【平日靴進化論】これからの仕事靴はどう変わる?靴賢人SPECIAL対談

ルコックスポルティフのクラフテッド スニーカー

ニューノーマルが急速に浸透し、あらゆる“当たり前”が書き換えられていく今日。テレワークといった新しい仕事の形も板についてきたいま、平日靴=ビジネスシューズの姿も今までと同じであるはずがありません。そんな中で伝統の靴作りを続けているだけでは、きっと取り残される──今回対談するのは、そんな危機感を共有するお二人。「ルコックスポルティフ」の新プロジェクト“クラフテッド スニーカー”のクリエイティブディレクターを務める靴職人の五宝さんと、販売のプロフェッショナルである伊勢丹の田畑さんが、それぞれの観点からこれからのビジネスシューズについて語ります。

靴職人 シューズクリエイター
五宝賢太郎さん

1981年、徳島県生まれ。埼玉県蕨市で靴工房を営んでいた稲村有好氏へ師事し、工房を継ぐ。2009年に屋号を「グレンストック」とし、オーダーシューズ製作とリペアを専門とする自身のショップを設立。ドラマ「陸王」の足袋型スニーカーの監修を手掛けるなど、多彩に活躍する。

伊勢丹新宿店メンズ館
地下1階・1階・5階フロアマネージャー
田畑智康さん

1982年、福岡県生まれ。地域店やプライベートブランドのバイヤー、セールスマネージャーを経て、伊勢丹新宿店メンズ館の地下1階、紳士靴のバイヤーへ。本年4月より現職を務める。仕事のモットーは「お客さまもスタイリストも心から楽しめる世界一のお買場をつくる」こと。

“現代社会の要求を紐解き思考をデザインする”ルコックスポルティフの「クラフテッド スニーカー」コレクションより。「LCS RC プロムナード」(右)&「LCS RC パッサージュ」(左)の新色は、ライニングにシックなダークカラーを纏い、よりミニマルなルックスに。ビジネス用、休日用とシーンを限定しないマルチプレーヤーぶりに拍車が掛かった。後述するヒールクリップやサイドリガー等のディテールがもたらす、「雲の上を歩くような」(田畑氏)履き心地も見逃せない。伊勢丹のポップアップショップにて先行販売予定だ。各2万2000円。

スニーカーの“革靴的アプローチ”が平日靴を変える!?

──スニーカー通勤も当たり前の光景となりました。ビジネスシューズはなくなると思いますか?

田畑 ビジネスシューズの定義を革靴としてしまうと、その役割はこれからどんどん少なくなっていくと思います。ビジネススーツもしかりで限定的になっていくと思うんですけど、ビジネスシューズが革靴だけでいいのか?というと、そういう時代ではないと思うんですね。ただ、ビジネスシューズとしていわゆるスニーカーを履くのがベストか?といえばそうではなく、長時間履くうえでは革靴のほうが全然疲れない。

五宝 そうなんですよね。技術的にいうと、革靴は絞り寸、メジャーリングといって、木型を足に合わせて1mm、2mmという(微々たるゆとりの)範囲で作って、つま先には余り寸、捨て寸といって指が動くところを設ける。長時間履いて、足に馴染んでいくように作るんです。

対してスニーカーというのはインシューリズムという価値観に基づく作りで、足よりも一回り大きいものに対して、インソールや履き口のクッションを詰め物にして、空間を埋めてフィッティングさせる。これだと最初の足入れは最高なんですが、必ず変形してしまうし、疲れます。

踵に重心が来る革靴には、キレイな姿勢で立てるというメリットもある。日本には手仕事に対する敬意もありますし、この先も革靴がなくなることはないでしょうね。

田畑 その点「クラフテッド スニーカー」の2モデルは、アプローチが完全に革靴寄りですよね。本当に履き心地がよくて、ずっと履いています。ヒールカウンターがかなりしっかりしていて。

五宝 ええ。これは“ヒールクリップ”というもので固定しています。一方、ヒールに芯は入れていない。じつは日本人の80%以上の人は踵が歪んでいて、この歪んだ状態で踵を固定して履くとつま先にズレが出て当たってしまいます。だからこの靴では、万人に合うよう(足首近くを)ヒールクリップで固定するように作ったんです。

あらゆるカタチの踵にフィットするようヒール芯を用いず、変わりに踵を掴むようにクリップ状のパーツを配した独自設計のヒール。

田畑 従来の履き心地のいい靴って、低反発だとか高反発だとか、踏み込みに対するアプローチがほとんどだったんですけど、この靴はその前段階のアプローチ、いかにしっかり快適に着地できるよう支えるか?を追求している。だから軽快に、ポンポンポンポン足が進んでいくんですよね。まさしく雲の上を歩いているように。

五宝 カップソールは安定感に優れる一方で返りづらいのですが、つま先を上げることで自然にローリングして足が前に出る設計にしています。あとサイドリガーといって、ミッドソールの横を高く上げることでブレを抑えました。

田畑 これ本当にスゴいので、皆さまにぜひ一度この履き心地を体験していただきたいです。

カップソールの巻き上げを部分的に高くしたサイドリガーが横ブレを防ぎ、歩行の安定感を高める。高めのトウスプリングは、歩行時の自然なローリングをアシスト。

──「クラフテッド スニーカー」が提供する新しい価値とはなんだと思いますか?

