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文房具ルメ

ゲッコーデザイン デビル ディップペン

「食べ放題」という言葉の響きに、かつてほどの魅力を感じなくなったのは、いつ頃からだろうか。

常にお腹が空いていて、とりあえず安くていっぱい食べられればなんでもいいや、と思っていたあの頃がウソのように、最近では一度にたくさんの量は食べられなくなってきた。その代わりに、美味しいものをちょっとずつ味わいたいという気持ちが強くなっている。

それと同じことが、インク趣味においても当てはまるように思う。

若い人の間でも万年筆がブーム、といわれるようになって久しいが、その流行を支えている要素のひとつは間違いなく、色とりどりのインクを選ぶ楽しみだろう。ボールペンなど一般的な筆記具と違って、万年筆はインクが入っていない状態で販売されている。使う人はまず、「さぁこの万年筆にはどんなインクを入れようか」と嬉しい悩みを抱えることになるのだ。

売る側も当然そこは心得ていて、各メーカーや文房具店では趣向を凝らした美しいインクをこれでもかとばかりに取り揃えている。四季折々の自然の風景を切り取ったもの、各地の観光名所や名物になぞらえたもの、はては食べ物や動植物まで、おおよそこの世界にあるものでインクになっていない色はないのではないか?と感じるほどの充実ぶりである。

そこであれも素敵、これも綺麗、と勢いよくインクを買い集めたところでハタと正気に返るのだ。「あれ? 万年筆の本数よりインクの瓶のほうが多くない?」と。

万年筆に入れたインクを使い切るのには、毎日文字を書く習慣がある人でもそれなりに時間がかかるもの。またインクを使い切っても、別のインクを入れるためにはきちんと洗浄して乾かして、というひと手間が必要となる。でもせっかく手持ちのインクがたくさんあるのだから、その日の気分に合わせてちょっとずつ使いたい……という人にオススメしたいのが、ガラスペンという選択肢である。

ガラスペンとはその名の通り、ペン先がガラスでできたペンのこと。万年筆のように軸の内部にインクを溜める機構があるわけではなく、ペン先をインクに浸して、周囲の溝にインクを含ませて筆記するつけペンである。素材がガラスなので、使った後はサッと水で洗い流しティッシュなどで拭えば、すぐに別のインクを使えるのがいいところ。インク愛好家の増加に伴って、最近じわじわと注目度が上がっている筆記具なのだ。

しかし繊細なガラス製ゆえ、取り扱いに注意を要するという弱点もある。特に細いペンの先端部分は欠けやすく、持ち運びなどはもってのほか、というのが従来のガラスペンの常識だった。

ゲッコーデザイン デビル ディップペン

その常識を覆したのが、台湾のメーカーであるゲッコーデザインのデビル ディップペンである。画期的なのは軸とペン先を別パーツとし、ペン先をくるっとひっくり返して軸の内側に収納できるようにしたところ。デリケートなペン先を保護することで、従来は難しかった「ガラスペンの持ち運び」が可能となったのだ。持ち運びまではしないにしても、他の筆記具と一緒にざっくりとペン立てや引き出しに入れておくことができるなど、取り回しが気軽になったことは大きい。

書き心地はやや硬さがあるものの、ガラス製であることを考えれば充分に滑らかだ。つけペンというと頻繁にインクを足さなければいけないイメージがあるが、ペン先にたっぷりとインクを含ませれば、ハガキ1枚分ぐらいはひと息に書くことができる。

インクは瓶から直接つけてもいいのだが、私はスポイトで吸い出してコンタクトレンズケースに移しかえる方法を試している。瓶よりも浅いのでペン先の様子が見えやすいのと、2種類のインクをセットできるところが、気軽にインクを変えられるガラスペンの特性にマッチしているように感じられて楽しいからだ。

しかしこうも手軽にインクを「ちょっとひと口」できるようになると、ますます瓶が増えてしまうようにも思えるが……その危険性にはひとまず、目をつぶることとしたい。

1万円
https://preco-corp.co.jp/products/8616/

※表示価格は税抜き

ヨシムラマリ

ヨシムラマリ

神奈川県出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手掛けている。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。

文房具グルメとは? 価格やブランド名だけでは価値が計り知れない、味わい深い文房具の数々。フランス料理店でシャンパングラスを傾ける記念日もあれば、無性にカップ麺が食べたくなる日もありますよね? そんな日常と重ねあわせて、文房具に造詣の深い気鋭のイラストレーターが気になるアイテムとの至福のひとときをご紹介!

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