歴史的傑人に想いを馳せ、身に着けていた“服”を究める「ファッション考古学者」。米国の文豪・ヘミングウェイの生き様を、「道具としての服」に編集するモヒートのデザイナー山下さん。彼が抱くヘミングウェイへの愛に迫る。

ヘミングウェイに魅了されたブランド「モヒート」

「もしヘミングウェイが生きていたら、どんな服を着るだろうか?」。これはモヒートのコンセプトであり、僕の服作りの原点です。

ヘミングウェイはノーベル文学賞を受賞した行動派の作家として有名ですが、プライベートも男を惹きつける魅力があります。

スポーツ万能で酒が強く、結婚も4度している。地位も名誉も欲求も、すべて満たされたアメリカンマッチョの象徴です。ブランド名はヘミングウェイが愛飲したといわれるカクテルから名付けました。
MOJITO モヒート アブサンシャツBar.2.0 イメージ

モヒートの代名詞は「アブサンシャツ」

そんなモヒートの代名詞というべきアイテムが2012年に作った「アブサンシャツ」です。これはヘミングウェイが愛したオープンカラーシャツをイメージしたもの。

ヘミングウェイは晩年を過ごしたキューバでの日々のほとんどを、オープンカラーシャツ一枚で過ごしていました。涼しくて開放的で、体を締め付けない。

なにより地位も名誉も手にした彼にとってネクタイを締めてかしこまる必要もありません。このシャツは成功と自由の象徴といってもいいでしょう。

ただ、アブサンシャツはヘミングウェイが着ていたシャツをそのまま再現したわけではありません。長めの着丈や第1ボタンの開きが深い点などは踏襲しつつ、ウエストシェイプを利かせることで現代的なエッセンスを加えています。

これがモヒート・フィットで、シルエットはデビューからまったく変わっていません。饒舌すぎないデザインも特徴のひとつ。

無駄のない研ぎ澄まされたヘミングウェイの文体よろしく、両胸にポケットがあるだけと、デザインはシンプル。多くを語らないけれど、仕立てや生地から存在感がにじみ出る服がモヒートの理想です。

モヒートのアブサンシャツの今に至るまで

そんなアブサンシャツですが、今日のようなブランドの顔となるまでには、紆余曲折がありました。たとえば、工場の問題。

ブランドを始めた2010年頃はまだボタンダウン全盛で、無名のブランドのオープンカラーシャツを作ってくれる工場は国内にありませんでした。

そこで力になってくれたのがインディビジュアライズド シャツであり、日本総代理店のメイデン・カンパニーでした。おかげでアブサンシャツはUSA製でスタートすることができたんです。

その後人気は順調に伸び続けましたが、次にぶつかったのが価格の問題でした。米国製は為替の関係でどうしても価格が不安定になります。

そもそもオープンカラーシャツは肩肘張らずに着られる日常着のはず。そのため、現在は僕のニーズに応えてくれる日本のシャツ工場で生産しています。

日本製のアブサンシャツは品質の高さはもちろん、ディテールにも秘密があります。カフスの内側には端から真ん中まで芯を貼っているんですが、これはヘミングウェイのようなこなれた袖まくりをしやすくするための工夫です。

このシャツを作っていて一番やりがいを感じるのは、毎シーズン欠かさずに買い続けてくれる方がいること。何を隠そうアブサンシャツの名は、悪魔の酒と呼ばれるほど依存性の高いお酒に由来します。

アブサンのように虜になるほど着心地のいいシャツ。みなさんも一度袖を通してみてください。

MOJITO モヒート アブサンシャツBar.2.0 商品

MOJITO
モヒートのアブサンシャツBar.2.0

肩と身幅にゆとりをもたせつつ、ウエストをシェイプすることで立ち姿をすっきりと見せる。今季の注目株は、欧州のハンティングウェアに多く用いられる千鳥格子柄を、リネン100%の生地で表現した一着。2万4000円(アーチ東京店)

MOJITO モヒート アブサンシャツBar.2.0 生地

アーネスト・ヘミングウェイ 著書

Ernest Hemingway
アーネスト・ヘミングウェイ[1899-1961]

米国シカゴ近郊生まれの小説家。死と隣り合わせの現実に立ち向かう人間の姿を描き続けた。酒や狩猟、釣りを愛し、その野趣あふれるライフスタイルは今なお男たちを魅了してやまない。1954年ノーベル文学賞を受賞。
 

誰も気に留めない袖の作りにも、米の文豪らしさを込めています

MOJITO モヒート デザイナー山下裕文 イラスト

談・山下裕文(モヒート デザイナー)

1968年熊本県出身。伝説的ショップ「プロペラ」でバイヤー&プレスを担当。企業コンサルタントを経てモヒート設立。ヘミングウェイの短編『殺し屋』がバイブル。

 
※表示価格は税抜き


[ビギン2019年5月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。

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ヘミングウェイが生きてたらこのシャツを着るに違いない。

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