田畑 シンプルさゆえの汎用性でしょうか。機能がデザイン化されているというところにすべてが集約される。今、お客さまが求めているものもそこだと思うんです。働き方やライフスタイルが多様化しているじゃないですか。一日の中で仕事とプライベートが混在するような働き方も1つの手段になってきている中で、靴に汎用性を求めるのは当然のあり方だと思います。

米国のオフィサーシューズをモチーフにした「LCS RC プロムナード」は、革靴とスニーカーのハイブリッドを思わせるルックス。ソールには前後で硬度の異なるEVAを用いたルコックスポルティフ独自のクッショニングテクノロジー「ダイナクティフシステム」を搭載し、ヒールクリップやサイドリガー等のディテールと併せて快適な歩行をアシストする。発売中。各2万2000円。

’90年代にモードブランドが打ち出したシューズにインスピレーションを得た「LCS RC パッサージュ」。こちらもシーンを問わずに履くことのできる、洗練のルックスが持ち味だ。アッパーはレザーとメッシュのコンビ仕様で、高い通気性を確保している。ソールの仕様は「LCS RC プロムナード」と同様。発売中。各2万2000円。

──新モデルは毛色が少し違いますね。

五宝 これは「R800 Z1」という1991年のモデルをアレンジしながら木型から作ったんですけど、残念ながら商品化されずに眠っていたんです。でも田畑さんとデサントを交えたミーティングをするときにこれを見せたら「イイじゃないですか!」と言ってくれて。今回、晴れて発売となりました。

シグネチャーモデル「LCS R800」のDNAを継ぐ「LCS R800 Z1 OM」。ステッチや革の縫い目が足に当たらぬよう、内装が一枚の反物になるように設計。かつ、インソールはファブリック面とEVA面の両面で履ける仕様になっていて、いかに快適な素足履きができるか?が追求されている。履き口は伸縮性のあるスパンデックス仕様。踵を踏んで、サンダルのように履くことも可能だ。伊勢丹のポップアップショップにて先行発売予定。各1万3200円。

田畑 これ僕、大好きなんですよ。見せていただいたのは昨年の6月くらいでしたっけ。一度目の緊急事態宣言が明けたばかりのタイミングで。

五宝 コンビニに行くときにサンダルだけじゃなくてある程度しっかりした靴も必要なんじゃないかなという会話の中で、コレいいんじゃない?と言ってくださって。

田畑 自粛生活しているときって基本的に外へは出ないんですけど、コンビニや子どもを遊ばせるために公園に出たりはするじゃないですか。そこでいちいち靴下履くのも面倒だし、となったときに、スポッと素足で履けてちゃんとカッコよくてファッションとしても成立していて……という靴が市場にないなぁと感じていたんです。僕らはそういったコンセプトの商品カテゴリーを「ワンマイル〇〇」という言ったりしますけど、そういうものを探していたときに五宝さんに会って、コレがまさにそうじゃないですか!と(笑)。


多様化するライフスタイルをイメージした「クラフテッドスニーカー」のビジュアル。

五宝 履き心地もすごくラクなんですよ。それから色に関しても話したいことがあって。自転車でもクルマでもそうなんですが、ヨーロッパの製品の色は日本のメーカーでは出せないとよく言うじゃないですか。でも、あれってなぜかというと、ヨーロッパは下地に白ではなく青を使うから違って見えるんですね。青の上に乗せるから、同じ赤でも紫がかって見えたりする。

この靴は、要所のステッチに青を使いました。こうすることで、ネガティブな意味での日本っぽさというのを抜け出したかったんです。

田畑 ほんと、香りがヨーロッパですもんね。

「テクノロジー」の進化、
「エレクトリック」で生活が変わる!?

──靴の未来を3つのキーワードで表現してください。

田畑 僕の1つめは「テクノロジー」。道具としての進化が大事だと思っています。履き心地であったり、身体への影響面であったりもそうで。

五宝 うん、うん。

──映画「バック トゥ ザ フューチャー」の靴のようになっていくべきと?

