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ぺんてるのカルム

「すする」とは、音を立てて口に吸い込む食べ方、飲み方のことである。

蕎麦やうどん、ラーメンなどの料理では、ずず~っと一気に吸い込んだほうが、麺とつゆを同時に味わえることから広まったのではないかという説や、せっかちな江戸っ子の文化では、ファストフードである蕎麦はちんたら食べるよりも豪快にすすったほうが粋だったからなど、その起源については諸説ある。いずれにせよ、日本の麺類に関しては、音を立ててすすりながら食べることは、決してマナー違反ではないといわれている。

しかし、世界的に見れば、多くの国や文化で「音を立てて食べる」のはマナー違反であり、同じ麺類であっても、パスタは日本でもすすらずに食べるのが一般的だ。そうして国際化とともに国内外の文化が混ざり合うことで、今までならすすってもOKだったはずの蕎麦やラーメンも、音を立てて食べるのは不快だ、という人も少なからず現れているという気がする。

文化や価値観は移ろいゆくものだから、それ自体がよいか悪いかという議論はここではしない。問題は、「自分が今まで何気なくやっていた食べ方が、誰かを不快にさせているかも?」という不安が新たに生じていることだ。

この「自分が不快だから」ではなく、「自分が周りの人を不快にさせているかも?」で不安になるという傾向、周囲の人を気遣う精神の細やかさというのは、大変「日本的」であるように思う。「和」を重んじる心、と言い換えてもいいのかもしれない。

そんな「和の心」は、文具にも通底している。

文具で音が気になる場面のひとつといえば、静かなオフィスや教室に響く、ボールペンをノックする「カチカチ」音だ。そんなところにまで気を配ったペンがあるんですか? はい、あるんです。それが今回紹介する、ぺんてるのボールペン「カルム」である。

「カルム」はノック機構を見直すことで、ノック時の操作音を従来品より66%も低減することに成功したのだという。試してみると確かに、今までのボールペンのノック音が「カチャッ」だとしたら、「スチャ……」くらいの音になっているのを実感できる。

「う~ん。でも、そんなに周囲に気を遣ってばかりいたら、自分が疲れちゃわない?」と心配される向きもあると思うが、そこは令和。「人に気遣いながらも、自分の快適さも妥協しない」のが今の時代の価値観なのである。

こちらの「カルム」、インクはなめらかな油性で、書き心地もよし。発色もくっきりとしており、書いた文字の視認性も申し分ない。クリップ全体が大きなノックボタンになっており、指が当たる部分は凹みがフィットするので押し心地もマイルド。硬くて尖ったボタンが指に刺さって痛い、なんて事態とも無縁だ。

また特筆したいのは、グリップである。高級カメラの握りに貼られた革のようなシボ調で、ピタッと吸い付く触り心地は秀逸だ。ペン先から胴軸の半分あたりまでを覆うロンググリップで、どんな持ち方も受け入れるぞ、という包容力も感じられる。

結局のところ、どんなに「人のために」と思っても、自分を犠牲にする行為は続かないのだ。無理な我慢を重ねればいずれどこかで爆発し、かえって人様に迷惑をかけることもある。ボールペンだって、いくら静かで迷惑になりませんよ、といわれても、書き心地や握り心地がめちゃくちゃ悪かったら絶対に使い続けられないだろう。

自分の快適さを妥協せず、周囲の人のためにもなる。そのバランスが、食事のマナーでも文具でも大事なのだ。つまり、情けは人のためならず……というのは、ちょっと違うか。

ぺんてる
カルム

165円
https://www.pentel.co.jp/products/ballpointpen/calme/

※表示価格は税込み

ヨシムラマリ

ヨシムラマリ

神奈川県出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手掛けている。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。

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