち込み本数を増やすことで、超高密度な生地に織り上げるのです。

実はウエポンクロス特有の加工もされていない!?

加工にも秘密が。ナイジェル・ケーボンのウエポンクロスには、巷のウエポンに広く用いられているコールドマーセ加工が施されていません。

この加工は低温の苛性ソーダを通すことで、生地の強度を高め、光沢やシャリ感を生み出すもの。生地の質感を高めるのに手っ取り早い加工ですが、生地本来のナチュラルな風合いが損なわれるというデメリットがあります。

そのため、ナイジェル・ケーボンではこの加工を採用せず、打ち込み本数を増やすなどして、自然なヴィンテージの風合いを再現しています。

また、生地の毛羽立ちを除去してなめらかに仕上げるシルケット加工も、よりリアルな風合いを再現するため、最小限に抑えています。

ただ、厚みがあって度の詰まったウエポンクロスは、縫製が至難の業。通常のミシンで無理に縫い進めると、生地から煙が吹いてしまうことも……。先が鋭く尖ったミシン針を持つマシンで、ゆっくり時間をかけて縫うしかありません。

それでもときどき糸が爆ぜることがあり、ステッチラインに“花”が咲いたように見えるのです。

Nigel Cabourn ナイジェル・ケーボン ベーシックチノ ウエストポイント 生地

デザインはこのウエポンクロスのオーラを際立たせるべくヴィンテージチノを踏襲しています。王道のワイドストレートで、自立するほどがっしりとしたコシのある生地がストンとまっすぐ落ちるラインを強調します。

履けば履くほどなじむベーシックチノ

最近ワイドパンツが流行していますが、ベーシックチノは登場してから10年間一貫してこのシルエットです。

ディテールもヴィンテージ風。バックポケットにはヤシの実から削り出したコロゾボタンを、腰裏には吊りループをあしらい、生地の強度に合わせてフロントボタンの糸を念入りに根巻きしています。

なぜここまでこだわるのか? それはこのベーシックチノが将来、私が蒐集してきたような本物のヴィンテージになってほしいから。

このチノは穿くほどに肌に馴染み、光沢が増し、風合いは味わいを深めていきます。新品のときはスタート地点。ヴィンテージに育て上げるのは皆さん自身です。

Nigel Cabourn ナイジェル・ケーボン ベーシックチノ ウエストポイント 商品

Nigel Cabourn
ナイジェル・ケーボンのベーシックチノ ウエストポイント

ゆったりとした腰回りとワタリが特徴のワイドストレート。反染め生地ならではの深みのある色合いも魅力的。生地の度詰めが凄いため糸が爆ぜ、上の写真のようにステッチラインに“花”が咲くことも。1万9000円(アウターリミッツ)

U.S.Army Officer
ウエストポイント士官学校

 
1802年にNY州ウエストポイントに設立された米国陸軍の教育機関で、将来の士官を養成する米国最古の軍学校。34代大統領にもなったアイゼンハワーや連合国軍最高司令官を務めたダグラス・マッカーサーらを輩出した。

 

Nigel Cabourn ナイジェル・ケーボン デザイナー イラスト

談・ナイジェル・ケーボン(ナイジェル・ケーボン デザイナー)

1949年英国出身。ミリタリーやワークなど所有するヴィンテージコレクションはなんと4000点以上! 膨大な知識に裏打ちされたデザインが世界中の服好きを虜にする。

 
※表示価格は税抜き


[ビギン2019年5月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。

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