田畑 ええ。過去の遺産を採り入れるのもいいんですけど、寄りかかりすぎるとアウトプットが進化しないので。

五宝 僕も「エレクトリック(電化)」というのが未来にあると考えていて。それこそ電気の力を使って靴を足にアダプトするとか、電気で何かを気体化することで体を浮かしたりとかね。

余談ですが昆虫の触角って、電波を測っているんですって。「あの人はあれだけの電力を持っているから近づくと危ない」とか、そういうのを測っているらしい。イカ釣り漁のイカも、じつは灯りじゃなく電気に集まっていると教えてもらったことがあります。

で、人の身体に蓄えられた電気が抜けるところはどこか?といえば靴底なわけで。でも、それがラバー化していることで絶縁されている。(不自然な)この状況が健康にとっていいのか?というのは現時点でわからない。もしかするとナチュラルな革素材を使った靴というのが見直される可能性もありますよね。

田畑 そういう話って、常識がある点を境に一気に覆りますからね。

──イカ漁の技術を応用した、電気の力で好感度が上がる靴なんてのもできるかもしれませんね(笑)。

謳い文句でない「サスティナブル」&
「ファンダメンタル」の継承は不可欠。

田畑 キーワードの2つめは「サスティナブル」なんですが、サスティナブルって今、消費者のウケを狙う言葉の代名詞みたく使われているじゃないですか。それはそれで否定はしませんが、じゃあサスティナブルって何だというと、自然に優しいですよとか土に還りますよとか、そんな単純なものではなくて。

五宝 リペアができたり、頑丈で長く使えるとか、一個一個が長期的な意味でマーケットに入るとか、それも持続性でしょうし、僕はサスティナブルは謳うものではなく、標準的に、当たり前に必要なものと認識しています。

田畑 おっしゃるとおり。材料がサスティナブルなものであるに越こしたことはないのだけど、僕も長く使えるとか、愛着をもって使えるとか、そういう視点のサスティナブルが大事と思っています。

五宝 売り場でも「これはどこの国の革靴ですよ」とかそういうことを伝えることで、その国の靴はどんな作りなんだろう?など教養を得られる機会が生まれますよね。確かなフィッティングと併せて、そうした知識が得られる「場」というのも、サスティナブルな靴選びには重要だと思います。ルコックスポルティフでいえば、これはフランスのブランドの靴で、工場がベトナムなのはその昔フランスの植民地だったからなんだとか、売り場でそういう知識を得られることも価値のあることだと。

田畑 我々も人の手というのはすごく大事にしていて。イセタンメンズでは「YourFIT365」という3D計測器をお買い場の中には入れているのですが、この機械は無限にある選択肢を、お客様の足型に合わせて、わかりやすく10くらいの選択肢に絞り込むためのもの。でも10を1にしていく最後の作業は、やはり人の手がものをいいます。

五宝 伊勢丹、ルコックスポルティフ、それからビギンにも共通する未来のキーワードだと思うのは「ファンダメンタル」、基礎ですね。ビギンを読めば靴の基礎を知ることができ、伊勢丹でいろいろな靴を履くことで靴の背景を知り、知識を得て帰ることができる。この流れが日本で築かれたというのは、尊いことだと思うんですよ。ヨーロッパだと、おじいちゃんの代から言い継がれるような文化が元々あるわけで。だから「ファンダメンタル」となる知識をお客様に提供して、その代価を貰うというのは、価値のある行為であり続けると思います。

「エッセンシャル」の追求が
「ブランディング」となる

五宝 あと言葉は難しいのですが、日本の消費者は雑誌などを見て靴の知識をつけてきたわけですよね。その土台があるので、次はその靴を自身の“生活にアダプトさせていく”部分が商業化されると思うんですよ。そのとき靴がオーバースペックである必要はなく、自分の生活の中で何が本当に必要なのか?という視点が大切になる。雑誌などで得た教養を活かして、顧客が能動的に靴のあり方を模索するという流れが未来にあると思うんです。

──「エッセンシャル(本質)」が欠かせないと。

五宝 エッセンシャル、その言葉いいですね!

田畑 売り場目線でいうと、僕が考えていた3つ目のキーワードは「ブランディング」、差別化なんです。コモディティ化の逆。価値観が多様化しているので、今までみたいに同世代の人たちが皆同じ靴を履くというのは考えづらい。

──五宝さんのお話は買い手目線、田畑さんの目線は売り手目線で、じつは同じ未来を見ているように聞こえます。

五宝 そうですね。田畑さんと話すといつもこうなんです(笑)。

イセタンメンズB1Fにてポップアップイベントを開催!
2021年5月26日(水)〜6月8日(火)までの2週間、イセタンメンズB1Fの紳士靴売り場にて、ルコックスポルティフ「クラフテッドスニーカー」のポップアップイベントを開催。靴のプロフェッショナルが絶賛するその履き心地を、ぜひこの機会に体感してほしい。

商品の問い合わせ先/デサントジャパン株式会社 お客様相談室 ☎ 0120-46-0310
https://special.lecoqsportif-jp.com/craftedsneaker_1st/
 
※表示価格は税込み


写真/野町修平 文/秦 大輔